1-6 そうだ、そうだ!
「信じらんない! 夏生のクセに、生意気。」
わぁ、ウルサイ。
「何を言い出すかと思えば、春奈。」
呆れられてるよ。
「なぁに、尊兄さん。」
ドコから声、出してんだ?
葬儀やら何やらを終え、遺産の話になった。
祖父、田中将司。『田中貿易』会長。投資の才能を生まれ持ち、ガッポリ貯めこんでいた。
祖母、田中静江。祖父とは政略結婚だったが、夫婦仲は良好。資産家令嬢として生まれ育った、まさに貴婦人。多くの人に愛され、財を成した。
祖父母も終活していた。それでも結構な額が、残される。ボクと違って、事故死だったから。
で孫、田中夏生。東都大在学中に、アッサリ病死。死期を悟り、イロイロ整理済み。
「夏生は立派だ。兄として、誇りに思う。」
尊兄さん、ありがとう。嬉しいよ。
「兄なら妹に、タンマリ残すモンじゃない?」
「ハァ。オマエ本当に、オレらの妹か?」
「旦兄さん、ひどぉいっ。」
いやいや。ボク、旦兄さんに一票。
遺産が手に入らないと知った春奈は、大騒ぎ。祖父母の遺産がダメでも、兄の遺産なら入る。そう思ったのに、入らなかった。で、また大騒ぎ。
「春奈ちゃん、諦めなさい。」
「だって、ママ。」
「夏生のコト、嫌ってたでしょう?」
「夏生は嫌いだけど、お金に罪はナイ!」
・・・・・・。
「いい加減にしなさい。」
「パパは、悔しくないの?」
「悔しいよ。まだ二十歳なのに、早すぎる。」
父さん。
「そうだ、女もどきぃ。お金、ちょうだいっ!」
「は?」
育て方を間違えた。末娘だからと、大目に見過ぎた。
仕事仕事で、家庭を顧みない。そんな父の言う事なんて、聞かないか。それにしても酷すぎる。なぜ、こうなった。
学校から何度も、連絡が来た。
授業態度が悪い。難を言えば、性格が少々。このままでは進級が等等。勉強も運動もダメ、芸術センスなし。特技など皆無。
容姿は整っているが、いつか衰える。控え目な性格なら、政略結婚させられる。しかし、難しいだろう。
外に出せば、恥をかく。兄も姉も、優秀なのに。
「ねぇ春奈、解るように説明して。嫌いな双子に、なぜ集るのか。私たち、アンタに何かした? たった一年、早く生まれたダケで、イロイロ我慢させられた。迷惑かけられた。」
年子の兄が、キモ男。年子の姉が、女もどき。尊兄さんにも、旦兄さんにも、そんなコト言わない。ねぇ、なんで?
「はぁ? コッチの方が、迷惑だってぇの。」
「私たちが何度、母さんの代わりに、呼び出されたと思ってんのよ!」
そうだ、そうだ!
「何だって? いや、すまない。」
私の所に、連絡が来るくらいだ。美弥子が聞き流したか、無視したんだろう。情けない親で、申し訳ない。