表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

02

 さあ、外に出て、やってみましょう。その声にうながされ。ノートを持って校庭に出る。地面に魔法陣を描くためだ。ノートに描かないのはすぐに消せないからリスクが高いためだ。


ぶつからないように広がると、皆が一斉に地面に魔法陣を描き始める。

シャルロッテも魔法陣を描いた。丁寧に円形を重ねていく。次に魔文字を書こうとしたときだった。


__見られている? それは何処かで感じたような既視感だった。ふらふらと魔法陣の中央に引き寄せられ、そのまま手を置きたくなるような抗いがたい何かがあった。


「わあ!」

その時、声が上がった。クラスメイトが召喚に成功したのだ。シャルロッテはハッとして震える指で魔文字を書いた。


何も起こらない。__失敗だ。


シャルロッテはドキドキする胸を抑えた。ほっとしたような残念なような不思議な気持ちだった。


__あの時、魔文字を書く前に、手を置いていたらどうだったのだろうか?

抗いがたい誘惑に、シャルロッテは怯えた。何か、恐ろしいことが起きてしまう気がした。予感だった。


「シャルロッテ!」

授業が終わると目を輝かせたアンネが飛んできた。

「アンネ。成功したんだ?」

「うん。シャルロッテは?」


失敗だよ。と告げると、ごめんねとアンネは言った。

「気にしてないよ。良かった。アンネが成功して。一回目だもの仕方ないわ」


告げつつシャルロッテは嫌な予感がしていた。

次の日も、そのまた次の日もシャルロッテの召喚は成功しなかった。




 一つの季節が丸ごと過ぎ去っても、一番簡単と言われるフェアリーが呼び出せないのを見て、ラルム先生はシャルロッテを呼び出した。


「一度魔力を測ってみましょうか」

「お願いします」


物置のような資料室に向かい、透明な石__今なら水晶だとわかる、を持ってくる。

「手をここに」

「はい」


シャルロッテが手をかざすと、アイスブルーの光が溢れ出した。熱を感じて思わず手を離す。

「すみません」

ラルム先生は、難しい顔で考え込んでいた。

「要経過観察……」

「え?」


「いえ。なんでもありません。シャルロッテは水晶に触れられない(・・・・・・)のですね?」

「はい」


この感覚を説明すべきだろうか。シャルロッテが口を開きかけた時だった。


「もしかしたら、召喚獣の件は、時が解決してくれるかもしれません。ですが、水晶に触れられないというのは、今は伏せておいた方がいいでしょう」


「私が思うにあなたはとても強い力を持っています。召喚士ではなく、魔術師になるのも一つの道だと思いますよ?」


これは慰められているのか、それとも遠回しに科を移れと言われているのか。


「しばらく考えさせてください」

すっかりしょげてしまったシャルロッテに、ラルム先生は困ったような顔をしていった。


「それではこうしましょう。魔導の先生に話を通しておきます。召喚を試しながら、魔術も習うといいと思います。そうすれば、必ず何かの役に立つはずですから」


ね? と優しく微笑まれると、流石に断れず、はい、と首を縦に振った。



 シャルロッテは、半年経っても召喚に成功しなかった。初めは慰めてくれたクラスメイトも遠巻きになり、ラインハルトに至っては嘲るように陰口を叩くようになった。


「今日も落ちこぼれの魔術師さまは召喚するのかい?」

なれやしないのにね。と声高に言う。

「わからないわ。今にあっと言わせてあげるから」


シャルロッテはキッと睨みつけて横を通過する。もうちらほらと使い魔を決めたものたちがいる。シャルロッテが落ちこぼれだから魔導科の先生に習う許可が出ているというのが、召喚士科の皆の見方だった。


 シャルロッテは認めたくなかった。負けず嫌いだったから、心を保っていたと言ってもいい。魔導科での攻撃魔法や癒しの魔法に適性があり、ぐんぐん伸びていったのもシャルロッテをへこませる原因になっていた。


やっぱり召喚に適性がないのでは?自問自答を繰り返してしまう。

今日呼び出しがあった。学園長先生からのそれにおもむくと、使い魔がいないままでは進級が出来ないという話だった。


シャルロッテは使い魔の呼び出し方を知らない。もしかしたら、召喚が出来ないからと断られた授業でそれは習う内容なのかもしれない。



「ねえ、シャルロッテ」

とぼとぼと寮へと向かう道を歩いていた時だった。

「久しぶりね、アンネ」

そこには、長い耳の猫のような妖精族を連れたアンネが立っていた。


「わ、わたしね、使い魔決めたの」

「おめでとう。この子が?」

「ええ、ありがとう。それでね、シャルロッテに言わなきゃって思って」


アンネは神妙な顔をしている。

「何が?」

「アレなのよ」

「あれ?」


声を潜めてアンネは言った。

「秘密よ。召喚できないとダメって、シャルロッテ断られた授業あったじゃない?」

「どれのことかしら」


正直な話そんな先生は何人もいる。ラルム先生は差別しないけれど、他の先生は違った。

「今日、正式な使い魔の呼び出し方をやったの」

聞いて、とアンネは真剣な顔をして言う。


「魔文字のない魔法陣なの」

「え?」


正式な使い魔を呼び出すのは、魔文字のない魔法陣なのよ。と彼女はもう一度言った。


秘密にしてね。でも、試してみる価値はあると思うの。彼女はそれだけ言って去っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