07
次の日から、シャルロッテはリア先生の授業に出席した。
「おはようシャルロッテ」
「おはようルト」
「ルト、ごめんノート貸して。今までの授業出てないから」
「いや、別にいいんじゃないかな」
「え?」
ふわっと魔力が動いてリア先生が入って来る。
「みなさん、おはようございます。さあ、表に出ましょう」
ラルム先生が講義型なら、リア先生は実践型だった。
ルトのノートを貸してといった時の微妙な反応で察するべきだった。
なぜ、参加を断られていたのか、シャルロッテは身にしみてわかった。
__この授業、危ないわ。
気を抜いたらやられる。模擬戦を中心に組んだ授業は、大変だったが、とても分かりやすかった。
アンネが今は前に立って、男子生徒と向き合っている。
アンネは模擬戦ではまだ勝ったことがなかった。
リア先生は、勝者にも敗者にも等しく解説を入れていく。
「__であるからして、アンネさん、重要なのは度胸ですよ」
「……っはい……」
アンネはすでに涙目だ。
「シャルロッテさん」
「はい」
「アンネさんの傍にいて差し上げて。今日は特別に許可します」
シャルロッテはアンネの傍に行くと、その手を取った。アンネの手は震えていた。そして、見ると猫のような妖精も長い耳を伏せ、プルプルと震えている。
__召喚士の感情は、召喚獣に伝染する。
「落ち着いてアンネ。」
「シャルロッテ……」
「アンネ、逃げてばかりではダメだわ。将来は正式な召喚士になるんでしょう?」
「でも、私怖くって……」
「なら尚更よ、その怖いものと、あの子を一人で戦わせるの?」
「え?」
「アンネ。世の中は安全じゃないわ。召喚獣を守れるのは召喚士しかいないのよ」
「私が、守る」
「そうよ。傷つける為じゃないわ。あの子を守ることを思い浮かべて」
アンネの震えが収まっていく。
「私、やるわ」
その日、アンネは初めて、模擬戦で互角の戦いを見せた。
そうこうしているうちに月日は流れ、シャルロッテたちは二年生に進級した。
「ねえ、ヴァル」
「なんだ」
シャルロッテは気になっていることがあった。
いつも一緒にいるヴァルフリートだが、姿を消すことが度々あったからだ。夜の間姿を消すのは、シャルロッテに気を使っているのではないかとも思えたが……。
「ヴァルは、その、私の前から消えている時ってお家に帰っている状態なの」
「ふむ」
ヴァルフリートは渋い顔をした。
「言いたくないなら言わなくていいんだけど」
「それには、まず俺がどういう存在なのか説明する必要があるな」
「話してくれるの?」
「次の課外実習、どこに行くか決まったか?」
「まだよ」
「北の、そうだな、クロエ村にしてくれないか」
「わかったわ」
そこに行けば、何かがわかるというのだろうか。
二年生からは、課外実習が組み込まれていた。それは、実際に外に出て、世の中の現状を知り、慈善事業をする、というものだった。
「生まれ故郷を見に帰るという話はよく聞くし、大丈夫だと思う」
申請を出そうと校舎に向かうと、アンネとルトに出会った。
「久しぶり、アンネ、ルト」
「久しぶりシャルロッテ」
「本当だね。最近課外実習が続いているから」
「シャルロッテは、次にどこに行くか決めたかい?」
「クロム村に行こうと思って」
「え?」
アンネが真っ青な瞳を瞬かせて、聞き返した。
「私も行きたいと思っていたの。一緒に行ってもいい?」
「ふたりとも、そこに何かあるのかい?」
最近ではすっかり物怖じしなくなったルトが、落ちて来る眼鏡を押し上げながら聞く。
「私たちの故郷なのよ」
シャルロッテは当たり障りなく答える。
「へえ。僕も行こうかな。気になる噂もあるしね」
「噂?」
「なんでも、クロム村のあたりに、化け物が出るらしい」
「ばっ化け物?」
アンネが引きつった声を出した。
「化け物というかお化け?」
「やめてちょうだいルト。アンネが怖がっているわ」
「シャルロッテは怖くないの?」
シャルロッテの袖を掴みながらアンネが言った。
「怖いというか、気になる、かな」
ヴァルフリートの意味深な言動と噂は、関係があるのだろうか。