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無能だと追放された俺、実は神々の隠し子でした〜辺境でスローライフしてたら、気づけば世界の中心に〜  作者: しげみち みり


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第22話「迫り来る王国軍」

 森の国に突きつけられた最後通牒から、二日が過ぎた。

 朝霧の中、見張りの少年が丘を駆け下り、息を切らして叫んだ。


「見えたぞ! 旗だ! 王国軍の旗が列をなして森へ向かっている!」


 その声に、集落はざわめきに包まれた。

 女たちは子どもを抱き寄せ、男たちは鍬や斧を手に走り、兵士あがりの者は武器を磨いた。

 恐怖は確かにあった。だがそれを押し殺し、誰もが「逃げない」という意志を顔に刻んでいた。


 見晴らしの丘に登ったアルトは、遠方を覆う黒い波のような軍勢を目にした。

 甲冑の輝きと槍の列、その規模は数千に及ぶ。

 対する森の国の兵力は百にも満たない。


 リィナが槍を構え、牙を剥いた。

「数では比べものにならん……だが群れには群れの戦い方がある。森を味方につければ、牙は折れる」


 傭兵が頷き、剣を鞘から引き抜いた。

「俺たちの利は地の利だ。森は罠の宝庫、王都の兵は慣れていない。

 正面からぶつかる必要はない。削り、惑わせ、心を折る」


 学者は地図を広げ、指で道を示した。

「“緑の回廊”の廃墟を通れば、後背を突ける。道を抑えることこそ最大の勝機です」


 夜、祠の前で戦評定が開かれた。

 老農夫が静かに言った。

「わしらは剣では王都に勝てん。だが、この森はアルト様に応えてくれる。ならば、森と共に戦うべきじゃ」


 カエルが竪琴を鳴らし、歌を添える。

「——光は森を照らし、森は人を守る。

 異端ではなく、共に生きる者の証を示せ」


 その歌に人々の心が一つになっていく。


 アルトは立ち上がり、強く言い放った。

「俺たちは逃げない。森を信じ、仲間を信じる。

 王都がどれだけの軍を送ろうとも、ここは渡さない!」


 炎が高く燃え上がり、集落の人々は歓声を上げた。


 翌朝。

 森の入口に、アルトと仲間たちが立っていた。

 木々に縄を渡し、落石を仕掛け、獣道を塞いで罠を張る。

 村の女たちは矢を削り、子どもたちは石を運んだ。


 アルトは祠に手を当て、深く祈る。

「森よ……俺に力を貸してくれ。

 無能と呼ばれた俺に、この国を守る力を……」


 掌から溢れる光が木々に広がり、葉がざわめいた。

 森全体が答えているようだった。


 その頃、王国軍の先頭を進む将軍は馬上で鼻を鳴らした。

「くだらぬ辺境の村が、王に逆らうとはな。異端も森もろとも焼き尽くしてくれる」


 兵士たちが鬨の声を上げ、地を揺らして進む。

 その音は森を震わせ、やがてアルトたちの耳にも届いた。


 リィナが唸り、槍を握りしめる。

「来るぞ。群れを試す時だ」


 アルトは息を吸い、仲間を振り返った。

「恐れるな。森は俺たちの国だ。ここで踏み止まる!」


 その声に応えるように、人々が武器を掲げた。


 ——王国軍と森の国。

 その激突の時が、ついに迫っていた。

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