第3章:闇を操る者の正体
1節 謎の追跡者
黒い霧の中から現れた魔物たちが唸り声を上げながら迫ってくる。俺たちは剣と弓を構え、それぞれに迎え撃つ準備を整えた。
「大地、シアを守りながら戦って!こいつら、ただの魔物じゃない!」
ティリアが鋭く指示を出しながら、弓を引き絞る。その矢は魔力を纏い、迫りくる魔物の一体を正確に撃ち抜いた。だが――
――ズズンッ!
倒したと思った魔物の体が霧に戻り、再び形を取り戻す。
「ちょっ!?何だこいつら、不死身かよ!」
俺は剣で魔物の一体を斬り裂きながら叫ぶが、俺が斬った魔物もまた霧となり、次の瞬間には元通りになっていた。
「物理攻撃が効いてない……!ティリア、どうする!?」
俺が焦りながら尋ねると、ティリアは矢を放ちながら険しい表情で答える。
「この霧そのものが奴らの本体みたいね。動きを止めるには魔法か――それか、シアの光しかない!」
「シアの光か……!」
俺は後ろを振り返る。シアは俺の背後に立ち、手を前に突き出して震えるような光を放っていた。
「シア、大丈夫か?無理するなよ!」
「……大地、大丈夫……!」
彼女は汗を滲ませながらも必死に光を放ち続けていた。その光は魔物の霧を焼き払い、次々と動きを封じていく。
「よし、動きが止まった!ティリア、今だ!」
俺が叫ぶと、ティリアは素早く矢を放ち、魔物の核と思われる部分を次々と撃ち抜いた。霧の魔物たちは呻き声を上げながら消滅していく。
「ふぅ……なんとかなったか。」
俺は剣を鞘に収めながら息を整えた。だが、その瞬間――
「まだだ。」
冷たい声が響き渡る。
俺たちの前に立っていた黒いローブの男が、再び手を振り上げ、闇の魔晶核を光らせた。その核から黒い霧が溢れ出し、空間全体を覆い始める。
「……やっぱり簡単には終わらせてくれないか。」
俺は剣を握り直し、男を睨む。
「お前、何者なんだ……!?」
俺が叫ぶと、男は少しの間黙り込んだ後、低い声で答えた。
「私はただの使者だ。闇を統べる者の意思を伝えるためにここにいる。」
「闇を統べる者……?それって、どういう意味だ!」
「いずれ知ることになる。だが、お前たちがその答えにたどり着くには、その“本”を渡してもらう必要がある。」
男はティリアが抱えている魔導書を指差した。その指には微かに闇の力が集まっているのが見えた。
「この本が欲しいのか。だったら……力ずくで取りに来いよ!」
俺は剣を構え、一歩前に出る。だが、男は小さく笑っただけだった。
「力ずく?いや、必要ない。お前たちがこれ以上進む限り、やがて“闇”がその力を与えるだろう。」
「なに……?」
男の言葉に俺は眉をひそめた。その意味を問いただそうとしたその瞬間――
――ゴォォォッ!!
