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紙吹雪の舞う夜に関連作品

『紙吹雪の舞う夜に』2周年記念短編 『紅太郎』(くれないたろう)

作者: 暴走紅茶

この作品は『紙吹雪の舞う夜に』2周年記念作品です。本編をお読みで無い方には分かりにくい箇所があると思います。是非本編も併せてお読みください。


※キャラ崩壊あり

※本編とはなんら関わりありません

※本当の本当に本編とは関わっておりません

 今か昔かあるところに、(とも)()爺さんが住んでおりました。

 智喜爺さんは山裾の小屋で1人、悠々自適な年金生活を送っており、気が向くと山へ(あやかし)退(たい)()に出かけます。

「うぉぉぉおおおお! 生涯現役じゃ~~~~~」

 智喜爺さんは自らの体を鬼に変える『()()(かい)()』という術を使い、殴り、蹴りつけ、叩き潰し、雑魚妖をどんどん(じゅう)(りん)していきます。この力は、かつてこの地を(こん)(とん)へと(おとしい)れたた()()という鬼の力を体に宿すモノでした。

 景気よく一通り倒した智喜爺さんでしたが、何故か物足りない表情を浮かべます。

 そう、かつては智喜爺さんと(しのぎ)をけずった妖たちですが、幾度もリンチを受けた今となっては彼の鬼気を感じるだけで恐れおののき、逆らおうとする妖などもう残ってはいなかったのです。襲ってくるのも新参者の雑魚ばかり、お爺さんはどこか今の生活に味気なさを感じておりました。

「つまらん世の中じゃのう。紙鬼くらいの妖でも現れてくれたら暇つぶしになるんじゃが」

 そんな物騒な願いすらひれ伏す妖たちの間に、むなしく広がっていくだけです。

 そんなある日、

「今日も妖を蹂躙するぞ~~~~」

 智喜爺さんが()()(よう)々(よう)と山に出かけると、まるでクラブの照明の如く、七色に光る木が生えていました。

「なんじゃこりゃ~~~~~。いや、でも、若い頃を思い出すわい」

 かつて都会でブイブイ言わせていた智喜爺さんは、遠い目で懐かしみましたが、その根元に目を移すと、あるものに気がついたのです。

 それは純白の産着に包まれた女の子でした。自分に害をなす者などこの世に存在していないかのような天使の寝顔で、すやすやと眠っております。

「けったいな」

 智喜爺さんは一言乱暴に吐き捨てると、今日は妖退治をやめ、その女の子を抱えて家に帰りました。

 家に着き、女の子を()()()(ばた)に寝せてやった時、赤子の手からハラリと一枚の紙切れが落ちます。

 智喜爺さんはそれを手に取ると、

「な、なんじゃと……」

 驚き、慌て、女の子をじっと見つめました。それは深紅に染まった紙切れでした。

「ただの予言ではなかったのか……」

 智喜爺さんは過去、この小屋を訪れた(まじな)()の話を思い出します。

――紅の紙握りし女子(おなご)、災いをもたらさん――

 予言と目の前に落ちた深紅の紙。これを智喜爺さんは忘れぬようしかと記憶に留めつつも、愛情いっぱいに女の子を育てました。

 『()(づる)』というかわいらしい名前が付けられた女の子は、1日に米を1升食べ、智喜爺さんの家計に大ダメージを与えながらスクスクスクスクと大きくなっていきました。その成長速度は異常に速く、一月も経った頃には胸も身長も貧相ではありましたが、ぼんやりと15歳くらいの少女に見える容姿になっておりました。

「いま、何か悪口を言われた気がするわ……」

 食事中、智鶴がはたと手を止め、虚空を睨み付けます。怖い顔でした。

「どうした? 何かおったか?」

「いや、気のせいだったみたい」

 不思議そうに首を捻る彼女を、智喜爺さんは改めて見つめました。

――思えば、成長は体だけで無い。喋るも書くも直ぐに習得し、更には呪術も覚え始めた。これはどう考えても人の域を越えておるとしか……――

「おぬし、妖の類いなのか……?」

 そんな思考を巡らしていると、つい不安げな声が口から零れます。

「分からないわ。私の記憶はお爺さんに拾われてからのここ一月分だけ。分かっているのは、智喜爺さんがとても優しくて、いい人だって事くらいよ」

 智鶴が悲しげな表情で返すと、2人はそれきり食事が終わるまで会話らしい会話をしませんでした。

 

