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第3話:天才ハッカーの強襲(後編)

「……自衛隊? 話が早すぎるわ。如月重工のロビーにはもうマスコミがいるのよ。強引な封鎖なんてできるはずが――」


怜奈の言葉を遮るように、マンションの屋上付近に重低音のローター音が響き渡った。

 窓の外、ホバリングする自衛隊の輸送ヘリから、黒いタクティカルウェアに身を包んだ一団がロープ一本で降下してくる。


「お嬢様、下がってください!」


山崎が前に出るが、和也は冷静にその肩を叩いた。


「待て、山崎さん。敵意はない。……いや、少なくとも『射殺』する気はないみたいだ」


和也がそう断言した瞬間、ベランダの窓が外から静かに開けられた。

 音もなく室内に侵入してきたのは、一人の女性自衛官だった。

 短く切り揃えられた黒髪に、一切の感情を排した鋼のような瞳。無駄のない動きで和也の前に立つと、彼女は腰のホルスターに手をかけたまま、低く通る声で告げた。


「陸上自衛隊・中央即応連隊、東條凪二等陸尉です。……佐藤和也氏、および如月怜奈氏。貴方方の身の安全を確保し、政府直轄の施設へと護送する命令を受けています」


彼女こそが、のちに和也の盾となる三人目のヒロイン、**東條凪とうじょう なぎ**だった。


「護送? 拘束の間違いじゃないのか? 俺たちは犯罪者じゃない」


「……現在の貴方の価値は、一国の国家予算に匹敵します。放置すれば、数時間以内に周辺国の工作員によって、このマンションごと消滅させられる可能性がある。これは『保護』です」


凪の言葉に嘘はなさそうだった。エリスが脳内で『彼女の心拍数に揺らぎなし。極めて忠実な、軍事機械に近い精神構造です』と補足する。


「お断りよ。如月重工は民間企業。政府の操り人形になるつもりはないわ」


怜奈が毅然と言い放つが、凪は表情を変えない。


「……拒否権はありません。すでに、この区画一帯は『演習』名目で完全封鎖されました。佐藤氏、大人しく同行を」


凪の手が和也の腕に伸びる。

 だが、その手が触れる直前、青白いスパークが二人の間に走った。


「――ッ!?」


凪が反射的に跳び退く。彼女の鋭い反射神経が、眼前に展開された「見えない障壁」を察知していた。


『マスター。失礼な個体ですね。許可なくマスターの体に触れることは、銀河法典第……ええい、面倒です。とにかく、私のマスターを連れ去ることは許可しません』


和也の肩の上に、エリスのホログラムが浮かび上がる。


「な……ホログラム? 投影機はどこに……」


凪の瞳が初めて驚愕に揺れた。自衛隊の最新装備を熟知している彼女でも、何もない空間から、これほど鮮明な自律AIが語りかけてくる光景は想定外だった。


「東條さん。あんたたちの『保護』は受けない。だが、これからの日本に、あんたみたいな腕のいい人材が必要なのは確かだ」


和也はエリスの障壁を解き、凪の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「俺は、政府の道具にはならない。……だが、俺の『専属警護』としてなら、雇ってやってもいい。自衛隊の給料の十倍は出す。どうだ?」


「……正気ですか。私は命令に従う身です。買収など――」


「命令を下している連中に伝えてくれ。俺を無理やり連れて行くなら、今この瞬間、日本の全通信インフラと金融システムを『停電』させる、とな」


和也がスマホを一タップすると、凪が持っていた無線機から、防衛省幹部の悲鳴のような通信が漏れ聞こえてきた。

『東條、待て! 中止だ! 総理官邸のシステムがハックされた! 全員撤収しろ!』


凪は呆然としたまま、目の前の「冴えないはずのエンジニア」を見つめ直した。

 圧倒的な技術力。そして、一国を人質に取るような大胆不敵な度胸。


「……任務内容を変更します。私は、貴方が『日本にとっての脅威』であるかどうかを判断するまで、貴方の側に留まる。……いいですね、佐藤和也」


「ああ、歓迎するよ。……さて、これで経営担当、ハッカー、そして護衛が揃ったな」


和也は、ゴミ袋から這い出してきた結衣、不服そうな怜奈、そして困惑する凪を見渡し、不敵に笑った。


「エリス。次は、何を作る?」


『マスター。資金も人材も揃いました。……まずは、この脆弱な島国に「不落の要塞」と「無限のエネルギー」を与えてやりましょう』

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