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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「4.呪いの姉妹」

ペーターからの依頼を受け、オリバーは選抜したメンバーとともにシーガルン方面への調査に出かけました。キンフィールドの調査を済ませたオリバーたちはシーガルン王国の首都ハングリアを目指しています。

オリバーたちはシーガルン王国に向かって馬に乗って急いでいました。先頭のカトリーヌにはアリスとビアンカ、真ん中のアンヌにはエミリーとオリバー、そして後ろの馬にはハンスとペーターが乗っていました。アリスはオリバーがアンヌに乗ると分かった時点(じてん)でどこか(さみ)しそうに見えたような気もしますが…。



「キンフィールドにはがれきの山が残っているだけだった…。ノーザリンは何ともなかったのか?」



オリバーがエミリーにたずねました。



「ええ。(さいわ)いにも、というのは他の地方の人たちに失礼なのでしょうが、ノーザリンには動死体(どうしたい)大群(たいぐん)姿(すがた)を見せませんでした。」



「まったく、何が起こっているのかさっぱりわからないな。最近リバー王国で目立った変化みたいなものはなかったのか?」



「ありませんね…。ヘルガ女王様が王位(おうい)継承(けいしょう)して以来、国は安定し、民衆(みんしゅう)も平和に暮らしていました。」



「だとすれば、その平和を(ねた)んだ者が起こしたこと、という解釈(かいしゃく)もできるな。」



(わたくし)もてっきりギル大臣が(かげ)で動いているのかと思いました。でも…どうやらまったく関係なかったようですね。」



師匠(ししょう)!この(とうげ)()えたらシーガルンだよ!」



ビアンカがオリバーに言いました。



「だが…もう日も(しず)む。夜に(とうげ)()えるのは危険かもしれぬな。」



アリスは心配そうな顔をしています。



「キンフィールドで滞在時間(たいざいじかん)を長く取ったからな…。しかたない、よし、ふもとの村で夜を明かそう。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しかしオリバーたちが(とうげ)のふもとの村で見た光景(こうけい)凄惨(せいさん)なものでした。ハンスが思わずつぶやきました。



「村が…全滅(ぜんめつ)している…。」



村に人の気配(けはい)がないばかりか、あちこちに村人の死体が(ころ)がっています。ペーターは鼻を(おお)っています。



「何てにおいだ…。」



「どうやら動死体(どうしたい)(おそ)われたらしいな。ところどころに連中(れんちゅう)肉片(にくへん)()らばっている。」



「うえぇ…。」



その時、後ろから何かのうなり声が聞こえました。ビアンカがあきれたように言いました。



「むー、動死体(どうしたい)薄情者(はくじょうもの)だね!迷子(まいご)の仲間たちを(ほう)って先に進むなんて!」



「戦うぞ!」



「エミリー!(ほのお)()(たの)んだ!()れがカトリーヌをあやつる!」



「はいっ、お姉さま!オリバーさん、アンヌをよろしくお願いします!」



アリスとエミリーはカトリーヌに乗りました。ビアンカもハンスとペーターに声をかけました。



「ハンス!ペーター!行くよっ!」



「よっしゃあ!衛兵隊(えいへいたい)(きた)えた成果(せいか)を見せてやる!」



「俺だって修行(しゅぎょう)成果(せいか)を見せてやる!」



オリバーは後ろの方で、動死体(どうしたい)と戦う仲間たちの援護(えんご)をしました。



「ファイアーストーム!」



オリバーが叫ぶと、動死体(どうしたい)が燃え上がりました。



「今だ!(はな)て!」



「はいっ、お姉さま!」



カトリーヌに乗ったアリスとエミリーも動死体(どうしたい)()れの中を()(まわ)りながら燃える()を射てゆきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



やがて動死体(どうしたい)全滅(ぜんめつ)しました。オリバーは(つか)れからか、思わず(すわ)り込んでしまいました。ビアンカが心配そうにオリバーの顔を(のぞ)き込みます。