 智鶴は成長するにつれ、智喜爺さんについて妖退治に向かうようになりました。

 最初こそは「智喜爺さんの孫だ! 弱点だ!」と妖たちは彼女を標的に襲ってきましたが、ある日を境に体の成長を止め、呪術の力をメキメキ伸ばしていった彼女は、1ヶ月かそこらで、智喜爺さんと肩を並べるような術者に成長しておりました。

 そんな彼女は、男よりも男勝りな悪鬼羅刹振りと、毎夜X JAPANの『紅』を爆音で垂れ流しながら入山してくることから、妖界隈で『(くれない)()(ろう)』と呼ばれ、恐れられる存在になっていったのです。


 そうして智喜爺さんが山で智鶴を拾ってから、3ヶ月弱が経ったある夜の事です。妖退治から戻ってきた智鶴が智喜爺さんを前にして言います。

「お爺さん、この山に私の敵はもう居ないわ。いままでありがとう。そろそろ外の世界に出てみようと思うの」

 突然の告白に動揺が隠せない自分に気がついた智喜爺さんは、人生で初めて父性というモノに目覚めた事を知りました。そして、娘の様に可愛がってきた智鶴の言葉に深く悲しみました。

「そうか……。そう言うのも仕方ないのう。じゃが、ワシかて、掃除も洗濯も適当、放っておけば夕方まで眠りこけて、スマホ片手にだらだらしておるお主を外に出すのはまだまだ不安じゃ。じゃから、一つだけ条件がある」

 図星を疲れた智鶴は、顔面をしわくちゃにして渋い顔をしました。

「条件……?」

「そうじゃ、ここから遙か東に向かった先に『(おに)ヶ(が)(しま)』という島がある。そこには鬼の帝国があり、紙鬼というとても強い鬼が牛耳っておるのじゃ。そやつの首を取ってこられたら、お主を一人前と認めよう」

「そんなこと? 簡単よ。任せなさい」

 まだまだ()(なか)(かわず)である智鶴は、自信満々に言います。

「あなどるなよ……。わしの背にある3本の傷のうち、一番深い真ん中の傷を付けたのが、その紙鬼じゃ。いまのお主では到底敵わんて」

「そんな……。それじゃどうすればいいの!?」

「仲間を集めよ。仲間がおれば、どんな困難も乗り越えていけるじゃろう」

 昔日の青春を思い出し、健やかな顔をしておりましたが、友と呼べる人物の顔が一切浮かんではおりませんでした。

「仲間……仲間ね。分かったわ。ぼっちのお爺さんに言われるのも何だか腑に落ちないけど分かったわ。ちなみに、あと2本の傷は一体どんな敵に付けられたの?」

 必死に記憶の中で友を探していた智喜爺さんは、智鶴の質問へなんともなげに答えます。

「背中の傷か? 1本はキャバクラでセクハラしたとき、裏で怖いお兄さんに付けられたもので、もう1本は最近、木に引っかけた傷じゃ」

「かなりしょうもない傷ね」

 記憶を探るのを辞めたお爺さんは、智鶴の言葉に棘がある事にようやく気がついたようで、どんどん顔を赤鬼のように赤くしていきます。

「ぼっち!? しょうもない!? 黙って聞いておれば、いけしゃあしゃあと……。孤高の独身貴族に向かって何を言うか! もう怒ったわい! あとは勝手にしろ!」

 痛いところに塩を塗りたくられたお爺さんはふて寝を始めてしまい、困った智鶴でしたが、取り敢えず小腹が減ったので、冷蔵庫のトロトロ生プリンを食べてさっさと眠りました。

