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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「2.王国の危機」

リバー王国からの救援要請のためにやってきたペーターの話を聞いて、オリバーたちは一路リバー王国を目指しました。大急ぎで旅を続け、オリバーたちは王宮のあるキンフィールドのすぐ近くまでやってきました。

オリバーたちは歩きと船で旅を続けました。そしてリバー王国の首都(しゅと)、キンフィールドの手前の(とうげ)に来ました。辺りはすっかりと暗くなってしまっています。



「オーベルクにも人影(ひとかげ)はほとんどなかった…。イザベルの薬屋(くすりや)にも人の気配(けはい)がなかったしな。」



オリバーが心配そうに言いました。



「どこか安全な場所へ避難(ひなん)したんじゃないですか?」



ハンスが言いましたが、ペーターは悲観的(ひかんてき)です。



「この状況で安全な場所なんて…そうそうないッスよ…。それに、パトリックさんたちが戻ってきませんね。」



オリバーも不安げな顔をしました。



「ああ…。俺もそれを心配してるんだ。俺の『家』からここへ来るにはこの道が一番近いはずだ。情報を伝えるために戻ってきてくれるはずだったんだがな…。」



その時、ローズがピクッと身体(からだ)(ふる)わせました。



「ローズ?どうした?」



ローズは少しおびえたように言いました。



(とうげ)の向こう側…明るい…赤い…。」



ローズの言ったとおり、頂上(ちょうじょう)の向こう側の空がどこか赤く見えます。



「本当だ…。」



「…最悪(さいあく)事態(じたい)が起こっているのかもしれない。急ぐぞ!」



四人は大急ぎで(とうげ)を上ってゆきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



頂上(ちょうじょう)に着いた時、オリバーたちは言葉を失いました。



「そんな…。」



眼下(がんか)に見えるキンフィールドの街は、真っ赤な(ほのお)に包まれていました。その火の手は王宮(おうきゅう)にも伸びていました。ペーターは気が気ではありません。



「急ぎましょう、先生!マティアス隊長(たいちょう)たちのことが心配です!」



「あ、ああ!」



彼らは大急ぎで(とうげ)を下ってゆきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



街は()(まど)う人々で大混乱(だいこんらん)していました。



「水をかけても火が消えないぞーっ!」



「早く!早く逃げろ!」



(水をかけても消えない(ほのお)魔術(まじゅつ)に違いない)



オリバーがそう思った瞬間(しゅんかん)、ペーターの力のない声が聞こえました。



「ああっ!お、王宮(おうきゅう)が…。」



ついに(おか)の上に立つ王宮(おうきゅう)も真っ赤な(ほのお)に包まれました。そこへ、一人の兵士が走ってきました。



「ペーターさん!」



「あれは、衛兵隊(えいへいたい)の兵士だ!おいっ!王宮(おうきゅう)はどうなっているんだ!」



手遅(ておく)れ…でした…。ヘルガ女王陛下(じょおうへいか)はじめ、多くの方々が火にまかれ…。(わたし)はペーターさんにこのことを伝えるようマティアス隊長(たいちょう)に言われて…。」



ペーターはその場に座り込んでしまいました。そして次の瞬間(しゅんかん)(けん)で自分の首を切ろうとしました。



「エクスクルージョン!」



オリバーはとっさに叫びました。ペーターの(けん)が遠くまで飛ばされました。ハンスはびっくりしています。



「ペーター!何でこんなことを!」



「俺のせいで隊長(たいちょう)たちが…。だったら俺も…。」



オリバーが厳しい顔で言いました。



「いいか、ペーター。よく覚えておけ。お前はマティアスの部下(ぶか)であると同時に、俺の弟子(でし)だ。お前がどこで死のうと勝手だが、俺の前で死ぬことだけは絶対に(ゆる)さないからな。」



「うわっ!危ない!」



ハンスの叫び声にオリバーがとっさに振り返ると、先ほどペーターに報告(ほうこく)をした兵士が(けん)を振りかざして(おそ)ってきているのです。オリバーはペーターを突き飛ばし、指先を兵士に向けました。しかしその時、ヒュン!という音がしました。そして兵士は地面に倒れこみました。



少し(はな)れたところに、見慣(みな)れた(かげ)がありました。



「…間に合ったようですね。」



「アリス!エミリー!」



一年半前にオリバーたちと一緒に戦った狩人姉妹(かりゅうどしまい)、アリスとエミリーが愛馬(あいば)、カトリーヌとアンヌを走らせて近づいてきました。アリスはペーターに言いました。



「死に急ぐこともないだろう、ペーター。ヘルガ女王様は生きておられる。今はパカロンに避難(ひなん)されておいでだ。」



隊長(たいちょう)は!?マティアス隊長(たいちょう)は!?」



ペーターの悲痛(ひつう)な問いに、アリスは悲しそうな顔をしました。



「…残念だが、マティアスは死んだそうだ。女王様を逃がすため、動死体(どうしたい)大群(たいぐん)の中にわずかに生き残った衛兵(えいへい)とともに残ったそうだ。衛兵隊(えいへいたい)貴様(きさま)(のぞ)いて全滅(ぜんめつ)だ。」



