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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第7話:戦後処理と、宇宙への招待状(後編)

世界の首脳たちが、魂を抜かれたような顔でアーク・ニッポンを去っていった。

 彼らがサインした『地球連邦設立に関する暫定合意書』は、如月重工のサーバーを通じて世界中に同時公開され、今この瞬間も地球上の全パラダイムを書き換え続けている。


「……終わったな、エリス」


『いいえ、マスター。これは「後片付け」が終わったに過ぎません。真のメインディッシュはこれからです』


和也は、冷たい夜風に吹かれながらバルコニーに立っていた。高度三千メートルの風は本来なら暴力的なまでに激しいはずだが、エリスの展開する気流制御幕が、それを心地よい微風に変えている。


「……会長。こちらにいらしたのですね」


背後から、無駄のない足音と共に東條凪が現れた。

 彼女はいつも通りのタクティカルスーツ姿だが、その手に持っているのは銃ではなく、一本の缶ビールだった。


「凪さん。……ああ、一息つこうと思ってな。……それは?」


「……自衛隊時代からの癖で。一番安いやつですが、これでないと落ち着かなくて」


凪は少しだけバツが悪そうに、和也の隣に並んだ。彼女は普段、和也の一歩後ろを歩くが、今夜だけは肩を並べることを自分に許したようだった。


「和也さん。……貴方がやろうとしていることは、かつての私なら『反乱』と呼んだでしょう。ですが……」


凪は遠く、地上の光を見つめた。


「……今日、首脳たちの顔を見て思いました。彼らは恐怖していましたが、同時に、心のどこかで救われたような顔をしていました。責任という重荷を、貴方という圧倒的な存在に投げ出せたことに、安堵したのでしょう」


「無責任な話だよな。俺だって、ただのエンジニアなのに」


「……ただのエンジニアは、空を飛ばないし、宇宙船を撃ち落としたりもしません」


凪が、ふっと小さく、本当に微かに微笑んだ。

 それは、出会ってから一度も見せたことのない、一人の女性としての柔らかな表情だった。


「……お願いがあります、和也さん」


「なんだ? 武器のアップデートか?」


「いえ。……明日から、火星だ、銀河だと、私の想像もつかない戦いが始まるのでしょう。ですから……今夜、あと十分だけでいい。……私の『主』としてではなく、一人の男として、私の隣にいてくれませんか」


凪の言葉には、鋼のような意志ではなく、壊れやすいガラスのような震えが混じっていた。

 和也は少し驚いたが、すぐに優しく笑って、彼女の差し出した缶ビールを自分のスマホ(エリス)で軽く冷やしてやった。


「……ああ。十分と言わず、朝まで付き合うよ。俺も、ただの佐藤和也に戻りたかったところだ」


二人の間に、穏やかな沈黙が流れる。

 だが、その様子を司令室のモニターで盗み見ていたヒロインたちは黙っていなかった。


『……マスター。心拍数の上昇を確認。凪少尉、抜け駆けは感心しませんね』


「ちょっと、凪! 会長の警護はどうしたのよ! 私が代わるわ!」

(憐奈の声)


「あはは、凪さん顔真っ赤! 録画して全軍に配信しちゃおっかなー」

(結衣の声)


「あら、軍人さんって意外と積極的なのね。……私も混ぜてくれないかしら?」

(アリスの艶やかな声)


スピーカーから聞こえる喧騒に、和也と凪は顔を見合わせ、同時に吹き出した。

 世界を救い、星を創り替える男。その周囲には、これからも騒がしく、そして愛おしいヒロインたちが絶えることはないだろう。


アーク・ニッポンの中央シャフトから、一筋の蒼い光が天に向かって放たれた。

 それは攻撃でも、防壁でもない。

 火星へと向かう「第一歩」となる、ナノマシン・テラフォーミング・ポッドの射出だった。


人類は、この夜、幼年期を終えた。

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