 翌朝起きると、一晩寝てすっかり機嫌を直した智喜爺さんが、立派な甲冑を用意して居間に座っておりました。

「この甲冑はワシが若い頃に愛用していたものじゃ。愛しい娘と言っても相違ないお前さんの門出を祝うべく、こうして用意させてもらった」

「お爺さん……」

 智鶴は感謝の顔を一瞬だけ浮かべましたが、次の瞬間には冷めた目つきになり、

「臭いし、重いから要らないわ。それより朝ご飯よ。トーストは焼けてるの? 先に起きてるんだから、それくらいの準備はしてくれてるのよね? 今日はお爺さんの当番の日でしょ?」

キッパリと拒否しました。

 しっかりと年頃の娘になってしまった智鶴に、お爺さんの目から一筋の涙がこぼれ落ちました。


「それじゃあ、行ってくるわね。取り敢えず、そうね、いままでお世話になったわ。ありがとう。絶対に鬼の首、とってくるから!」

「本当に大きくなったのう。頼もしい限りじゃ。甲冑は要らんと言われてしまったが、これだけは持って行きなさい」

 お爺さんはそう言うと、4回分使った青春18切符と、いつぞやの土産に買ってきた賞味期限ギリギリの岡山名物きびだんごを渡しました。

「あ、ありがとう……なんかセコいけど、ありがとう……」

 甲冑の事を根に持っているお爺さんは、微妙な餞別を渡し、智鶴を見送りました。


「仲間か……。どこで売ってるんだろう」

 智鶴が地元駅前のアーケード街を歩いていると、食料を求めて街に降りてきた一匹の猿が警察に追われていました。

「た、助けてくれ~~~~~」

 猿は必死に(こん)(がん)して智鶴に飛びつきます。

「お嬢ちゃん! その猿を渡しなさい!」

 警察が怒鳴ります。

「ええ、分かったわ。ちょっと待ってなさいね」

「ぎゃ~~~~~~いやだ~~~~~~~~~」

 引き剥がそうとする智鶴に抵抗して、猿は必死に駄々をこねます。

「な、なんでもするから! 何でもするからわっちを助けてくれ~~」

「なんでも……」

 その言葉にニマッと不敵な笑いを浮かべた彼女は、くるりと踵を返すと、猿に抱きつかれたまま全力疾走で警察から逃げました。日頃から山で鍛えられた脚力は、街でなまった中年には到底追いつけないスピードでした。

「ここまで来たら大丈夫ね」

 街を抜けた先にある雑木林に入ると、一息つきます。

「ありがとうな、ありがとう。わっちは(かん)()って言うんだ。よろしくな」

「ええ、よろしく。言葉にはちゃんと責任持ってね? お猿の栞奈?」

「お、おう……任せとけ」

 お猿の栞奈は背中にゾクリと悪寒を覚えながも、彼女に付いていかないと何をされるか分からないと、強迫観念に駆られ同行する事にしました。

 そんな会話をしていると、近くの茂みから異常な気を放つ(きじ)が現れました。

「君たち、私の縄張りで何してるの……?」

 強い気を感じ取り、智鶴もお猿の栞奈も血の気が引いていきます。

「わ、わっちら、別に何も……って、おい! 何して……!」

 不意に智鶴がお猿の栞奈の首根っこを掴み、持ち上げました。

「行け! 栞奈! 君に決めた!」

 そのまま思いっきり雉の方へと放り投げます。

「おいおいおいおいおいおいおいおい!」

「何でもするんでしょ~~」

「うわ~~~~~~~~~~~~~」

 そのまま雉と猿が大げんかを始めました。最初こそお猿の優勢に見えましたが、中盤で雉が空を見上げると、巨大な蛟が現れ、お猿の栞奈に襲いかかります。

()()()! やっちゃえ~~」

 美夏萠と呼ばれた(みずち)も加わり、更に戦闘はヒートアップしていきました。とばっちりに身の危険を感じた智鶴も途中から参戦、後半は完全な泥仕合となり……辛くも智鶴勢が勝利しました。

