あぁ、夏休みデビューがしたい!
切実。人間としてやっていけない。社会人になったら家から追い出されて死にそう。いや、死ぬ。最低限のコミュ力が必要。だから夏休みデビューしないといけない。荒療治でもそこまでしないともうダメだと親に泣かれるのぞみちゃんが行く夏休み珍道中……。
夏です。夏なのです。勝負時なのです。夏休み期間が準備時間なのです!
高校デビューに失敗した私、布津原のぞみにもチャンスがあると思いたいのです。
ここでイケイケギャルとやらになれれば爆モテなのです! なのです?
少なくとも小説ではそうなのです!
小説だと気になる人だとかいるのですが、生憎にも私にはいないのです。
本がお友達過ぎました。高校の大きい図書館に入り浸り、書庫に入る許可すら得てしまったのです。
普通の学生にはダメって言っているんだよ? と司書のお姉さんには言われてます。特別感半端ないです。
ただやはりそれではよろしくないのです。
小説でもそうですが、人間と話さないヤツはモブでしかないのです。
どんな能力があっても主人公に発掘されるまではストーリーラインに関われないザコなのです。
そして私は発掘される様な能力はありませぬ。悲しい事に。平々凡々な女子高生なので。
人間と話す事が少な過ぎて、読んだ本の感想を簡潔にとか、この本をプレゼンして読みたい気持ちにさせてとか、そういうのもできないのです。悔しい事に。
私が私であるままに生きると、社会不適合でしかなく、遊んでいられる学生の期間が過ぎたらニートまっしぐらなのです。ヤバい。
学校の図書館が使えない夏休みは借りてきた100冊で我慢するしかないのもキツいです。たった100冊。1週間もかけずに読み終えてしまいます。ムリです。
40日間の空腹を行き過ぎた市の図書館で過ごすのは難しいです。足りないです。
なので変わらなくてはいけないのです。
通知表に「もっと人間に興味を持ちましょう」と書かれてはいけないのです。
それでは生きていけないのです。家から追い出されて3日くらいお寺の裏側で星を見ながら過ごしてしまうのです。即身仏になってしまうのです。前になりかけたのです。
さすがにヤバいと思ったのです……。本を読んでいるだけでは生きてはいけないのです。この体はちゃんと人間だったんだなって思ったのです。バカです。
とにかく! 変わるのです! まずは恰好から!
5万の軍資金は服を買うと言ったら涙を流した母からもらいました! 5万……そんなに必要なんでしょうか?
泣くほどですか。泣くほどですね。本に出会ってから本以外への興味がなかったので。お金の催促とかこれが初めてですし。
人間性が本当に足りてないです。困ったものです。
現在着ているモノは母のお仕着せです。
周囲から浮くようなモノではないです。図書館の中ではですが。
映画館とか行ってみたらモブ過ぎて浮きそうです。行かないので気にした事なかったです。
……服ってどういう風に買えばいいか、正直分からないです。
どういう服を選べばいいでしょう? 小説の服は奇抜だというのはさすがに理解しているのです。
駅で今ボケっと人並みを見ているのですが、好ましい服装というのが分からないのです。
小説の中なら「自分らしく!」と簡単に言いますが、現実問題それは通じないです。
というか私が自分らしく生きた結果がこの社会不適合なのです。
勉強だったら答えがあるので楽です。これにもきっと答えはあると思うのですが、私の経験不足で分からないです。
そう考えると制服って楽です。考える必要がないので。それが答えなので。難しい。
まず私は流行を追うのはムリでしょう。
その気力があるのなら今よりも人間性があります。
だから自分に合うだろうモノを突き詰めるのがいいと思います。分からないですが。分からないですが!
