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短編:一万五千文字以下の作品

旅人

 各地を巡る旅人がいた。

 その旅人は一日中歩き、夕方になると誰かに宿を借り、朝になるとまた旅に出る毎日を過ごしていた。

 そして、今夜も初めて出会った人の家に宿を借りていた。

 その家は家族が多く、家は狭く、布団という布団もない。誰が見ても貧しいというような家だ。


 旅人は歓迎され、わずかな食糧を大家族と囲い、わけてもらった。

 近くの川で汗を流し、固く冷たい床の上で、寒いと家族と身を寄せ合って眠った。


 翌朝、旅人は皆に礼を言った。

「一日お世話になりました。ありがとうございました」

 幼子は旅人を囲い、

「もっと遊んでよ」

「もっと一緒にいようよ」

 と引き止める。

 じきに働き始める年頃であろう子どもは、無言で涙を拭う。

 両親は幼子にやさしく声をかける。

「この人は旅人だ。どこか、目的の地に行かねばならん。ここにはいられない人なのだよ」

 幼子たちはワンワンと泣き始める。

 長男が旅人に聞いた。

「我が家はさぞ窮屈だったでしょう。今度の宿では、どうかくつろげるところであることを願っています」

 旅人は微笑んで答える。

「いいえ、こんなに楽しい夜を過ごしたのは初めてでした。本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げると、旅人は両親になにかを渡した。

「これは、ささやかながらお礼です」

 そういうと、旅人は玄関を出ていった。


 両親は受け取ったものを見、驚き旅人を走って追いかける。

 受け取ったものは、この家からすれば何日分にもなる食料だった。


「た、旅人さん!」

 世話になった両親の声に、旅人は振り返った。

「あ、あんなにたくさんの食糧を! あんなにあれば、私たちなんかの家ではなく、もっといい家の人に泊めてくれと頼むこともできたでしょうに!」

 すると、旅人はにっこりと笑った。

「さきほど言ったのは、本心です。それに、あなた方は貧しくなどありません。どうか、忘れないでいて下さい。そして、またいつか会えるときがくるように、みなさんお元気でいて下さい」

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