第6話:地球の反撃、銀河の沈黙(中編)
白銀の巨艦。それは連合艦隊のどの空母よりも巨大で、存在自体が空間を歪めているかのように、周囲の光を屈折させていた。
アーク・ニッポンの司令室には、心臓を直接掴まれるような重低音の振動が響き渡る。
「……うそ。あんなの、物理法則が通用してないじゃない」
結衣の指が止まっていた。モニターに表示される数値が「測定不能」で埋め尽くされている。彼女の天才的なハッキング能力をもってしても、その艦を制御するOSの入り口すら見つけられない。
『マスター、退避プロトコルを。……あれは帝国の「審判艦」です。彼らは未開惑星の文明レベルを監視し、規定を超えた技術の萌芽を確認した場合……その星ごと「初期化」します』
エリスの声に、かつてない悲痛な響きが混じる。彼女にとって、和也との日々は帝国に対する「叛逆」そのものだったのだ。
「初期化……。それって、日本を、地球を滅ぼすってこと?」
怜奈が和也の腕を強く掴んだ。和也は無言で、宇宙から降り立つその巨艦を睨み据えた。
「させるかよ。……エリス、俺たちの『日本改造計画』はまだ始まったばかりだ。あんなデカいだけの鉄屑に、俺たちの未来を決めさせてたまるか」
「会長、指示を。……命に代えても、時間を稼ぎます」
凪が和也の前に立ち、エリスが作り上げた重力偏向式の特殊近接兵器を抜刀した。だが、アリスは冷ややかに首を振る。
「……無理よ。相手は文字通り『星を壊す』力を持っている。……でも、和也。貴方のそのスマホとエリス、そして『日本中のエネルギー』を一つに繋げたら……あるいは、針の穴を通すような勝機があるんじゃないかしら?」
「日本中のエネルギーを……?」
『……! マスター、アリス・ブランシュの提案は論理的です。現在、日本各地に配布された常温核融合チップは、全て私のネットワークで繋がっています。これら数億個の出力を一時的にアーク・ニッポンの主砲へとバイパスすれば……帝国のシールドを貫通する一撃が撃てます!』
「よし、やるぞ。……結衣! 全国の核融合チップの全出力を、この要塞へ転送しろ。システム制御は俺がやる!」
「了解っ! ……でも和也くん、そんなことしたら、和也くんの脳がその膨大なデータ量に耐えられないよ! 私が中継になる。私の脳を、エリスのサブプロセッサとして使って!」
結衣が猫耳ヘッドフォンを投げ捨て、和也のスマホに有線接続を試みる。
怜奈は即座に指示を飛ばした。
「如月重工、全リソースを転送プログラムの安定化に回して! 凪さんは和也さんのバイタル維持、アリスは外部からの干渉を遮断! ……行くわよ!」
和也を中心に、4人のヒロインが円陣を組むように並んだ。
和也がエリスのコアへと意識をダイブさせると、日本中の「光」が、太い血管のようにアーク・ニッポンへと収束していくのが見えた。
『マスター……私と、一つになってください。地球の、いえ、日本の全ての意志を……その指先に!』
アーク・ニッポンの中心部が、眩い黄金色の輝きを放ち始める。
それは、ただのエネルギーではない。和也が変えた日本の、人々の生活と希望が形となった「光の奔流」だった。
「――ぶっ飛べ、銀河の遺物!!」
和也の叫びと共に、アーク・ニッポンの主砲から、星をも貫く極大の閃光が放たれた。