師匠(ししょう)、大丈夫?」



「ああ…。一応身につけたとは言え、(ほのお)魔術(まじゅつ)をここまで連発(れんぱつ)することは今までなかったからな…。専門外(せんもんがい)魔術(まじゅつ)はやっぱり体力を使うよ。」



「やはり今日はここで休んだ方がいいですね。」



「うむ。()れらも戦ったのは久し振りだ。さすがに疲れた。」



アリスとエミリーもオリバー同様(どうよう)に疲れている様子です。



()まれそうなところを探してきますね。」



ハンスはそう言って村の中を見てまわり、すぐに戻ってきました。



「少し行ったところに宿だった建物があります。人はいませんが、あまり()らされた様子もないので、寝るのには最適(さいてき)かと思います。」



「じゃあ一晩(ひとばん)そこを借りることにしよう。案内してくれ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



翌朝、オリバーたちはシーガルンへの旅を再開しました。(とうげ)頂上(ちょうじょう)につくと、眼下(がんか)にシーガルンの穀倉地帯(こくそうちたい)が広がっていました。



「この速さで行ったら首都(しゅと)のハングリアには半日もあれば着くね。」



ビアンカが遠くを見ながら言いました。



「途中の村もゆうべの村のように(おそ)われている可能性が高い。途中で補給(ほきゅう)が出来ない可能性があることも覚悟(かくご)しておこう。…じゃあ行こう。」



オリバーたちは馬を走らせ、(とうげ)を下って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



お昼過ぎにオリバーたちはハングリアの街に入りました。



「これは…ひどい。」



「キンフィールドもひどかったけど、ここに比べたら…。」



「レオンさんは住人の四割はやられたと言っていたけど…。」



街の中はどんよりとした空気に包まれていました。あちこちに死体の山が()(かさ)なっています。建物も(くず)され、真っ黒に焼けています。オリバーはじわじわとこみあげてくる(いか)りを(おさ)えながらつぶやきました。



「ここまですることはなかったはずだ…。ここまでむごいことを…。」



「とにかく、レオンの訓練場(くんれんじょう)に行ってみようよ。残っているかはわからないけど。」



ビアンカが言い、オリバーたちもそれに(したが)いました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



レオンの市民兵(しみんへい)訓練場(くんれんじょう)は今にも(くず)れそうになっているとは言え、何とか形を残していました。



「とにかく中に入るとしよう。まずは(こし)を落ち着けないとな。調査(ちょうさ)はそれからだ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ハンスが中を警戒(けいかい)しながら暗い訓練場(くんれんじょう)の中に入りました。



「誰もいないようです。逃げ出したのかな?」



ハンスが言いましたが、ペーターは絶望(ぜつぼう)したような顔をしています。



「レオンさんの弟子(でし)に限って、そんなことはしないッスよ…。だから…その…。」



全滅(ぜんめつ)した、ということも考えられる、ということだな…。」



アリスの言葉にペーターががっくりと肩を落としたその時、何かが天井(てんじょう)から降ってきました。中が暗いため、はっきりと確認(かくにん)できません。落ちてきたものは一直線にペーターに向かって(おそ)いかかってきました。



