第2話 追われる情報屋と、割に合わない依頼
バレスティア王国辺境。
王都ほどの華やかさはないが、商人と旅人が行き交う辺境の交易都市がそこにあった。
朝の市場は活気に満ち、露店の呼び声が絶えない。
「……平和だな」
『同意します。平和は良いことです』
「でもこういう日は、大抵ろくなことが起きない」
『その発言自体が、因果的には不吉です』
ラウル・アルトリアは肩をすくめ、露店の並ぶ通りを歩いていた。
今日は雑用帰り。特に危険な予定はない。
――はずだった。
「どけぇぇぇっ!!」
背後から怒鳴り声が飛ぶ。
次の瞬間、人混みを割るように一人の若い男が突っ込んできた。
「うわっ!?」
反射的に体をずらす。
男は紙一重ですり抜け、そのまま駆けていく。
年の頃は二十歳前後。
軽装だが、目だけは異様に鋭い。
「待てコラァ!!」
続けて、武装した男たちが三人。
明らかに市場向きではない。
「……ノート?」
『状況解析。
逃走者一名、追跡者三名。
逃走者は非戦闘員寄りです』
「だろうな」
ラウルがそう呟いた瞬間。
「そこの兄ちゃん! ちょっと手ぇ貸してくれ!!」
逃げていた男が、なぜか振り返って叫んだ。
「おい!」
『選択肢提示。
一、無視。安全。
二、介入。面倒事が発生します』
「二で」
『……即断ですか』
「今さらだろ」
追手の一人が剣を抜いた、その瞬間。
ラウルは正面から行かない。
一歩横へ出て、足を払う。
「ぐっ!?」
体勢を崩したところへ、肘を鳩尾へ叩き込む。
『重心、後方。今です』
「了解」
派手な魔法も剣技もない。
ただ、体の使い方とタイミングだけ。
一人、沈む。
残り二人が一瞬ひるんだ。
「……魔力を感じないぞ」
「どういうことだ?」
『魔力感知に反応しない点が、判断を遅らせています』
「便利だな、それ」
ラウルは距離を詰め、もう一人の懐へ入る。
剣を振り上げる前に、手首を打ち落とす。
最後の一人は、完全に戦意を失っていた。
「……撤退だ!」
男たちは人混みに紛れて消えた。
「はぁ……助かった……」
逃げていた若い男が、その場にしゃがみ込む。
「で、何したんだ?」
「聞かないでほしいけど、どうせバレるから言うね」
男は苦笑して立ち上がった。
「俺、情報屋。名前はリオ」
『登録完了。
情報屋リオ。年齢推定二十歳前後。
危険度:中』
「情報屋が追われるって、ありがちな話だな」
「うん! 今回はちょっと深掘りしすぎた!」
やけに明るい。
ラウルはため息をついた。
「……割に合わないな」
「え?」
「助けた俺が」
そう言いながらも、ラウルは少し笑っていた。
『否定します。
あなたは今、わずかに高揚しています』
「うるさい」
こうして、
ラウル・アルトリアの日常に、
厄介で、しかし使えそうな情報屋が一人、加わったのだった。




