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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「5.魔女の名」

オリバーたちがシーガルンに旅立った後、イザベルは傷ついた仲間の看病をすると同時に、ローズとモニカに魔術を教えていました。それぞれに対する苦労は尽きないようですが…。

オリバーたちがシーガルンへ旅立ってから四日、イザベルはローズにみっちりと魔術(まじゅつ)指導(しどう)をしていました。とばっちりを受けてモニカも再指導(さいしどう)されています。そしてそれをマチルドがニヤニヤしながら見物しています。



攻撃魔術(こうげきまじゅつ)はある程度(ていど)、ものになってはいますが…、防御魔術(ぼうぎょまじゅつ)やその他の実用魔術(じつようまじゅつ)はまったくダメなようですね…。相手の武器を飛ばす魔術(まじゅつ)なんかは初歩(しょほ)初歩(しょほ)なんですが…。ではモニカさん、もう一度。」



「はいっ!エクスクルージョン!」



「あだっ!」



突然ラルフが叫びました。モニカはびっくりしてラルフに()()りました。



「だ、大丈夫ですか!?」



「こ、工具(こうぐ)がいきなり(おそ)ってきた…。」



「こりゃあ傑作(けっさく)だな!」



マチルドは大笑いしています。本当は人形(にんぎょう)が手に持っている(ぼう)を飛ばすはずだったのですが、近くにいたラルフが持っていた工具(こうぐ)がいきなり吹っ飛び、ラルフの頭に命中したのです。



「また失敗してしまいましたっ…。」



イザベルは困ったような笑顔を見せると、ラルフに向かってつぶやきました。



「サブサイデンス。…大丈夫ですか?」



「あ…痛みがなくなりました。今のは何の魔術(まじゅつ)ですか?」



鎮静魔術(ちんせいまじゅつ)です。だから痛みが引いたんですよ。…さあ、モニカさん、もう一度です。」



「あ、はい!エクスクルージョン!」



その時、地上からの階段をヴォルフが降りて来ました。



「おい、みんないるか?今ダナラスフォルスから…ぎゃああああっ!」



「うわっ!ヴォルフ!血まみれだぜ!誰にやられたんだ!?」



マチルドがびっくりして叫びました。ヴォルフは(うら)めしそうにイザベルを見ています。



「い、イザベル!いくら敵に用心(ようじん)しているとは言え、入った瞬間(しゅんかん)に全身から出血(しゅっけつ)するなんて(わな)は…、」



「リカバリー!…申し訳ありません、ヴォルフさん。ローズさんとモニカさんの魔術(まじゅつ)訓練(くんれん)をしていまして…。暴発(ぼうはつ)してしまったようです。今、回復魔術(かいふくまじゅつ)をかけましたので、(きず)(なお)ったかと…。」



「はあ…、はあ…、そういうことなら仕方ないな…。命懸(いのちが)けで帰ってきて、まさかここでまた命の危機(きき)にさらされるとは思わなかったよ…。」



「すみません。奥の部屋が空いています。そちらでお休みになってください。」



「ああ、そうさせてもらうよ。」



ヴォルフはよろよろと奥の方に消えていきました。イザベルは困った顔をしてモニカに向き直りました。



「…モニカさん、訓練(くんれん)成果(せいか)がまったく出ていませんよ。」



「すみません…。」



「あなたには魔術(まじゅつ)を使う際の緊張感(きんちょうかん)が足りないようです。パトリックさんと旅をしていたときにはこれほど失敗するということはなかったでしょう?」



