表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

後悔は先に立たない

作者: 菫色の夢

ずっと通っていたラーメン屋があった


「あ~今日も美味しい!!」


つるんと麺を食べ、スープを飲み干すと京子はどんぶりを置いた。

麺はもちろんのこと、今まで感じたことのない澄んだスープと、

美味しい煮卵。どれをとっても京子のお気に入りだった。


残業続きの仕事でも、職場近くにあるこの店にくることが楽しみだった。立地の関係からか、やっぱりラーメン屋だからからか、男性客が多かったけれど、京子は臆することなく通い続けた。


そして夏からもう一つ、お気に入りがあった。


「いらっしゃいまっせ~!あ、京子さん!お疲れ様です☆」

疲れた身体を引きずって扉を開けると、爽やかな波留の声が響く。

アルバイトの彼女はいつも可愛い柄の三角巾で髪の毛を覆い、店長とお揃いのエプロンをしている。

すらりと伸びた脚に、ダメージジーンズがよく似合っていた。


「こんばんは、波留ちゃん。いつものラーメンと煮卵トッピングください」

「かしこまりました~☆」

カウンター席に座りながら声をかけると、水を持ってきてくれた波留ちゃんは元気に返事をするとさらさらとメモを書いて店長に渡しに行った。数分後、ラーメンを二つ運んできた彼女は隣に座るとエプロンを取ってくしゃっと隣に置いた。


「休憩??」

割りばしを割りながら京子は横目で彼女を見た。

頷く彼女の長いまつげがきらきら光って見える。

まつげだけじゃなかった。いつしか京子には世界が輝いて見えた。

京子はぷるぷると頭を振ると、いつものようにレンゲで一口スープを飲む。

綺麗なスープが疲れた身体に染みわたっていくようだった。


それからも時折、つかの間の『2人の時間は続いた』


お店で会うだけの、お客さんが少ない時だけの、

穏やかな時間だった。


仕事が在宅ワークになって、どのくらいだろうか。

お店も休業にはいって、1か月、2か月と過ぎていった。

あの味が食べたいと思っても、今は食べることができない。

もう少しの我慢。

また並んでカウンターに座りたいな、なんて思っても、

今は会うことができない。

まだ、我慢しなくちゃ。


家族が亡くなっても、亡骸にも会えなかったんです。

ニュースで見る情勢は、明るいバラエティ番組と違い

悲痛な情報ばかりが流れている。

祖母と住む私が、外仕事もないのにおいそれと1時間以上もかかる都内の店に行くことはなかなかに難しいことだった。

連絡先を聞いておけばよかったな、なんて後悔した。


3か月たって、4か月たってようやく一時出社が叶ったときには

それこそ本当に後の祭りだった。

仕事を終わらせて『ランチには間に合うかもしれない』とか、

『今流行りのテイクアウトとかやってないかな』と心を躍らせて店の前にたどり着くと、閉められたシャッターには”閉店しました”の文字が悲しげに風に揺れている。

屋根の角には蜘蛛が立派なレースを編み、弱肉強食の世の中の縮図を見せられた気がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