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第3話:天才ハッカーの強襲(前編)

如月重工の本社ビル。かつては老朽化した大企業の象徴だったその場所は、わずか数日で「世界の中心」へと変貌していた。

 ロビーには世界中の報道陣と、提携を求める企業の代表者が詰めかけ、ビルの周囲は和也の安全を確保するための警備員(と、エリスの不可視の防衛網)で固められている。


だが、そんな物理的な防壁を嘲笑うかのように、「それ」は音もなく侵入してきた。


「――っ? 会長、スマホの調子が……」


最上階の会長室。怜奈が眉をひそめて自分の端末を見せた。

 画面には、先ほどまで表示されていた経営指標ではなく、不気味なピエロのアイコンが踊っていた。


『マスター。面白いお客様です。この星のネットワークを介して、私の末端カーネルにまで干渉しようとする個体を確認しました』


和也の脳内に、エリスの楽しげな声が響く。


「エリスをハッキングしようっていうのか? この地球の技術で?」


『はい。もちろん、私本体には指一本触れさせませんが……このハッカー、なかなかやります。私のダミー・ファイアウォールを、この星の既存の論理ロジックではない「直感的なプログラム」でバイパスしてきました』


和也がデスクの上のホログラムを操作すると、攻撃元のコードが視覚化された。

 それは、既存のどのコンピュータ言語にも似ていない、まるで芸術品のような複雑な数式の羅列。

 

「……榊結衣か」


和也は、エリスが事前にリストアップしていた「地球上で最も危険な個人」の一人の名を呟いた。


その頃、都内にある築古のワンルームマンション。

 遮光カーテンで閉ざされた室内で、山積みのエナジードリンクに囲まれた少女、榊結衣は、青白いモニターの光に顔を照らされていた。


「……あはっ、見つけた。佐藤和也、あなたの『神様』の正体」


彼女の指は、まるでピアノを弾くかのように高速でキーボードを叩き続けている。

 彼女が狙っているのは、如月重工の資金でも、バッテリーの設計図でもない。

 和也のスマホの奥底に潜む「未知の知性エリス」そのものだった。


「これ、AIじゃない。宇宙人の遺産? それとも未来人の贈り物? ……どっちでもいい。こんなに綺麗なコード、私が独り占めしなきゃダメでしょ」


結衣の瞳が、狂気的なまでの知的好奇心で輝く。

 彼女は、エリスがわざと残した「隙」を、罠だと知りながら猛スピードで突き進んでいく。


如月重工の会長室。

 和也は、デスクに映し出されたピエロのアイコンに向かって語りかけた。


「聞こえてるんだろ、榊結衣。……俺の技術に興味があるなら、画面越しじゃなく直接会いに来い。それとも、自分から仕掛けておいて、顔を出すのが怖いのか?」


一瞬、ピエロの動きが止まった。

 次の瞬間、スピーカーから合成された少女の声が響く。


『……挑発、乗ってあげる。でも、会いに行くのは「私」じゃない。佐藤和也、あなたの「常識」が壊れる音、聞かせてあげる』


「何?」


『あなたの自慢のバッテリー……その制御OSに、ちょっとした「贈り物」を送っておいたから。あと十秒で、如月重工のデモ機は全部ガラクタになるよ』


「エリス!」


『マスター、問題ありません。彼女の「贈り物」は確かに独創的ですが……。ああ、なるほど。これは面白い。彼女、ウイルスを「物理的な振動」に変換して、バッテリーの分子構造を自壊させるプログラムを組んだようです』


地球の技術レベルを遥かに超越した、発想のチート。

 和也は冷や汗を流しながらも、口角を上げた。


「……ますます気に入った。エリス、彼女の場所を特定しろ。逃がすなよ」


『既に住所、住民票、ついでに彼女が昨日ネットショッピングで注文した「猫耳ヘッドフォン」の配送状況まで押さえています。……マスター、お出迎えの準備を』


「ああ。……怜奈、車を出してくれ。今度の行き先は、世界一生意気な天才少女の隠れ家だ」


和也は、ジャケットを羽織って部屋を飛び出した。

 技術チートを巡る戦いは、ついに「電脳の歌姫」との直接対決へと発展する。

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