「はぁ、はぁ……雉……というか、その蛟、アンタら強いわね……。私の仲間になりなさい」

 本心では強さよりも、一匹捕まえれば竜も付いてくるお得さに惹かれただけでしたが、負けた者の言葉には逆らえないと、晴れて雉が仲間になりました。

「私は雉の竜子。よろしくね」

 こうして2人目(?)の仲間を手に入れた智鶴は、鬼ヶ島へ向かって進んでいきます。電車が遅延したり、寝過ごしたりしつつも旅を続けていくと、都会の空き地に、『もらってください』と書かれた段ボールが置かれていました。その箱を見た智鶴が「あっ」と声をもらします。

 そこには、成犬が大人しくお座りしていたのです。

 可哀想な犬に近づいていく智鶴をみて、ヤンキーが子犬を拾う現象に陥ったお猿と雉は新たな一面にジーンと感動しておりました。

「……ひろ、って、くださ、い」

 犬はぼそぼそと懇願します。智鶴にはそんな声は全く聞こえて居ませんでしたが、ただ犬好きである智鶴は、そろそろ人材不足を感じていたこともあり、近くのペットショップで首輪とリードを買うと、無言のままその犬にくくりつけ、引きずっていきました。

「俺の、名前、(どう)()()……」

 ずるずると引きずられ、声も届いては居りませんでしたが、雑な扱いに、犬は恍惚とした表情を浮かべ、とても満足そうでした。

「え、えええぇ」

 ドMの犬とドSの主に、お猿の栞奈と雉の竜子の感動は消え去り、終始どん引いておりました。

 仲間が3人に増え、更に勢いを増した一行は、途中下車した海岸で虐められた亀を助けたり、迷い込んだ路地裏で一寸(いっすん)しか無い男に()(づち)を振ったり、時には道の駅で買い食いをして、またあるときには温泉旅館でのんびりして、冒険を続けていきました。

 そんな旅の移動も楽ではありません。私鉄、バス、JR、たまに徒歩と辛い道のりを超えて先へ先へと進んで行きました。

 

 最後のフェリーに乗って、ようやく辿り着いたのが、今では観光地として栄える鬼ヶ島です。海辺では浮かれたカップルがイチャイチャとジュースを飲み、町中ではマナーの悪い外国人観光客がのさばる光景にツバを吐きながら、智喜爺さんに言われていた通りに町長を訪ねます。

 『ちょうちょうのいえ』と子供みたいな字で書かれた看板が目印の豪邸で呼び鈴を鳴らすと、アロハを着て完全に浮かれた町長が出てきました。

「は~い! 私が~~~町長! いえ~~~~~~い」

 その態度にむかっ腹が立った智鶴は殺意を込めて襟を掴むと、

「こちとら島に来てからずっと(むし)()が湧いてるのよ……」

 鬼よりも怖い形相でそう凄みました。可哀想な町長は一瞬で怯むと、涙目になって仕方なく智鶴たちを家に通し、使用人に茶を入れさせると、彼女の話を待ちます。

「これこれかくかくしかじか……」

 智鶴に来島の訳を聞かされた町長の顔が引きつっていきました。

 実はこの島、見た目には観光に浮かれるハッピーな島でしたが、裏では鬼が牛耳り、人が家畜のように長時間労働・過酷労働・低賃金労働を強いられているブッラク島だったのです。町長は逆らわないこと、人間をとりまとめる事を条件に甘い蜜を吸って、優雅な暮らしをしておりました。

――このままこいつらに好き勝手されたら、私の悠々自適ライフがパーだ――

 そう考えた町長でしたが、

「私に逆らったら、まあ、わかってるでしょうね?」

 手にしたティースプーンを容易くへし折り、睨む智鶴の殺気に耐えられなくなり、いとも簡単に口を割ると、鬼の特徴や居場所を吐き散らしました。


「良い町長さんだったわね。みんなが困っているなら、助けないと!」

 町長宅を後にした瞬間のことです。島のストレスを町長で発散した智鶴は、人が変わったようにそんな言葉を吐きましたから、猿も雉もあまりの(ひょう)(へん)()りに震え上がりました。犬はうれションしていました。

