1-8 シュールだ
「ただいまぁ。」
ドサッとソファに横たわり、目を瞑る。
「疲れた。」
そうだね。って、えぇぇ!
何だ、この散らかりっ振りは。幾ら家事能力が低くても、ここまで。
・・・・・・ボクの、所為だね。
ゴミ袋に詰め込まれた、惣菜や弁当の容器。流しには、食器が山積み。洗濯籠に放り込まれた洗い物は、全て夏美のもの。
病室で苦しむボクを、笑顔で支えてくれた。勉強と課題で忙しいハズなのに、体力には自信があるからって、いつも。
「夏生、ボクの体を使って。」
・・・・・・?
「ボクだよ、ぽんた。ぬいぐるみの。」
頭に葉っぱを乗せた、キュートな狸のぬいぐるみ。この物件を見つけられたのも、ぽんたの御蔭。
他のぬいぐるみは、児童養護施設に寄付した。ぽんただけは、手放せなかったんだ。
「私も居るわよ。」
・・・・・・くまぽん?
「そう、くまぽん。」
鮭を咥えた、お馴染みの意匠。前の所有者に捨てられた、木彫りの熊。迫力満点で、御利益ありそう。そう思って。
「付喪神って、聞いたコトない?」
器物が百年を経過すると、そこに宿る。とかいう、精霊だったかな。
「そう、その精霊。」
くまぽんって、女の子だったんだ。
「そうよ。」
ん。くまぽんは解るけど、ぽんたは? 百年も、経ってナイよね。
「ボク十歳。売れ残って・・・・・・。袋に溜まった埃がね、重くて辛かった。そんな時、夏生と出会ったんだ。」
そうだったのか。何となく、呼ばれたような気が。
「うん、呼んだ。ボクはここに居るよって。」
そっか。
ぽんたは、ハンドメイド。作り手の思いがギュッと詰まった、ステキなぬいぐるみ。大切にされた事で、意志を持つようになった。
ボクが乗り移っても、ぽんたは消えない。ただ少し、眠るだけ。
「思ったより、動けるな。」
ラジオ体操する、ぬいぐるみ。シュールだ。
「ヨシ、片付けますか。」
洗濯物を分類して、ポポイ。洗剤を入れて、スイッチぽん。ゴミの分類はしてあるから、このまま捨てられる。食器は食洗機に入れて、スイッチぽん。
直置きされたアレコレは、分類して並べる。ボクには要らなくても、夏美には要るかもしれない。だから、夏美に任せる。
洗濯機は縦型、全自動。乾燥機はガス式、燥太くん。自動掃除機タンゴ、情熱的に掃除してくれる。
食器洗い乾燥機は、流し横に設置した。水漏れの心配ナシ。横に長くしてもらって、良かった。
「夏美。寝るなら、化粧おとして。お肌に悪いよ。」