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03

 そうしてシャルロッテは裏庭に立っていた。魔文字のない魔法陣を前にごくりと唾を飲み込む__今まで、フェアリーを呼び出すために、何度も描いた陣形。しかし、いつも感じる誘惑に今度は抗わずに神の中央に手を置く。


「汝呼びかけに応えよ。我魔術師なり」

教わった通りに唱えると、風を感じた。そして強い視線。見られている。


__あなたは誰?

強く願った。

__来て!


 ゴウゴウと音がする。耳鳴りのようなそれと同時に魔法陣が明滅する。一面がアイスブルーの光に包まれる。大きな魔力が吹き荒れるのを感じた。

手を離してはいけない。それは本能だった。


シャルロッテは必死だった。そうして光が収まると、そこには、漆黒の髪にアイスブルーの瞳、黒衣を纏った青年が黙ってこちらを見下ろしていた。


呼び出したのはこちらなのに、観察されているようだった。ジリジリとした視線を感じる。シャルロッテは身震いした。


 これは、まずいことになった。呼び出したものは禍々しいほどに美しかった。これは、どうみても魔物だ。それもとびきり力の強い魔人。


シャルロッテは口がカラカラに乾いていくのを感じた。視線を向けると青年とかち合った。目が離せない。頬が勝手に熱を持つのがわかった。


ひとしきりこちらを観察し終えたのか、青年が口を開く。低く艶のある声だった。

「どうした?契約をしないのか?」


シャルロッテはハッとした。いいのだろうか? 騙されているのではないだろうか?


「すみません。驚いてしまって」

「何を驚く。召喚したのはそっちだろう。契約をするのか? しないのか? どうした?」

青年の指が頬をかすめシャルロッテは、自分が泣いていることに気がついた。

「あれ? わたし……」

「……いんをつけたのは間違いだったか」


その瞳が哀れむような色を含む。

「契約は止めるか?」

「待って下さい!」


 シャルロッテは必死で引き止めた。どうしても嫌だった。たったこれだけで泣いてしまうほど、自分が召喚が出来ないことで追い詰められていたことに気づいてしまった。


 これは多分危険だ。この人でないものは望みさえすればシャルロッテをこの場で殺すことも難しくないだろう。それがわかる程度には、シャルロッテは訓練を積んできた。それでも__


「今、契約書を」

 契約書は格下の相手を保護するもの、同等の相手と高め合うもの、格上の相手を尊重するものと習ったが、彼女は震える指で、その中のどれにも当てはまらないものを書き始めた。


「これでいかがでしょうか」


 彼女が宙空ちゅうくうに書いたのは3つだ。

一つ___あなたの意思を尊重します。

一つ___人を殺してはなりません。

一つ___私と契約してくださいませんか?


もう契約書なんだかなんだかわからなかった。青年は困ったような顔をする。

「お前は俺を使役するために呼んだのではないのか?」


「私は、お恥ずかしながらフェアリー一匹呼べない召喚士です。あなたは、きっと私なんてすぐに殺せるはず。でも、あなたは私の呼びかけに答えてくれたから」


だから契約して欲しいのだ、とシャルロッテは訴えた。

駄目でしょうか? というと俺の負けだなと彼は言った。


「契約は成立だ__しかし」

頷いて宙に浮かぶ契約書の中に手をつっこんだ。


「お前、名はシャルロッテだな」

シャルロッテはぎょっとした。


契約書を書き換えられるなんて聞いてない。

人を殺さないという一文を消されてしまったら大惨事になる。


ただ見ているしか出来ないシャルロッテの前で契約書に一文が足される。

一つ___(あるじ)シャルロッテをできる限り守ること。



なぜ、こんな一文を?目を白黒させるシャルロッテの疑問に彼は答えた。

「よく見ろ、この契約書ではお前に得なことがない。このくらいは、な。俺がお前を見殺しにするかもしれないだろう」


そう考えなかったのか? と言われて、でも、と考える。

こんなに親切なこの異形が、そんなことをするのだろうか、と。


「よろしくな。シャルロッテ、俺はヴァルフリートだ」

言い終わると同時に彼はシャルロッテと両の手を合わせるように重ねる。足と足も絡め取られまるで押し倒されているかのようだった。


彼の美しい瞳がすぐそばに見える。ついで両手両足がカッと熱くなった。シャルロッテは見た。お互いの手の平から腕に対になるようにイバラのような文様が絡みついて刻まれていく。おそらく足も同じようになっているはずだ。


これで___俺のものだ。


ククっという笑い声を聞いた気がした。とんでもないものに捕まってしまった。


魔術師は両の手と両の足の数しか召喚獣を持てない。だからシャルロッテの使い魔は彼一人___。


くらりと目眩がする。

「おやすみ、シャルロッテ」

その声を最後に意識はふつりと途絶えた。


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