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第12話 彼女は、こちらを見ていた

辺境の街は、今日も平穏だった。


 表通りでは露店が並び、子どもたちが走り回り、酒場からは昼間だというのに笑い声が漏れてくる。

 ――少なくとも、表向きは。


「倉庫街の件、もう噂になってるぞ」


 リオが歩きながら言った。


「影が消えた」「魔物じゃない」「人為的だ」

 尾ひれはついていたが、本質は外していない。


「情報屋の仕事が増えそうだな」


「冗談。こういう噂は“もっと厄介なの”を呼ぶ」


 リオはちらりとラウルを見る。


「……お前も含めてな」


「便利屋だって言ってるだろ」


「はいはい」


 軽口を叩きながらも、リオの視線は鋭かった。

 倉庫街の一件以来、この街の空気が少しだけ変わっている。


 ――見られている。


 ラウルも、それを感じていた。


『視線を検出』


(どこから?)


『正面。距離、約三十』


 人混みの向こう。

 露店と露店の隙間、その影。


 そこに――彼女はいた。


 深い色の外套に身を包み、フードを目深に被っている。

 だが、視線だけは隠していない。


 まっすぐ、こちらを見ていた。


「知り合いか?」


 リオが気づく。


「いや」


 ラウルは短く答えた。


 だが、目は逸らさない。


 彼女は逃げなかった。

 視線が合ったまま、数秒。


 そして――静かに、人混みの中へ溶ける。


「……なんだ今の」


「さあ」


 だがラウルは、無意識に彼女の消えた方向を記憶していた。


『敵意はありません』


(分かってる)


『ただし――』


(ただし?)


『高度な観察意図を感じます』


 ラウルは、わずかに口角を上げた。


(面倒なのが来たな)


 だが、不思議と悪い気はしない。


 倉庫街で感じた“何か”が、線になり始めている。

 この街で起きている異変は、偶然じゃない。


 そして。


 それを知り、なお近づいてくる人間がいる。


「リオ」


「なんだ?」


「しばらく、街から目を離すな」


「は?」


「噂は、まだ終わってない」


 ラウルの視線は、もう一度だけ人混みの向こうを追った。


 彼女は、こちらを見ていた。

 ――最初から。


 それが、ただの偶然でないことだけは、確かだった。

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