第6話 倉庫に残ったもの
倉庫は、街外れにあった。
人の流れから外れた場所。
使われなくなった建物が点在し、風が吹くたびに乾いた音が鳴る。
「嫌な場所だな」
リオが小さく呟く。
「理由は?」
「説明できるなら、もう帰ってる」
『感覚的警戒は有効です』
(珍しく同意見だな)
ラウルは倉庫の並ぶ一角を見渡した。
昼間だというのに、影が濃い。
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「ここだ」
リオが立ち止まる。
依頼書に書かれていた番号と、扉に打たれた古い札が一致していた。
外見は、ただの古倉庫。
だが――。
『周囲の魔力反応は低水準』
(低すぎるな)
ラウルは微かな違和感を覚える。
人が使う場所にしては、静かすぎた。
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扉は、鍵がかかっていなかった。
「不用心だな」
「雑用屋が来る予定だったからだろ。
それに……」
リオは言葉を切り、扉を押した。
ぎい、と鈍い音。
埃の匂いが、外へ流れ出す。
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倉庫の中は薄暗い。
だが、荒らされた形跡はない。
積まれた木箱。
壁際に残る荷車の跡。
「運び出す途中で止まってる」
「急だったってことか?」
「たぶんな」
『人為的介入の可能性が高いです』
(やっぱり)
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ラウルは、床に目を落とした。
「……足跡がある」
いくつかの靴跡。
だが、それらは途中で唐突に消えていた。
「消えた……?」
リオが眉をひそめる。
「転移系か?」
『転移反応は確認されません』
(じゃあ、どうやって)
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そのとき。
空気が、わずかに歪んだ。
耳鳴りのような感覚。
背筋を撫でる、冷たいもの。
「リオ」
「……ああ」
二人は同時に気づいていた。
『警告。未知の干渉を検知』
(来る)
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倉庫の奥。
木箱の陰で、何かが動いた。
音は小さい。
だが、生き物のそれだった。
呼吸のような、擦れるような――。
「はは……」
リオが低く笑う。
「やっぱり、ただの噂じゃなかったな」
「引くか?」
「……いや」
リオは一歩、後ろに下がる。
「兄貴分としてはさ、
前に出るより、無事に帰すほうが仕事だ」
『連携判断は妥当です』
(助かる)
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影が、ゆっくりとこちらへ滲み出す。
姿はまだ見えない。
だが確実に――“こちらを見ている”。
『戦闘の可能性あり。準備を推奨』
ラウルは静かに息を整えた。
(深追いはしない。
でも、見過ごすわけにもいかない)
噂は、もう噂ではない。
二人は、
この街の裏側へと足を踏み入れていた。
戻れないと知りながら。