「は、はい…。」



「それは適度(てきど)緊張(きんちょう)していたから暴発(ぼうはつ)しなかったということですよ。



…一度下がっていてください。次はローズさんです。さあ、どうぞ。」



ローズは意識(いしき)集中(しゅうちゅう)させると、つぶやきました。



「エクスクルージョン…。」



すると、ものすごく大きな音がしました。人形(にんぎょう)跡形(あとかた)もなくなっています。マチルドが目をまん丸にしました。



「うおぅ!すげぇぜ!人形(にんぎょう)がこなごなだ!」



「ローズさんは威力(いりょく)をコントロールさえできれば何とかなりそうですね…。回復魔術(かいふくまじゅつ)もなんとか成功しましたからね。」



イザベルは少し表情を(やわ)らげて言いました。



魔術(まじゅつ)をかけたネズミが元気になりすぎてあたいらを(おそ)ってきたときは大笑いしたけどな!」



マチルドがはやし立てると、ローズはムッとした表情でマチルドに指を向け、つぶやきました。



「フィクセイション…。」



「あ、あれ?こ、こいつ!ローズ!魔術(まじゅつ)かけやがったな!動けない!苦しい!」



「あらあらローズさん、仲間に魔術(まじゅつ)をかけちゃいけませんよ。」



解除(かいじょ)する…。」



「うっ、はあ…、殺す気かよ!」



マチルドがローズに飛び掛りました。二人は(ころ)がりまわって喧嘩(けんか)を始めました。



「あらあら…こうなったら収拾(しゅうしゅう)はつきませんね。モニカさん、続きをやりますよ。」



「あ、は、はい!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



奥の部屋ではヴォルフが疲れた顔をしてパトリックとレオンと話をしていました。



「…ということがさっきそこであってさ。」



道理(どうり)でさっきからバタバタと音がしていたわけだね。」



パトリックもレオンも、イザベルの治療(ちりょう)のお(かげ)でかなり回復(かいふく)していました。



「イザベルがいなきゃ、俺たち今頃死んでたぜ?」



「オリバーは攻撃魔術(こうげきまじゅつ)、イザベルは実用魔術(じつようまじゅつ)専門(せんもん)って感じだよな。もちろん二人ともお(たが)いのも出来るのはわかっているが。」



「そう言えば、リリーは元気にしてるのか?」



レオンの問いに、ヴォルフは笑って答えました。



「ああ、今はパカロン城で侍女長(じじょちょう)役目(やくめ)をしっかりとこなしている。昔からの仕事だから手馴(てな)れたもんだよ。」



台所(だいどころ)以外は、だろ?」



「ハハ、まったくだ。」



ひとしきり笑った後、パトリックが思い出したように言いました。



「それはそうと、オリバーはそろそろ戻ってくるかな?」



道中(どうちゅう)何も起こっていなければ、そろそろ戻ってくるんじゃねぇのか?馬でならそんなに時間がかかるわけでもねぇし。」



「パトリックはあの時眠っていたが、結局オリバーと一緒にペーターからの依頼(いらい)を受けるのか?」



ヴォルフがパトリックにたずねました。



「ああ、もちろんだよ。オリバーとは気心(きごころ)の知れた親友(しんゆう)だからね。」



「シーガルンのセザール国王陛下(こくおうへいか)はご無事なのか?」



今度はレオンが心配そうにヴォルフにたずねました。



「ああ、パカロンでヘルガ女王様やオットー様と一緒においでだ。オットー様とは旧知(きゅうち)(なか)だったらしく、大変(した)しくお話されておられる。」



「それなら安心だ…。」



その時、ラルフが部屋に入ってきました。



「皆さん、オリバーさんたち、帰って来ましたよ。」



(うわさ)をすれば帰ってきたな。みんな無事か?」



「ええ、皆さん無事ですが…何だか、女の子を二人連れてきましたよ。」



ラルフの言葉に三人は(おどろ)きました。



「女の子だって?」



「とにかくオリバーと話をしなければね。向こうの部屋に行こう。立てるかい?」



パトリックはレオンに手を()()べましたが、レオンは笑いました。



「大丈夫だ。もう自力(じりき)で立てる。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



パトリックたちが(となり)の大きな部屋に行くと、オリバーたちが疲れた様子で座っていました。ラルフの言ったとおり、見たことのない少女が二人いました。ヴォルフがオリバーにたずねます。



疑問(ぎもん)は浮かぶがまずは置いておいて…。キンフィールドやシーガルンでは何かわかったのか?」



「うーん…、正直(しょうじき)、相手が高度(こうど)魔術(まじゅつ)を使いこなす魔術師(まじゅつし)であること以外はわからなかったかな…。あとはその魔術師(まじゅつし)残忍(ざんにん)なやつだということ、か…。」



「でも、やっぱり魔術師(まじゅつし)だったのか?」



「ああ、それは間違いない。建物の(こわ)(かた)なんかを見ると、ところどころに魔術(まじゅつ)を使った痕跡(こんせき)があったからな。とにかくペーターの依頼(いらい)どおり、その魔術師(まじゅつし)排除(はいじょ)に向かって動き出そう。」



「相手が明確(めいかく)になっただけでも収穫(しゅうかく)、というわけか。」



「そういうことだ。まあ、魔術師(まじゅつし)がどんなやつか、なんていうことはまだまだ未知数(みちすう)なわけだが。」



「なるほどな。…それじゃあお前に別の質問(しつもん)をするよ。その可愛(かわい)らしい女の子たちは誰だ?」



今度はレオンがたずねました。



「ああ、そうだな、説明するよ。」



オリバーはチュンフェイとヨウフェイを連れてきたいきさつを話しました。



「…というわけだ。」



「なるほどねぇ…。」



「でもよぅ、チュンフェイ、だったっけ?姉さんのほう。あたいら外国人が(きら)いだっていうんなら少しやりにくいんじゃないのか?そもそも何で外国人が(きら)いなんだ?」