「うわっ!」



ペーターがサッとよけると、今度はその後ろにいたビアンカに向かって(おそ)いかかります。



「わっ、むー、わけがわかんない!」



ビアンカも突進(とっしん)してきたものをよけると、後ろから羽交(はが)()めにしました。



「…どうやら人間みたいだね。」



ビアンカの(うで)の中で誰かがジタバタと(あば)れています。



(はな)すヨ!(はな)すヨ!」



オリバーが魔術(まじゅつ)で、(こわ)れかかった燭台(しょくだい)に火をともしました。



「女の子だ…。」



ハンスが(つぶや)きました。その言葉通り、ビアンカに取り押さえられていたのは少女でした。オリバーが少女にたずねました。



「…見たところ、外国から来たようだな。生まれはどこだい?」



「ずーっとずーっと東の国だヨ。」



少女は答えました。



東方世界(とうほうせかい)の出身か。しゃべり方がたどたどしいわけだ。で、こんなところでいったい何をしていたんだ?」



するとその少女は力強く答えました。



敵討(かたきう)ちだヨ!」



敵討(かたきう)ちだって?」



少女はオリバーたちを見渡していましたが、笑顔を見せて言いました。



「…オマエたち、何となく信用できそうネ。ちょっと待つネ。」



少女は建物の奥の方へ走っていきました。そしてすぐに戻ってきました。もう一人の少女を連れています。



「姉さんだヨ。二人でずっと旅してここまで来たヨ。」



姉、と紹介(しょうかい)された少女は(だま)ったままです。



「…姉さんしゃべれないネ。」



「この国の言葉、ってこと?」



ハンスがたずねましたが、少女は首を振っています。



「違うヨ。しゃべれないヨ。」



ハンスは困ったように首をかしげました。



「よくわからないけど…それにしても女の子二人っきりで旅?またどうして。」



「だから敵討(かたきう)ちだヨ!ワタシたちに(のろ)いかけた悪い魔女(まじょ)、倒すネ!」



(のろ)い、だって?」



オリバーは少女の言葉にびっくりしました。



「ワタシたち、兄さんと姉さんと三人で仲良く暮らしてたヨ。でも突然悪い魔女(まじょ)が来てワタシたちに(のろ)いかけたヨ。」



(のろ)い、って、どんな(のろ)い?」



今度はビアンカがたずねました。



「姉さん、何もしゃべれなくなる(のろ)いかけられたヨ。ワタシ、何も感じなくなる(のろ)いかけられたヨ。」



「ああ、なるほど!しゃべれないっていうのはそういうことか!」



ハンスはようやく納得(なっとく)したようです。オリバーは少女にさらにたずねました。



「何も感じない、っていうのは、(いた)みとか(あつ)さとかそういう感覚(かんかく)のことか?」



「そうネ。オマエ、話わかるネ。」



「はは、そりゃどうも。で、兄さんはどうなったんだ?」



少女は途端(とたん)に悲しげな顔になりました。



「兄さん、何も出来なくなる(のろ)いかけられたヨ。息が出来なくなって苦しんで死んだヨ。死んだ後、体も行方不明(ゆくえふめい)ネ。」



「それは…()(どく)だったな。で、兄さんの(かたき)を取るためにその魔女(まじょ)を追いかけてきた、というわけか?」



「そうネ。途中で足どりわからなくなったけど、悪い魔女(まじょ)が街を(おそ)っているという話を聞いてここへ来たヨ。ここに(ひそ)んでいればきっと魔女(まじょ)(あらわ)れると思って隠れていたネ。でも来たのはオマエたちだけだったヨ。もうここにはこないかもしれないネ…。」



「…この街を(おそ)ったのが君らが追っている魔女(まじょ)だということは間違いはないのか?」



「多分間違いないヨ。ワタシたちの街を(おそ)ったときと一緒ネ。動く死体を(あやつ)って(おそ)ってきたネ。」



オリバーはしばらく考えていましたが、少女にたずねました。



「これから行くあてはないのか?」



少女は悲しそうに言いました。



「ここに長く()すぎてまた足どりがわからなくなったネ。しばらく動けないヨ。」



「…実は俺たち、この街をはじめ、こうやって動く死体に(おそ)われた街の調査(ちょうさ)をして回っているんだ。…もしよかったら、俺たちの本拠地(ほんきょち)にしばらく滞在(たいざい)しないか?もしかしたらその魔女(まじょ)共通(きょうつう)の敵になって一緒に戦うことがあるかもしれない。」



