転生ささやきダンジョン〜白猫魔導師さんと一緒に「大声を出すと狭くなる部屋」から脱出!〜
白猫魔道士さんと「大声を出すと狭くなる部屋」に閉じ込められ、ぎゅうぎゅうの状態で魔道士さんといちゃいちゃするお話です。
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https://booth.pm/ja/items/1412017
『転生ささやきダンジョン〜魔道士ねこっ娘とふたりでいちゃいちゃ迷宮探検〜』のアナザーストーリーになっています。
「えーと、戦士くん……」
「なんですか、魔導師さん……」
「あの、鎧がガチャガチャ鳴っちゃうからさ……、体ゆすらないでくれない……?ただでさえ狭いのに、また狭くなっちゃうから……」
猫魔道士さんは、とても迷惑そうな声で不平を言った。「なんで私達、こんなにぴたっとくっついてるんだっけ……?」
「はい、すみません……」
僕と白猫魔道士さんは、ひょんなことから二人でダンジョン探検をしている。僕はもともと普通の人間だったが、この世界にきてからは『戦士』ということで一応頑張っている。ただ、いつも僕のミスで猫魔道士さんには迷惑をかけっぱなしだ。
今日、まさに今も、僕らはふたりで密室に閉じ込められている。魔道士さんは猫の獣人で、背は僕の肩ほどしかない。それが今は、ぎりぎり体がくっつくかくっつかないかの瀬戸際の広さの空間で、お互いを向き合って立っている状態だ。
「……戦士くん……」
「はい、なんでしょう……」
「……この部屋が、『音』に反応して狭くなるってのは、さっきわかってたよね?」
「そうですね、僕が『なんだこの部屋は!』って叫んだ時に、壁が動き出したので」
「そのあと私がなんて言ったか覚えてる……?」
「はい、最初、小声でなんて言っているかわからなかったので、僕は屈んで聞き直したんです。そしたら、魔道士さんは、『しーーーっ、静かに』と言いました、僕の耳元で……」
「それで戦士くんはどうなった……?」
「僕は魔道士さんのささやきに耐えられず、『うひゃーーーー!!!!』と声をあげてしまいました……」
「そうだね、それがこの結果だよ」
猫魔道士さんは音が鳴らない程度に壁をぺしぺし叩いた。「もう一回狭くなったら潰れちゃうねー」
「……ごめんなさい……」
「……にゃ」
猫魔道士さんがにゃあにゃあ言っているときはなんらかの感情が高ぶっている時だ。
「とりあえず、どんな条件で壁が元に戻るかもわからないから、一旦様子を見よう……戦士くん、いいよね……?」
「……はい」
「じゃあ、いったん、休憩ー」
猫魔道士さんはその場に体育座りした。
「私はここでおやすみします、あとはまかせた」
猫魔道士さんはフードを目深に被った。冬眠モードだ。
僕はスペースがないので立っているしかない。
……うーん、どうしよう……。
猫魔道士さんのかすかな寝息がいつのまにか聞こえてきた。
……このくらいの音量なら、罠は動かないんだな……。
僕はこれからどうすればいいか考え始めた。
考えていると頭がぼうっとしてきた。
いつのまにか、僕も立ったまま眠っていた。
○
「……ふがー…………ふがー…………ふがー……」
……なんの音だ。
「……すぴーーー、すぴーーー、ふがががが……」
……寝息のレベルが、上がりつつある。
僕は足元を見た。
行儀よく座っていたはずの猫魔道士さんだったが、今はフードもはだけて僕の足にまとわりついたようにして寝ている。
大口を開けて。
よだれを垂らして。
……犬歯、結構長いんだな……。
「……ふが、ふが、ふがががが……」
いつも冷静な猫魔道士さんが、アホ面を晒していた。
僕はできる限りの小声で「……魔道士さーん、朝ですよー……。おきてくださーい……」
「にゃむにゃむ……、……すぴー…………」
起きない。
まいったな。
「……が、がが、ふがああああああ……」
寝てるのは良い。ただ、寝息が。
……このままでは、罠が作動するのではないか。
大声を出すと狭くなる部屋。
猫魔道士さんがもう少し大きい声でふがふが言ったら、そのまま僕と一緒に潰されてしまうかも知れない。
これは困った。
なんとしても、魔道士さんを起こさなくては。
「魔道士さーん、起きて下さーい、朝ですよー」
「……にゃむにゃむ……ふがー」
「魔道士さーん、このままだと死んじゃいますよー」
「……にゃにゃにゃ……ふにゃあああ……」
なんだこいつは。
いつもの猫魔道士さんではない。
毛玉だ。
にゃむにゃむ言ってるかわいい毛玉が、僕の足元に転がっていた。
「……猫魔道士さーん」
「むにゃむにゃ……」
「……ねこさーん」
「ふがふが……にゃにゃにゃ……」
意識が無いながら、僕の足にまとわりついてきた。
「……ねこちゃーん」
「……にゃうー……」
は。
かわいい。
毛玉、かわいすぎる。
僕はこのまま時が止まってほしいと一瞬思ったが、すぐ我に返った。
やばい、この状況。罠が作動していないほうが奇跡だ。
「魔道士さん、本当に、起きてください。ほら、起きて、ほらほら」
僕は猫魔道士さんを軽く足でげしげしした。
「にゃ゛う゛っ、……にゃ゛う゛にゃ゛う゛゛」
変な声出てる。
「う゛う゛う゛う゛゛」
がじがじ。
噛まれている。
鎧のすね当てを、噛まれている。
僕は必死の小声で、「ちょっと魔道士さん……!やめてください……!それ、食べ物じゃないです……!やめて……!ちょっと……!」
「……にゃ゛にゃ゛にゃ゛にゃ゛……」
「……ちょっと、……え、本当に寝てる……? 強い強い強い、あ、ガチ噛みですよ、それ、歯欠けちゃいますって、ねえ、猫魔道士さん、ねえねえ」
「……にゃ゛にゃ゛にゃ゛にゃ゛……」
がじがじ。
あ。
貫通した。
犬歯、スネに到達した。
「…………………………!!!!!!!!!!!!!!」
耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。
え???どういうこと???普通に痛いんだけど、え?なにこれ?鎧って噛めるの?防御力低すぎない?え?????いたいいたいいたい!!!!