マチルドが首をかしげると、ヨウフェイが答えました。



「理由は二つあるヨ。一つはヨウフェイたちに(のろ)いかけた魔女(まじょ)、外国人だったネ。もう一つはヨウフェイたちの国の皇帝(こうてい)が外国人大切にしてヨウフェイたち大切にしないでこき使うネ。」



皇帝(こうてい)、ってこの国でいう王様みたいなものだよね?」



ラルフが言いました。



「本当の皇帝(こうてい)はそんな小さなものじゃないヨ。本来皇帝(こうてい)は天の神様の子供ネ。…でも今の皇帝(こうてい)は外国人ヨ。だからヨウフェイたちは皇帝(こうてい)(みと)めないネ。」



「…何だかよくわからねぇけど、面倒(めんどう)くさいんだな。」



マチルドが顔をしかめると、ヨウフェイはバカにしたように言いました。



「こんなことも理解(りかい)出来ないなんて、オマエ、頭悪いネ。」



「な、何だってーっ!?レオンと一緒にするな!」



(あば)れまわりそうになるマチルドを、オリバーは苦笑いして押しとどめました。



「まあ、落ち着けよマチルド。とにかく、すぐに俺たちを信用しろなんて言わないさ。時間をかけてお(たが)いに信頼(しんらい)を深めていけばいい。…まあ、ヨウフェイは心配なさそうだな。」



「それはそうと、ヨウフェイさんでしたっけ?あなたたちに(のろ)いをかけた魔術師(まじゅつし)の名前、わかりますか?」



イザベルがヨウフェイにたずねました。



「わかるヨ。シャロンっていう名前ネ。」



「シャロン…聞いたことがありませんね。オリバーさんやモニカさんは知っていましたか?」



「いや、知らなかった。」



「初めて聞きましたね…。」



「外国人だけど、ヨウフェイたちの言葉話すの上手かったヨ。呪文(じゅもん)もヨウフェイたちの言葉だったネ。」



修行(しゅぎょう)を向こうで()んだ、ということか…。東方世界(とうほうせかい)魔術事情(まじゅつじじょう)はまったく知らないからなぁ…。」



オリバーは困った顔をしました。ビアンカが仲間たちを見渡して言いました。



「とにかく、今回のリバー王国への襲撃(しゅうげき)黒幕(くろまく)は、今のところヨウフェイたちに(のろ)いをかけたシャロンっていう魔女(まじゅつ)であるという線が濃厚(のうこう)だからさ、協力し合っていこう、っていう話。反対意見はある?」



もちろん反対意見などあるわけがありませんでした。



予備(よび)の部屋をアリスさんたちの部屋の奥につくってありますから、とりあえずそこで寝てもらいましょう。」



ラルフが言いました。



「ならば案内(あんない)をしよう。ついてくるのだ。まずはその重そうな荷物を置くがよい。」



アリスとエミリーがチュンフェイとヨウフェイを奥の部屋へと連れて行きました。



「俺も疲れたから部屋で休ませてもらうよ。何かあったら呼んでくれ。」



オリバーも奥の部屋へと入っていきました。



「俺たちも休むッスよ。」



「そうだな。…ローズ、どうしたんだ?」



ハンスとペーターも部屋に行こうとしましたが、ローズがハンスの服の(そで)をつかみました。



「先生…アリスとずっと一緒だった上に…女の子連れてきた…。仲良さそう…。」



「え…?嫉妬(しっと)してるのか?」



ローズは(ふく)れてプイッと横を向くと、自分たちの部屋に入っていってしまいました。ハンスとペーターは思わず顔を見合わせて笑いました。

チュンフェイたちの追ってきた魔女の名は「シャロン」。まだシャロンが今回の事件を起こしたとは限りませんが、ともかく二人の仲間が新たに加わったということは間違いありません。



次話ではオリバーたちが寝床をかつてのヴォルフの宿に移します。そして、ある仲間に魔の手が忍び寄ります。どうぞお楽しみに!



ちなみに『隠れ家』には全部で六の部屋があります。真ん中の部屋が大きく、地上への階段もそこに通じているのでそこが会議室となっています。



では次話をお楽しみに!

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