容姿なんてパラメータを私は活用した事がありませぬ。
私はただ本を読めればそれでいいという生き方しかしてなかったので。
モノを考える事もろくにしていなかったのもありまする。生まれて初めてというくらい今日はモノを考えている気がしまする。
人に伝えるという事をしなくてもいい生き方をしていたので。それがダメなんですけども。
透明人間として生きていた気がしてきます。
無難に問題は起こさず、勉強はまぁなんか出来て、体育は目立たず。
そこにいて、そこにいないのが普通だったといえばいいでしょうか。
今日はむだにアンニュイです。透明人間だったらただ物語に没頭して空間に溶けていられるのに。いられたのに。
手元の軍資金が重たいです。お金なんて透明人間には要らなかったのに。
お金が手元にあるから変わらなければと思っちゃいます。
変わる事を期待されているんだと思っちゃいます。
せめてもう少し少ない金額だったならワンポイントアクセか何かを買って変わった気になってお終いに出来たでしょう。
でもこの金額ってワンセットコーデを決めてこいという腹切りでしょう。気持ちが重たいです。
普段お金を持たないから気分が重たいです。
お金を持っていない時はお金がないので出来ない事が多いというか、出来ない事を全部諦めて、思考の範囲外においてました。
出来ない事を考えるのは時間のムダというか、どうでもいいというか。
お金がないしで全て思考放棄していられたのです。余計な欲求を持たずに目の前の本を読んでいれば十分と逃げられたのです。
そんな思考を読まれてこの金額を渡された気がするのです。キツいです。知らないです。難しいです。
私は悪い子ではないです。悪い子になるのは結果的に不幸になるのを知っているからです。
何かをするには短くも、何もしないには長い人生というのは小説で見知っています。
現状の私では何もできない長い人生となるでしょう。悪い事をして周囲に憎まれ、針のむしろの上で生きるのは私にはムリです。キツいです。
このお金を遊びに使うとか、期待されている使い方以外をするのは悪い事なので、私にはできないです。惰弱です。
もう諦めて帰ってお金を返して枕に顔を埋めてしまいましょうか。
スライムすらも倒した事ないのに、ドラゴンを倒せと言われてもムリです。
村人Fは村から出られないのです。お仕着せで十分です。ダメです。死にます。
親という村はいつまでもありませぬ。何なら放り出されまする。追放でする。
服を買うのはドラゴン退治ではないのです。スライム退治なのでする。
私が逃げて大敵だと怯えているだけなのです。
服は防具。世間という荒波から身を守るためのモノ。魔物は人間はその荒波に潜んでいるのです。
そうです。顔の系統が似ているというか、私と似た人を探しませう。
その人みたいな服を着ればきっと間違いはないのでせう。
私と似た人ってどんな人なんでせう。透明人間なのでは? オワタ。
……容姿を確認してみませう。
身長は150くらい。食事を抜きがちで痩せ気味。スポブラも要らないくらいの胸。暗い中でも本を読んでいたから少々目つき悪し。太陽の下を歩く生き方をしていないので肌は白い。あと猫背。肌もちょっと乾燥気味。
髪は美容院に行かないからムダに長い。椅子で擦れるからか腰の辺りまでしか伸びない模様。それを適当に低い位置でまとめて1本にまとめたやる気のない雑なポニテ。
前髪は本を読むのに邪魔だから自分で適当にハサミでちょきちょきしているから眉毛辺りでパッツン。
総合的に見て余命僅か病院住まいの薄幸の少女感。……白い病院服でも着たらいいかな?
私、生きていけるよね? 夏休みデビューで人間性を獲得して、いい感じに生きなきゃダメなんだよね。死ぬ?
母はこれを見ていたから服を買うと言っただけで軍資金をたくさん用意したんだなぁ。
少しの金額でどうにかできる様な簡単なモノではないです。怖いです。キツいです。
……もしかして化粧品も合わせて買えという事ですかね? もしや5万じゃ足りないです?
へるぷみー!
「あれ? 布都原さん?」
誰でしょう? 私の名前を知っているのは……。
目立たないランキングがあれば10本指に収まるだろう私ですよ?
目立たなすぎてコミュ力が鍛えられなかった対人雑魚雑魚のゴミムシでございんす。
「あ、はい……」
oh……my god……. クラスの隣の席の木立さんではないですか。
気立ての良い木立さんと評判の。誰とでも友達になり会話出来る、コミュ力の塊、我が神よ……。
私とも会話を試みてくれる聖人でありまする。クソザココミュ力で毎回途中で「あ……あ……」となって死んでるけども。
「どうしたの? 何か困ってる?」
ひ……。スっと内側に入り込んでくる。
大丈夫かな? って顔で顔をのぞき込まれてる……()
大丈夫じゃないですよ。創作の少年だったら恋愛不可避の間合いですって。あ、いい香り……。
「えと……服……」
服がどうしたんだよ! 頑張れ私のコミュ力! 布都原のぞみの底力!
同性同級生隣の席のクラスメイト相手にしどろもどろしていて、夏休みデビューなんて出来るものか!
ファイトだ、少年! いや違う少女よ! 自分を少女というのなんかキツい気がしてきた!
「服……あ、買いたいの? 私もちょうど買いに行くところだったの。一緒に行く?」
「行く……」