「にゃうーん♡」
「……っっっ!!!!!???????」
『にゃうーん♡』じゃないよ!!!!!
痛いよ!!!!
小声、小声、小声で、
「魔道士さん魔道士さん魔道士さん……!」
「にゃう〜♡」
だめだ、止められない。
……力尽くしか、ない……!
僕はなんとか屈み込み、魔道士さんのほっぺを両手で両側から挟み込み、思い切り揉んだ。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに!!!!
「う、うにゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
白猫魔道士さんが、叫んだ。
壁が、動き出す。
僕は魔道士さんの首の皮を掴み、僕の顔程の高さまで持ち上げ、目の前に一本の指を立てて「しーーーー……!静かに……!」
猫魔道士さんは、叫ぶのを止めた。
目を白黒させて僕の方を見ている。
「……え……? ……なに……?」
「しー、です。しー……。魔道士さん……」
「ああ、なるほど……」猫魔道士さんはなにかに気づいたようで、「ええと、あー、………………ん? なるほど?」
なにもわかっていなかった。
「……音に反応する罠です、魔道士さん」
「あ、ああー」魔道士さんはちょっとだけばつが悪そうに、「それだよね、それ、あれのやつね。そういえば、あれがあれしてるんだったよねー」
「そうなんです」
すでにぼくらは、ほとんど密着状態になっていた。
「とりあえず、下ろしてくれ……る?」
「下ろすスペース、ほとんどないですが……」
「たしかに……」魔道士さんは、「じゃあもうしわけないけど、だっこしてもらっていいかなあ……?」
ええと。
はい。
うん、仕方がないですよね。
僕は右手に猫魔道士さんのしっぽのふかふかを感じながらその場に結構長いあいだ突っ立っていることになった。
○
これは、その後の話である。6時間の経過後、一人でに壁はずるずると元の位置に戻り始めた。時間が立つとやり直しになる仕組みらしい。ぼくらは一旦元の扉からその部屋を出た。ぼくはずっと立っていたので、完全に限界だった。その場にへたりこみ、そして仰向けに寝転んだ。
「限界です、魔道士さん……」
「あー、はいはい、回復魔法かけてあげるから、ちょっと待ってて……」
「『……女神よ……この卑しい獣の手に……一筋の光を……』!」
治った。
「あー、疲れが取れました、ありがとうございます」
「よかったねー、戦士くん、わたしがいなかったら今ごろダンジョンの壁と一体化してるとこだったよー」
「あ、そうかもしれませんね、あはははは」
「だよねー、あはははは」
あー、楽しいな。ダンジョン探検は。
「でさー、戦士くん」
「なんですか、魔道士さん」
「さっき私をだっこしてるとき、お尻触ってたの、わざと?」
「え、触ってないですよ、お尻」
「なんで嘘つくの?」
「だから、触ってないですって、お尻」
触っていたのはしっぽだ。
「……戦士くん」
「……はい……」
「一応、今回は状況がしょうがないやつだったってことなんだろうけど」
「……はい……」
「次からは、お尻触りたくなったら、ちゃんと私に相談してね……?」
え。
どういうことだ。
お尻、触らせてくれるのだろうか。
相談をちゃんとすれば?
「もし次にそういうことがあったら、『欲望を無に帰す魔法』ってのがちゃんとあるから、それでちゃんとしてあげるからね」
「え、なんですかそれ、怖い」
「んーとね、猫系獣人はよく処方されるんだけど、例えば小さい村とかで、その土地にそれ以上仲間を増やさない判断があった場合にかけたりするんだよ」
「え、それって、人にもかけられるんですか」
「もちろん、物理魔法だから」
物理魔法……。
「しょきしょき」
しょきしょきとか言ってる……。
「欲望、無に帰されたくないです……」
「よしよし、それじゃあ、こんどからは気をつけてね〜♡」
「はーい」
そんなかんじで、今回のクエストは終了した。
白猫魔道士さんとの旅はとても楽しい。
今度はどんな罠が待ち受けているんだろうなー。
「しょきしょき♡ しょきしょき♡」
なんだか楽しそうな魔道士さんの声を横に聞きつつ、僕らは次の旅路に進むのだった。