黒い霧が一気に渦を巻き、男の姿が消えた。
「逃げた……!?くそっ!」
俺は剣を握ったまま周囲を見渡したが、すでに男の気配はどこにもなかった。
「……今の奴、一体何者だったんだ?」
俺は剣を鞘に収めながら呟く。ティリアは険しい顔で魔導書を見つめながら答えた。
「わからないけど、“闇を統べる者”って言葉が気になるわ。少なくとも、あの男は単独で動いているわけじゃない。背後に何か、もっと大きな存在がいるはずよ。」
「それに、私の光も……。」
シアが不安そうな声で言った。彼女の手の中から漏れる光は、さっきの戦いの後でさらに強さを増しているようだった。
「どうしてこの光が“闇の魔晶核”と繋がっているのか……私にもまだわからない。」
彼女の声には明らかな戸惑いがあった。その気持ちは理解できる。自分の中に眠る力が、善なのか悪なのか、まだはっきりしないのだから。
「シア、大丈夫だよ。」
俺は彼女の肩に手を置き、優しく声をかけた。
「この光が俺たちを何度も助けてくれた。それだけで十分だろ。あとは、これから一緒に答えを見つけていけばいいさ。」
「……うん、ありがとう、大地。」
シアは少しだけ笑顔を見せた。その笑顔を見て、俺も自然と力が湧いてくるのを感じた。
「とにかく、ギルドに戻ってこの本を調べるのが先決ね。」
ティリアが魔導書を抱え直しながら言った。
「わかった。とりあえずあの男のことは後回しだな。」
俺たちは改めてギルドに向かうため、足を進める。だが、背後にあの男が放った冷たい言葉が、ずっと耳に残っていた。
「“闇を統べる者”……か。」
それが何を意味するのか、そして俺たちの冒険がどこに向かっているのか――不安と疑問が混じる中、俺たちは次の戦いへの覚悟を固めながら進むのだった。
2節 ギルドでの新たな手がかり
リベルナの冒険者ギルドに戻ってきた俺たちは、すぐにカイルさんに事情を説明し、手に入れた魔導書を託した。
「……なるほどな。闇の魔晶核を作る術式、それと“光の核”か。」
カイルさんは魔導書の内容をざっと確認しながら、険しい顔をして呟いた。
「今までに報告されてきた闇の魔晶核関連の事件は、どれも術式が記されている本が関係している可能性がある。だが、“光の核”なんて話が出てきたのは初めてだ。」
「この光の核って、そんなに特別なものなんですか?」
ティリアが尋ねると、カイルさんは腕を組みながら頷いた。
「特別どころじゃない。闇の力はこの世界で根深く存在しているが、それを完全に打ち消す力なんて聞いたことがない。“光の核”が本当に存在するなら、それは闇と拮抗するほどの力を持つってことだ。」
「……拮抗する力か。」
俺は横にいるシアをちらりと見る。彼女の中に眠る光の力が、まさにその“光の核”に繋がっているのかもしれない――そんな気がしてならなかった。
「この本には、“光の核”がかつて世界を救った存在だという記述もあるわ。」
ティリアが魔導書を読みながら言った。そのページには古い文字で、こう記されている。
“光の核を宿す者、その者こそが世界に光を取り戻す鍵となる。”
「……世界に光を取り戻す?」
俺がその文を読み上げると、カイルさんが険しい表情で説明を始めた。
「その記述……俺も古い伝承で聞いたことがある。闇の魔晶核が最初に使われた時、世界は一度、暗黒の時代を迎えたと言われているんだ。その時、光の核を宿す者が現れ、その力で闇を打ち払った――。」
「それってつまり、シアがその“光の核”を宿す者だってことか?」
俺がシアを振り返ると、彼女は驚いた顔をして首を振った。
「そ、そんな……私がそんな大それたものだなんて……。」
「いや、そうとも限らない。」
カイルさんがシアを制するように言葉を続けた。
「光の核はその力を宿す“器”として選ばれる者が必要だ。だが、今のシアの光はまだ完全に覚醒していない。つまり――。」
「……つまり?」
俺が続きを促すと、カイルさんは魔導書を閉じながら言った。
「シアが本当に“光の核を宿す者”になるかどうかは、これからの行動次第だということだ。」
「これからの行動……。」
