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06

 そこには、困ったような顔をしたラルム先生と、シャルロッテの授業の参加を断ったリア先生がたっていた。


リア先生は赤い髪の美女だ。同じ赤い髪でもアンネとは全く印象が逆だった。気の弱いアンネに対して、リア先生は何事もハッキリ言うタイプだ。つり上がった瞳が印象的で、猫を思わせる。その先生の使い魔は白い虎だった。


「シャルロッテですね」

リア先生が声をかけてきた。

「ラインハルトから決闘の申し出がありました。これを受けますか?」

「はい」

「よろしい。どちらかが、降参すればそれで決着、それが難しい場合は私たちが止めます。指示には従ってください」


 いつのまにか、野次馬ができていた。召喚士科の生徒だ。

取り囲むような彼らをラルム先生が制して、結界を張っている。


「二人とも、精一杯やりなさい。しかし、やりすぎないように」

ラルム先生は最後にそう、声をかけた。


 ラインハルトにシャルロッテは向き直った。

しんとした校庭はどこか不気味だ。ザワザワと風が木を揺らす音だけが通り過ぎていく。


「使い魔を、両者前へ」

リア先生の掛け声と共に、ラインハルトのヴォルフとシャルロッテのラピが進みでる。そう、見えるはずだ。


「はじめっ!」


「行けっ!ガングリオン」

「行って!ヴァル!」


ラインハルトの声に応えて、ヴォルフが殺気と共に上から飛んでくる。前足を叩きつけるつもりだったそこに兎の姿はない。一瞬動きが止まったヴォルフの後ろから飛び蹴りが放たれる。予想外の攻撃はけれど尻尾をかすめ、向き直ったヴォルフはすぐさま飛びかかる。


兎が逃げ、狼が追う。そんな風にも見えたが、兎が狼を翻弄しているようにも見えた。

そしてそれはおそらく合っている。気配を消した兎は強かった。


__この程度か。

シャルロッテはヴァルフリートがせせら笑うのを聞いた。

__シャルロッテ。


__なあに。シャルロッテは心で返す。実際はハラハラしていてヴァルフリートがなぜそんなに余裕があるのか不思議だった。


__いい機会だ。魔力の巡りを意識するんだ。

__巡り?


召喚士と召喚獣の間には魔力が循環していると聞く。それのことだろうか。シャルロッテは、ヴァルフリートを見つめ、魔力の糸を思い浮かべた。


はじめ、頼りなかったその感覚は掴んでしまえば膨大で、自身とヴァルフリートの間を途方もない魔力が行き来しているのがわかった。


はじめ、互角に見えた兎と狼の戦いは、認識できる魔力の巡りが多くなるほどに、兎が優勢に傾いていく。


__身体が軽いな。

ヴァルフリートが嬉しそうに呟く。


 それはまるで魔力の渦だった。紛れもなく二つの個体であるのにまるで一つであるかのような不思議な感覚。それを掴んだと思った、その時だった。


__これで終わりだ。


動きの鈍くなったヴォルフの顔面にラピの飛び蹴りが入った。


「そこまで! 勝者、シャルロッテ!」

リア先生の声が響いた。わあっと野次馬から歓声が上がる。


「なぜですか!? まだ戦えます!」

ラインハルトを見ると汗をぐっしょりとかいて、肩で息をしていた。


シャルロッテは自分の手を見下ろした。何故だろうか。疲れはなく、むしろ身体が軽いくらいだった。


「魔力切れの症状はないかい?」

ラルム先生がこちらに歩いてきた。

シャルロッテは首を振る。


「いい顔色をしているね。これは循環が上手くいったのかな?」


 野次馬に向かってリア先生が声を張り上げた。

「召喚士科の皆さん、課外授業です。魔術師は魔力を扱います。しかし、魔力切れを起こすことがあります。そうですね?」


突然始まった講義に生徒たちにざわめきが広がっていく。


「お静かに。召喚士は、召喚を行う分、魔力を消費します。しかし魔術師に耐久力の面で劣っているわけではありません。むしろ優っているのです」


どうしてですか? と声が上がる。


「授業でやったと思いますが、召喚獣と召喚士は魔力の糸で繋がっています。それは一方通行ではありません。__与えるだけでなく、巡る力。それを見つけることができれば、シャルロッテさんのように、これだけの戦いをした後でも立っていられるのです」


以上。とリア先生は締めくくった。


カツカツと靴音を響かせて、リア先生がシャルロッテの方へやって来る。

「明日からの授業は出て構いませんよ」

それだけ言って去っていった。


ラルム先生も、リア先生に用事があったんだった、というと校舎に向かっていった。


「おめでとう」

声がして、振り返るとルトが立っていた。

「僕も頑張らなきゃって思った」

彼はもっと何か言おうとしたみたいだったが、上手く言葉にならないみたいだった。


「ありがとう。心配してくれて、嬉しかった」

「いや、余計なお世話だったみたいだ。かえってごめん」


「そんなことないわ。ルトよかったら仲良くしてね」

いうと彼は驚いたような顔をした。


「僕でよかったら」

こちらこそ、とルトは微笑みを浮かべた。

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