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無能だと追放された俺、実は神々の隠し子でした〜辺境でスローライフしてたら、気づけば世界の中心に〜  作者: しげみち みり


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第9話「百の軍勢、祠を囲む」

 夜明け前の森は、いつになく張り詰めていた。

 まだ星が残る空に、甲冑の音が微かに響いている。王都から差し向けられた百の軍勢が、森を包囲しつつあるのだ。


 焚き火を囲んで集落の面々が集まっていた。老農夫は震える手で鍬を握り、孤児たちは石や木の枝を持ち、傭兵は剣を磨いている。異国の学者は何度も呪文の巻物を読み返し、カエルは竪琴を抱えて静かに弦を爪弾いた。

 その音が恐怖に縛られた心をわずかに解きほぐしていた。


 アルトは祠の前に立ち、人々を見回した。

 皆、怯えている。だが逃げようとはしない。

 ここに集まったのは、それぞれに行き場を失った者たち。だからこそ、この森を最後の居場所と信じている。


「聞いてくれ!」


 アルトは声を張った。

 掌がじんと熱を帯び、言葉に力を与える。


「王都は俺を異端と呼んだ。森を怪物と決めつけ、焼き払おうとしている。でも違う! この森は俺たちを生かしてくれている。祠は傷を癒やし、土は食を与え、川は水をくれる。ここは呪いなんかじゃない!」


 人々の視線が彼に集まる。

 リィナが前に出て、槍を掲げた。


「灰狼族の誇りにかけて言う! この森は生きている。アルトの手に応え、我らを守ってくれる。ならば群れは群れを守るだけだ!」


 歓声が広がった。恐怖に震えていた孤児たちも声を上げ、老農夫も鍬を掲げた。

 カエルが竪琴を鳴らし、歌を紡ぐ。


「——異端と呼ばれし者、光を纏いし者。

 追放の烙印は偽り、真実は森と共に在る」


 歌に乗せられるように、皆の士気が高まっていった。


 やがて、森を揺るがす軍靴の音。

 鎧に身を包んだ兵士たちが松明を掲げ、祠を中心とする集落を取り囲んだ。

 先頭には、黒い外套をまとった騎士団長が立っていた。


「異端者アルト=フェルド! 国王の名において告げる。

 その身を差し出し、祠を明け渡せ! さもなくば、ここにいる者すべてを討つ!」


 鋭い声が森に響く。人々の顔に恐怖が戻りかけた。

 アルトは一歩前に出て叫んだ。


「俺はここを渡さない! たとえ異端と呼ばれようと、この森と仲間を守る!」


 その瞬間、祠が淡く輝いた。芽が一斉に揺れ、森の木々がざわめく。


 戦いは始まった。


 兵士たちが突撃し、矢が雨のように降り注ぐ。

 だが森の枝葉が伸び、矢を弾いた。根が地面から突き上がり、兵士たちの足を取る。

 老農夫が鍬で兵の足を払う。孤児たちは石を投げ、傭兵は剣を振るって敵を薙ぎ倒した。


 リィナは狼のような咆哮を上げ、槍を振るう。

 その姿はまるで群れを率いる女王のようだった。


 アルトは祠の前で祈り続ける。

 掌から溢れる光が土を走り、森全体を活性化させる。倒れた仲間の傷を癒やし、敵の武器を錆びさせ、炎を吸い取る。


「……これが俺の力……!」


 だが、黒い外套の騎士団長は冷笑した。


「やはり噂は真実だったか。森を操る異端……ならば、その力ごと焼き払う!」


 彼が剣を掲げると、背後の魔導師たちが呪文を唱え始めた。

 空気が震え、炎の奔流が森を包もうとする。


「アルト!」リィナが叫ぶ。


 アルトは歯を食いしばり、両手を掲げた。

 光が祠から奔流のようにあふれ、炎と衝突する。

 轟音が森を揺らし、夜が昼のように輝いた。


 炎と光がぶつかり合い、爆ぜる。木々が震え、土が裂け、人々は必死に身を守った。


「まだだ……俺は負けない!」


 アルトは立ち上がり、さらに祈りを捧げる。

 光は炎を押し返し、魔導師たちの呪文を弾いた。

 兵士たちが次々とひるみ、恐怖に駆られて後退する。


 戦いのさなか、カエルの歌声が響いた。


「——異端の烙印は虚ろ。真実はここにある。

 追放されし者こそ、王国を救う者なり!」


 その歌が兵たちの心を揺さぶった。

 一部の兵士は剣を下ろし、仲間に従うことを拒み始める。


 騎士団長は怒声を上げた。

「裏切るか! 恐れに屈するな!」


 だが、その声をかき消すように森が唸り、祠の光が爆発した。


 兵たちは恐怖に駆られて退き、ついに軍勢は総崩れとなった。


 戦いが終わったあと、森には疲れ切った人々の歓声が響いた。

 アルトは膝をつき、荒い息を吐いた。掌はまだ光を宿している。


 リィナが彼の肩を支え、低く言った。


「これで決まったな。おまえは異端でも無能でもない。森と人を繋ぐ存在だ」


 アルトは夜空を仰ぎ、静かに頷いた。


(たとえ異端の烙印を押されても、この森が俺の居場所だ。ここで生き、ここを守る。それが……俺の選んだ道だ)

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