俺は魔導書を見つめながら呟く。今のシアの力がまだ完全でないのなら、どうやってそれを覚醒させるのか、それが今後の俺たちの課題になるだろう。
ギルドの地下書庫にて
「光の核のことをもっと調べる必要があるわね。」
ティリアが言うと、カイルさんは少し考えた後、俺たちをギルドの地下書庫に案内した。
「ここには、リベルナギルドが代々収集してきた古い資料や書物が保管されている。光の核や闇の魔晶核に関する記録があるかもしれない。」
地下書庫は広大で、無数の本棚が並んでいた。その中には古びた書物や魔法の記録、そして伝説に関する資料が詰まっている。
「これだけの本を全部調べるのは大変そうね。」
ティリアが苦笑いしながら本棚を見上げる。
「地道にやるしかないだろ。俺たちで手分けしよう。」
俺は一番近くの棚に手を伸ばし、魔晶核や光の核に関する情報を探し始めた。シアも少し緊張した様子で本を開いている。
数時間にわたる調査の結果、俺たちはいくつかの重要な情報を見つけた。
「ここに書いてあるわ。」
ティリアが指差したのは、古代文字で書かれた一冊の書物だった。そこには次のように記されていた。
“光の核を完全に覚醒させるには、かつて核を封じた神殿――『光の神殿』に赴く必要がある。”
“光の神殿は封印されし地『エルダリア平原』の中心に存在する。だが、封印を解くには、核の継承者自身が試練を乗り越えなければならない。”
「光の神殿か……。また新しい目的地が出てきたな。」
俺は本を閉じながら呟いた。
「試練を乗り越える……シアにとっては大変そうだけど、そこが目指す場所だってことね。」
ティリアがそう言うと、シアは少し戸惑いながらも、意を決したように頷いた。
「……私、頑張る。自分の力が何なのか、確かめたいから。」
「よし、じゃあ次は『光の神殿』だな!」
俺は立ち上がり、二人に向き直った。
カイルからの警告
調査が終わり、出発の準備を進める俺たちに、カイルさんが一つ警告をした。
「気をつけろよ、大地。光の神殿に行くということは、お前たちが“光の核”を完全に覚醒させる可能性があると、闇の側にも気づかれるってことだ。」
「つまり……またあの黒ローブの奴らが襲ってくるかもしれないってことか?」
俺が尋ねると、カイルさんは険しい顔で頷いた。
「そうだ。闇を統べる者にとって、“光の核”が覚醒することは最大の脅威だ。おそらく、お前たちの進む先には、これまで以上の敵が待ち構えているだろう。」
「上等だ。」
俺は剣の柄を握りながら笑った。
「どうせ逃げるわけにもいかないしな。シアとティリアがいれば、どんな敵だって何とかなるさ。」
俺の言葉に、ティリアはクスッと笑い、シアは少し照れたように微笑んだ。
こうして、俺たちは新たな目的地――『光の神殿』を目指し、冒険の旅路に再び足を踏み出すことになった。
次なる試練と、迫り来る闇の勢力……この旅はますます過酷なものになるだろう。だが、俺たちは迷わず前に進む覚悟を決めた。
3節 光の神殿への旅立ち
準備を整えた俺たちは、ギルドを後にし、『光の神殿』があるというエルダリア平原を目指して旅立つことになった。ギルドの仲間たちやカイルさんに見送られながら、俺たちは広がる冒険の世界に再び足を踏み出す。
「光の神殿か……どんな場所なんだろうな。」
俺は馬車に揺られながら、地図を見つめて呟いた。エルダリア平原はリベルナから遠く離れた土地であり、広大な草原と古代遺跡が点在する未開の地だとされている。その中心にある“光の神殿”は、長い間誰にも発見されていなかったが、魔導書に記された情報によれば、今もそこに存在しているらしい。
「光の神殿……まさに名前の通り“光の核”に関連する場所よね。でも、その試練ってのが気になるわ。」
ティリアが隣で地図を確認しながら言った。その声には、冒険への期待と緊張が混ざっているようだった。
「試練か……どんなものなんだろうな。まさか“命がけで光を覚醒させろ”なんて言われたら、シアが困るだろ。」
俺が冗談めかして言うと、シアが少し不安そうな顔で口を開いた。
