第23話「森の牙、王国の軍を裂く」
王国軍の鬨の声が、森の奥へと轟いた。
槍と盾を整然と掲げた数千の兵が、大地を揺らして迫ってくる。
森の入口に潜むアルトたちは息を潜めた。
木々の影、岩場の上、川沿いの藪。百にも満たぬ仲間が散開し、決死の覚悟で罠に手をかける。
先頭の兵が森へ足を踏み入れた瞬間——。
巨木が軋みを上げ、切り倒されて道を塞いだ。
兵の列が乱れたところへ、頭上から岩と丸太が雨のように降り注ぐ。
「伏兵だ!」
「陣を整えろ!」
混乱の声が広がる。だが兵は数で勝り、森を踏み潰そうと進み出す。
リィナが狼の如き雄叫びを上げ、槍を閃かせた。
灰狼族の仲間たちが彼女に続き、影のように飛び出して兵を翻弄する。
「森を荒らすな! ここは我らの牙で守る!」
傭兵が剣を振り抜き、敵将を討ち取る。
老農夫でさえ鍬を振りかざし、叫んだ。
「畑を奪わせはせん!」
その光景は、王都の兵の心を震わせた。
だが王国軍は怯まない。
炎を放ち、森を焼こうとした。
黒煙が立ち昇り、枝葉が赤く染まっていく。
アルトは祠に手を当て、必死に祈った。
「森よ、燃え尽きるな! みんなを守ってくれ!」
掌から溢れる光が広がり、木々がざわめいた。
枝が炎を払い、雨雲が呼ばれ、激しい雨が火を打ち消す。
「これが……祠の力……!」
人々の目が光を映し、再び奮い立った。
戦況は拮抗したが、数の差は大きい。
王国軍の将が高らかに叫んだ。
「異端を討て! アルトを討ち取れ!」
兵の波が押し寄せ、仲間が次々と押し返される。
その時、アルトは叫んだ。
「俺に力を貸せ! 森よ、今こそ牙を見せろ!」
大地が震え、根が隆起し、兵の列を呑み込んだ。
枝葉が槍のように突き出し、雨と風が敵を押し流す。
王都の軍勢は、森そのものに襲われる恐怖に包まれた。
最後にアルトは前に出て、掌を掲げた。
「俺は異端じゃない! 追放された無能でもない!
——この森と人々を守る“長”だ!」
光が爆発し、森の入口を覆い尽くした。
眩さに怯えた王国軍は武器を落とし、指揮は完全に崩壊した。
「退け! これ以上は森に呑まれる!」
将の叫びと共に、王国軍は雪崩を打って退却した。
雨に打たれた森の中に、静寂が戻った。
人々は息を呑み、やがて歓声を上げた。
「勝った……!」
「森の国が王都に勝った!」
アルトは膝をつき、仲間に支えられながら微笑んだ。
だが彼の眼差しはまだ遠くを見据えていた。
(これで終わりじゃない。……次で、この戦いに決着をつける)