 町長に教えられた通りの道を進み、島の裏手までくると、そこは表とは大違いの(じゃ)()に溢れた場所でした。

「こんな禍々しいもの隠しているなんて、一体どんな(じゅ)(じゅつ)を使ってるのよ……」

 そんなことをぼやきながら、目の前にある(どう)(くつ)に入ろうとしたときです。

「待って」

 ずっと智鶴に引きずられてばかりだった犬の百目鬼が、全員の前に立ちはだかります。

「俺、実は、索敵、出来る」

 そう宣言した犬から急に大きな(よう)()が湧き上がり、その全身に眼が発現しました。その見た目に一瞬肌が(あわ)()ちましたが、それでも何故か嫌な気はしませんでした。

「入って、直ぐ、3体、少し、進んで、5体……奥に、行くほど、増えて、いくよ」

「凄いじゃない! でかしたわ!」

 智鶴に褒められて、今までで一番嬉しそうな様子の犬の百目鬼を差し置いて、雉の竜子が言います。

「そんなに危険なの!? 早く言ってよ! 美夏萠~~~」

 その声聞くより早く、空から現れた蛟が無理矢理洞窟へ突っ込んでいきました。

 智鶴、犬の百目鬼、お猿の栞奈が呆然としていると、

「さ、行くよ」

 雉の竜子が意気揚々と中へ入っていきました。

 4人はそのまま美夏萠の後を続いて行くだけで、1回の戦闘もせず、最奥部の巨大なホール状になっている空間まで辿り着きました。

「何だか鬼に申し訳なくなってきたわ……」

 智鶴の不安な声を余所に、大きな大きな鬼――紙鬼が悠然と現れます。

「貴様が(くれない)()(ろう)か。噂に違わず、悪鬼羅刹振りを披露し幹部たちを退け、ここまで来たのだな……。だが、ここが貴様らの墓場だ……。帰れると思うなよ……」

「いや、一度の戦闘もしていないのだけれど」

 智鶴が紙鬼を直視できないままそう言います。

「……」

 紙鬼も困った様子を見せました。

「いや、細かいことは良い、さあ、かかってこい……」

「逃げるとか、和解とかの選択肢は無いんだな!?」

 お猿の栞奈が驚いていると、智鶴に首根っこを掴まれました。瞬間、お猿の脳裏に出会った頃の経験がフラッシュバックします。

「おいおいおいおいおい! 嘘だろ、嘘だろ」

「栞奈は何でもしてくれるんだもんね。だから毎日ちゃんとご飯を食べさせてたのよ」

「ご飯って、まさかあの途中で賞味期限の切れたきびだんごか!? 1日1個だった上に、あれで何回腹を下したか……。あ、あああ~~~~ごめんごめんごめんごめん、うそうそうそうそ~~~~~~~~」

 智鶴に逆らえないからシブシブ無理して食べていた、変な味のする団子のせいで、まさか恩を買っていたとは、栞奈は死を覚悟しました。

「いけ! 栞奈! 君に決めた!」

 智鶴が思いっきりお猿を紙鬼へ向かって放り投げました。

「ふんっ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ……」

 栞奈は紙鬼の鼻息一つで入り口まで吹き飛ばされていきました。洞窟に悲鳴が木霊します。

「お猿の栞奈、立派だったわ。アナタのことは忘れない」

「お前……ひどいな……」

 紙鬼が完全に引いていました。

「気を取り直して! いくよ!」

 智鶴のかけ声で、犬の百目鬼と、雉の竜子とその(しもべ)である蛟の美夏萠が飛びかかります。

 流石はボスといった所でしょう。巨体が嘘のように俊敏に動き、放つ攻撃が全く当たらず、背後の壁にばかり吸い込まれていきます。しかも、いままで無敵だった美夏萠の攻撃も思うように当たらず、一行は壁と戦っているかのような苦戦を強いられます。