少女はびっくりした様子でしたが、すぐに笑顔を見せました。



「ウン、それいいネ。オマエたちの話も聞きたいネ。」



そう言って少女は姉に何かを話しました。姉は難しい顔をしていましたが、妹が熱心(ねっしん)説得(せっとく)して心が動いたのか、オリバーたちに(うたが)いの目を向けながらも(うなず)きました。



「姉さんも賛成(さんせい)ヨ。…姉さん、外国人が(きら)いネ。」



「そうなのか…。まあ、話はおいおい聞いていくとしよう。みんなもそれでいいな?」



「まあ、反対する理由はないしねー。少しでも仲間は多い方がいいと思うし。」



「お(たが)いにとって有益(ゆうえき)ですからね。」



ビアンカとエミリーが答えました。他の仲間も(うなず)きました。



依存(いぞん)はないな。じゃあこれからよろしく、二人とも。」



「…ヨウフェイだヨ。」



突然少女が言いました。



「ん?よ、ヨウ…?」



「名前ネ。リャン・ヨウフェイ(梁柚妃)ネ。姉さんはチュンフェイ(椿妃)ネ。」



「ああ、そうか。まだ名乗ってなかったな。俺はオリバーだ。」



「オリバー?変な名前ネ。多分ヨウフェイたちの文字では書けないヨ。」



「う、そ、そうか…。…よし、もう少しここを調査(ちょうさ)したらオーベルクの『(かく)()』に戻るとしよう。そうだな、アリスとエミリーは王宮(おうきゅう)のほうを調査(ちょうさ)してきてくれ。俺たちは市街地(しがいち)を歩いてみるよ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



人物紹介


~リャン・チュンフェイ~

・「無言(むごん)(のろ)い」

・17歳

大太刀(おおたち)で戦う。

・ヨウフェイの姉。漢字表記(かんじひょうき)は「梁椿妃」。東方世界(とうほうせかい)から魔女(まじょ)に殺された兄の敵討(かたきう)ちをするためにやってきた。「無言(むごん)(のろ)い」をかけられており、話すことが出来ない。外国人が(きら)い。基本的にぶっきらぼうで愛想(あいそう)も悪い。きつい顔立ちだが、それでも時々見せる笑顔はかわいい。女性とは思えない力で大きな大太刀(おおたち)をふるって戦う。



~リャン・ヨウフェイ~

・「無感(むかん)(のろ)い」

・14歳

暗器(あんき)で戦う。短剣(たんけん)(あつか)えるようになる。

・一人称は「ヨウフェイ」もしくは「ワタシ」

・チュンフェイの妹。漢字表記(かんじひょうき)は「梁柚妃」。東方世界(とうほうせかい)から魔女(まじょ)に殺された兄の敵討(かたきう)ちをするためにやってきた。「無感(むかん)(のろ)い」をかけられており、視覚(しかく)聴覚(ちょうかく)嗅覚(きゅうかく)以外の感覚(かんかく)がすべて麻痺(まひ)している。姉にかけられた(のろ)いの反動(はんどう)か、とてもおしゃべり。生意気(なまいき)さはマチルドと同じか、あるいはそれ以上。好奇心(こうきしん)向上心(こうじょうしん)()(あふ)れ、機会(きかい)があれば何でもやってみたいという気持ちでいる。

動死体は多くの街や村を襲い、人々を殺戮しつくしているようです。オリバーの心にはしっかりと怒りの炎が宿っています。そして予想外の仲間がオリバーたちと行動を共にするようになりました。



次話では、『隠れ家』に残っているイザベルたちのもとにオリバーたちが帰ってきます。チュンフェイとヨウフェイも仲間たちにすんなりと受け入れられるようです。どうぞお楽しみに!



ちなみにチュンフェイとヨウフェイは東方世界から三年もの歳月をかけてハングリアにたどり着いていました。小さな少女たちはさまざまな障害を乗り越え、苦労してようやくこの街にたどり着いたのです。



では次話をお楽しみに!

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