日曜日
日曜日。最後の日。
午後、俺たちは外に出た。二人で。公園まで。
ベンチに座る。
「そういえば」と妹が言う。
「お兄ちゃんは、いつか、また働くつもり?」
ハローワークの封筒のことを思い出す。
「分からない」
「そっか」
妹は空を見上げる。
「私はね、多分、続ける。仕事」
「そうか」
「でも、変える。誰の顔も見えない仕事、やめる。笑顔が見える仕事、探す」
彼女は俺を見る。
「お兄ちゃんも、考えたら? お兄ちゃん、料理うまいし、人の世話も得意だし」
「...でも」
「でも?」
「お金、もらってないじゃん」
妹は少し考える。
「それはそう。お金、必要だよね。私だって、給料なかったら困る」
「だろ?」
「でも」
彼女は続ける。
「お金のために、誰の顔も見えない仕事するのと、顔が見える仕事してお金もらうのと、どっちがいい?」
「...それは」
「順番の問題だと思うの。まず、誰かの顔が見える。笑顔が見える。それから、それをどうお金に換えるか考える」
妹は公園で遊ぶ子どもたちを見る。
「逆だと、辛いんだよ。お金のために、顔も見えない仕事してると」
彼女の声に、実感がこもっている。
「お兄ちゃんは、今、顔が見えてる。田中さん、お母さん、私。次は、それをどうするか、だと思う」
「...どうやって?」
「分かんない。でも、方法は、きっとある。焦らなくていい」
妹は笑う。
「まず、認めることから。お兄ちゃん、人の役に立ってるって」
沈黙。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「無職、あるいは労働について」
「...何?」
「お兄ちゃん、無職。でも、私より、ちゃんと働いてるのかもね」
妹は立ち上がる。
「『か』じゃなくて、『あるいは』。どっちでもいい、っていうか、どっちも、っていうか」
彼女の言葉の意味が、完全には分からない。
でも、何となく、分かる気がする。
無職、あるいは労働。
その境界は、曖昧だ。
公園を出る。コンビニに寄る。
妹が「アイス食べたい」と言ったから。
アイスを選ぶ妹の背中を見ながら、俺は思う。
これも、労働なのかもしれない。
一緒にいること。気にかけること。支えること。
お金は発生しない。でも、何かが生まれている。
関係。絆。日常。
そして、もしかしたら、価値。
家に帰る。
「ただいま」と妹が言う。
「おかえり」と俺が返す。
久しぶりの、この会話。
自然だ。