「私、こんなに弱かったのね……」

 地に這う智鶴がそう嘆いたときです。体の奥底から力が湧いてきました。ですが、その力はどうにも安全な力には思えません。

「なにこれ……体が熱い……こんなの初めて……」

 (こう)(こつ)とした表情で、自分の体を抱きしめます。

「あ、ああ~~~~~~」

 実はこの洞窟に入ってから、知らず知らずの内に、美夏萠が倒した鬼の(ちり)()する(ざん)(がい)を吸い込んでいたのです。その蓄積が、彼女の体内に流れる(れい)()と化学反応を起こしました。

「なんか分かんないけど、力が湧いてきた! やれるわ!」

 智鶴が体に力を込めます。そして何故かは分かりませんが、お爺さんの唱えていた起句を口にしていました。

「紙鬼回帰!」

 彼女の体から鬼気が溢れます。

「すごい……」

 彼女は全ての力を右手の拳に集めて、紙鬼の土手っ腹に一発拳を捻じ込みます。

「うお、うおおおおお。ここまでとは。人間の少女よ、完敗だ」

 吹き飛ばされた鬼は、そのまま天井を突き抜けます。

「あ」

 知らぬ間に戻ってきていたお猿の栞奈含め、一行はそんなことになると思っていなかったと、その光景にあんぐり口を開け、呆けました。

 元々は固い岸壁をくりぬいて作られていたこの洞窟も、紙鬼が避けたせいで皆の攻撃が壁に当たり、脆くなっていたようです。

「ハッ! 危ない! 崩れるわ!」

 急いで洞窟を出ると、ガラガラと音を立てて、そこは崩れてしまいました。

「まあ、何はともあれ、これで一件落着ね」

 大満足の4人は、軽い足取りで表側の港へ向かいました。

 港では慌てふためく人々が駆けずり回っています。

「何があったの?」

 道行く人に聞くと、どうやら空から降ってきた大きな鬼によって街が全壊してしまったとのことです。

 当の鬼はと言うと、既に塵となって消えていました。

「そろり、そろり」

 自分たちの仕業とバレる前に島を抜け出そうとフェリーに近づいた智鶴たちでしたが、

「あ、アイツが犯人だ~~~~~」

波止場で町長に見つかってしまいました。

 何とか逃げ切ろうとした一行ですが、すっかり悪政によるストックホルム症候群に()(かん)した島中の者に追われ、捕まり、損害賠償請求をされてしまいました。


 *


 拝啓 お爺さん


 暑い日が続きますが、如何お過ごしでしょうか? 体調にお変わりはありませんか?


 今私はとある海の上に居ます。

 とても気持ちの良い風に吹かれ、仲間たちと旅をしています。

 お爺さんの言っていた通り、仲間って素敵ね。毎日ドタバタしながらも楽しい日々を送っています。この間も島で金銀財宝の詰まった宝箱を見つけました。いつかお爺さんにも宝を見せたいです。

 結局鬼の首を持って行くことは出来なかったけど、本当に鬼を倒しました。きっとその噂も届いている頃かとは思いますが。

 私はもうしばらく仲間と旅をします。元気にしているので心配しないでください。

 きっといつか、お盆休みくらいに帰省します。

 どうかそれまではお元気で。


 草々

             智鶴


 お爺さんは紅の紙握りし女子(おなご)が送りつけてきた、多額のカード請求と損害賠償請求という災いに震えながら大号泣しましたとさ。


 おしまい。



 *


 千羽家屋敷の一室で、智鶴がガバッとベッドから跳ね起きた。

「うわ! 変な夢見た!」


 これで本当に、おしまい。


どうも。暴走紅茶です。

2周年記念短編お読みくださりありがとうございます!

いやぁ2年ですって。子供が話せるようになるくらいの時間が経ちました。

それもこれも全て読んでくださっている『あなた』のお陰です。

本当にありがとうございます。

これからも本編の連載は続いていきますので、何卒よろしくお願いいたします。

それではまた本編でお会いいたしましょう!

では。

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