第10話 静かな場所ほど、信用するな
夜の倉庫街は、昼間よりもずっと正直だった。
隠す気もない悪意が、暗闇のあちこちに沈んでいる。
「……今日は、妙に静かだな」
リオが小さく呟く。
「騒ぎがあった後だからな」
ラウルは歩みを止めずに答えた。
足音を殺す必要はない。ここでは、隠れる気のある連中ほど目立つ。
『周囲警戒を推奨します』
(わかってる)
ノートの声は、いつもより淡々としていた。
倉庫の影から、気配がひとつ、またひとつと浮かび上がる。
「……来たか」
リオが息を吐く。
「数は?」
「三。いや、四だな」
ラウルの視線は、すでに全体を捉えていた。
『敵性反応、四。
いずれも武装済み。戦闘経験あり』
(プロか)
『少なくとも、昨日の影よりは』
ラウルは軽く肩を回した。
「ラウル」
「ん?」
「今回は俺が前に出る」
リオの声は冗談めいていない。
「情報屋なりの仕事ってやつだ」
「無茶はするな」
「お前にだけは言われたくねえ」
二人は、自然に左右へ分かれた。
最初に動いたのは、敵のほうだった。
短剣が飛ぶ。
同時に、横から二人。
――だが。
ラウルは半歩ずれただけで、それをやり過ごす。
拳が、最短距離を描いた。
骨が鳴る音。
一人が崩れ落ちる。
『一名、戦闘不能』
(早いな)
『合理的です』
背後から迫る気配。
ラウルは振り向かない。
リオが、そこにいた。
「情報屋、なめんな」
煙玉が弾け、視界が一瞬白む。
その隙に、敵が二人、地面に伏した。
残った最後の一人が、後退る。
「……話が違うぞ」
「だろうな」
ラウルが一歩、前へ出る。
「誰に雇われた?」
男は歯を食いしばり――
次の瞬間、気絶した。
『尋問不要と判断』
(助かる)
静寂が戻る。
リオは深く息を吐いた。
「……なあ」
「なんだ」
「お前、やっぱおかしい」
「今さらだろ」
リオは苦笑した。
「でもまあ……」
一拍置いて、言う。
「一緒にいると、死ななそうだ」
『肯定的評価と推定』
(そうかもな)
夜風が、倉庫街を抜けていく。
だがラウルは感じていた。
これは終わりじゃない。
ただの入口だ。
そして――
『次段階への移行を確認』
ノートの声が、ほんのわずかだけ、熱を帯びた気がした。
(……ああ、始まったな)
噂はもう、完全に動き出している。