「じゃあ、この兵士は…。」



ハンスが倒れている兵士を見て青ざめた顔をしました。オリバーが淡々(たんたん)と言います。



「…洗脳(せんのう)されている。以前ローズがプレグーにやられたのと同じ状況だな。」



「とにかく、これからわたくしたちの『(かく)()』に案内します。さあ、乗ってください。(わたくし)たちはオリバーさんたちを(むか)えに来ました。」



エミリーが言いました。



「…ありがとう…。」



ペーターは(くや)しさを()みしめています。オリバーは(きび)しい顔をしています。



「あのマティアスが死んだなんて…信じられないな。状況を(くわ)しく教えてくれないか?」



()れも(こま)かいことはわからぬのだが、ともかくわかる範囲(はんい)で教えるとしよう。さあ、カトリーヌに乗るのだ。」



「ありがとう。」



オリバーはアリスに言われた通り、カトリーヌに乗りました。



「ローズはエミリーのアンヌに乗せてもらえよ。俺はペーターの馬に乗るから。」



ハンスの言葉にローズはコクンと(うなず)き、エミリーの愛馬(あいば)、アンヌに乗りました。ハンスもすぐにペーターの馬に乗りました。



「よし、準備(じゅんび)はいいな。行くぞ。ハアーッ!」



三頭の馬はオリバーたちがもと来た道を引き返してゆきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



アリスがオリバーに状況を説明しました。



「ヘルガ女王様、それにオットー様はパカロンのオットー様の城におられる。動死体(どうしたい)大軍団(だいぐんだん)はダナラスフォルスとキンフィールドを(おそ)った後、西の方へ侵攻(しんこう)していったようなのだ。」



「西の方…シーガルンか。」



「うむ、その可能性(かのうせい)が高い。ともかく『(かく)()』に来るのだ。皆お前たちを待っている。」



「わかった。…そうだ、パトリックとモニカを知らないか?向こうを出るとき、先に馬でここに来させたんだが…。」



「うむ、二人とも本拠地(ほんきょち)で待っている。…パトリックは満身創痍(まんしんそうい)といった感じなのだが…。」



「な、何だって!?」



オリバーは思わず声を大きくしました。



「女王様たちを逃がす(さい)衛兵隊(えいへいたい)と一緒に動死体(どうしたい)軍団(ぐんだん)と戦ったそうなのだが…ヴォルフとモニカに運ばれてきた時には生きているのが不思議というほどに(きず)ついていたのだ…。」



「そんな…。」



「マティアス隊長(たいちょう)戦死(せんし)してあのパトリックさんも瀕死(ひんし)重傷(じゅうしょう)、信じられませんね…。」



オリバーもハンスも茫然(ぼうぜん)としました。



「しかし…、こんな形とはいえまたお前に()えたことは(うれ)しいな。」



アリスが少し感慨深(かんがいぶか)げに言いました。



「はは、そうかい?俺も(うれ)しいかな。」



「何!?本当か!?お前にそう言ってもらえるとは…。」



ローズが思わずエミリーの体をギュッとつかみました。エミリーは苦笑いしてローズに声をかけようとしましたが、あるものを見つけて叫びました。



「オリバーさん!あれを!」



「どうした?…ああっ!」



エミリーが指差した方向を見て、オリバーは愕然(がくぜん)としました。一年半前にギル大臣を閉じ込めた(とう)牢獄(ろうごく)(ほのお)の中でガラガラと(くず)れていっているのです。



「あの中にギル大臣がいるはずだ…。()たして巻き込まれて死んだか、それとも上手く()()びて生きているのか…。もし生きているとしたら、かなり厄介(やっかい)なことになるぞ。少なくとも今回のことはギル大臣が計画(けいかく)したことだと考えてもいいだろう。」



「先生、様子を見に行きませんか?」



ハンスが心配そうに言いました。



「いや…。まだ俺たちも体勢(たいせい)(ととの)えていない。うかつに動くのは危険だろう。まずはエミリーたちの言う『(かく)()』に行ってからだな。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



人物紹介


~アリス・クラメール~

・「樹海(じゅかい)狩人(かりゅうど)(あね)

・26歳

弓矢(ゆみや)で戦う。短剣(たんけん)も少しだけ(あつか)えるようになる。

・一人称は「()れ」

・ノーザリン地方の樹海(じゅかい)狩人(かりゅうど)。エミリーの姉。とても凛々(りり)しい女性。尊大(そんだい)な話し方は相変わらず。普段は樹海(じゅかい)()りをすると同時に、樹海(じゅかい)の近くの孤児(こじ)たちの世話(せわ)をしている。愛馬(あいば)の名前は「カトリーヌ」。オリバーと久しぶりに再会できたせいか、以前のようにオリバーに対する好意(こうい)(かく)すようなことは減った。意外と精神面(せいしんめん)がもろい面も妹離(いもうとばな)れできていない面も相変わらず。



~エミリー・クラメール~

・「樹海(じゅかい)狩人(かりゅうど)(いもうと)

・19歳

弓矢(ゆみや)で戦う。短剣(たんけん)も少しだけ(あつか)えるようになる。

・一人称は「(わたくし)

・ノーザリン地方の樹海(じゅかい)狩人(かりゅうど)。アリスの妹。大人しく礼儀(れいぎ)正しい女性。動物たちの世話をするのが得意だし、好き。アリスとともに孤児(こじ)たちの世話(せわ)もしている。愛馬(あいば)の名前は「アンヌ」。少し過保護気味(かほごぎみ)な姉に少し困っている。街の中を歩くことにはかなり()れてきたけれど、それでもまだよく迷子(まいご)になる。少しだけ年下には(きび)しい面も。

オリバーたちが到着すると同時に、キンフィールド城は焼け落ちてしまいました。しかし何とかアリスたちの到着が間に合ったおかげで女王様たちの安否の確認はできました。はたして今回の件の首謀者はギル大臣なのか、それとも…。



次話ではオリバーたちが『隠れ家』に到着します。そこではかつて苦楽を共にした懐かしい仲間たちが待ち構えています。そして、ペーターがオリバーにある依頼をするようですが…どうぞお楽しみに!



ちなみにこのキンフィールドの大炎上で、キンフィールドの住民の3割が命を落としました。あとでこの事実を知ったオリバーたちは激怒したようです。



では次話をお楽しみに!

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