「……試練って、やっぱり危険なのかな?」
「わかんないけど、大丈夫だよ。何があっても俺とティリアがついてるから、心配するなって。」
俺が笑いながら言うと、シアは少しだけ安心したように微笑んだ。
「うん……ありがとう、大地。」
道中、エルダリア平原の入口にて
数日かけて、ようやく俺たちはエルダリア平原の入口にたどり着いた。目の前に広がる草原は、言葉では表せないほど広大で、遠くには霞むような遺跡の影が見える。空は青く澄み渡り、どこか神秘的な雰囲気が漂っている場所だった。
「ここがエルダリア平原か……確かに、何かが隠されていてもおかしくない感じだな。」
俺は草原を見渡しながら感嘆の声を漏らした。だが、その穏やかな風景の中にも、一抹の不安を感じる。どこか遠くから視線を感じるような、そんな奇妙な感覚だった。
「気をつけて、大地。この平原には、古代の封印とともに魔物も眠っていると言われているわ。」
ティリアが弓を構えながら警戒する。その目は、どんな小さな異変も見逃さないように鋭く光っている。
「魔物か……やっぱり、ただの草原ってわけじゃないよな。」
俺は剣を腰に手を置き、周囲を警戒しながら歩き出した。
平原を進むにつれて、周囲の雰囲気は次第に変わっていった。最初はただの草原だった場所が、古代の遺跡が点在するエリアへと変わり、風には何か呪われたような冷たさが混ざり始めていた。
「ここ、普通の場所じゃないね……。」
シアが震えた声で言う。その手から微かに漏れている光が、さらに強さを増しているのがわかる。
「シアの光が反応してる……ってことは、光の神殿が近いのか?」
俺が尋ねると、シアは自分の手を見つめながら小さく頷いた。
「うん……わかんないけど、この光が私を導いているみたい……。」
彼女の言葉に従い、俺たちはシアの光が反応する方向へと進むことにした。
遺跡の罠
平原の中心部に近づくと、目の前に古びた石造りの遺跡が姿を現した。それはまるで神殿への入口を守る門のように立ちはだかり、その周囲には無数の魔法陣が刻まれていた。
「これが……光の神殿への入口か?」
俺が遺跡の門を見上げながら呟く。だが、その瞬間――
――ガガガガッ!!
遺跡の地面から魔法陣が光り、突然無数の光の矢が俺たちに向かって放たれた。
「避けろ!」
俺は咄嗟にシアを抱き寄せ、地面に伏せる。ティリアは矢の軌道を読んで軽やかに回避していたが、その目には明らかに緊張の色が浮かんでいた。
「どうやら、この遺跡自体が“試練”の一部みたいね。」
「試練って、いきなり殺しにかかるのかよ!」
俺は剣を抜き、次に放たれる光の矢に備える。
「大地、私たちが矢を防いでいる間に、シアをあの門の中央に連れて行って!きっとあの魔法陣が鍵になってる!」
ティリアが矢を放ちながら指示を出す。俺は頷き、シアの手を握った。
「シア、行くぞ!」
「う、うん!」
俺たちは光の矢をかいくぐりながら遺跡の中央を目指した。途中で何度も矢が襲いかかるが、俺は剣でそれを弾き、シアを守りながら進む。
「大地、もう少しよ!」
ティリアの声に背中を押され、俺たちはついに遺跡の中央――魔法陣の中心に到達した。
「シア、光を放て!」
俺が叫ぶと、シアは手を前に突き出し、全力で集中した。そして――
――眩い光が遺跡全体を包み込んだ。
光の矢は一瞬で消え、遺跡の門が音を立ててゆっくりと開いていく。
「……やったのか?」
俺は息を切らしながら周囲を見渡した。ティリアが駆け寄り、矢を収めながら微笑む。
「ええ、シアのおかげで試練の第一段階は突破したみたいね。」
「ふぅ……ありがとな、シア。」
俺はシアの肩を叩いた。彼女は疲れた表情を浮かべながらも、小さく笑った。
「これで……進めるね。」
門の奥には、さらに深い遺跡が広がっている。その先には、光の神殿と呼ばれる場所が待っているのだろう――だが、それと同時にさらなる試練も待ち受けているはずだ。
俺たちは心を決め、再び足を進める。光の核の覚醒、そして闇の勢力との対決に向けて、冒険はますます過酷なものになっていくのだった――。