救出劇1
プロローグもどきを後一話で終わらせたいとは思っています
「第一は二階へ、五人ほどです。第二から第四は一階を制圧。二十名はいるようです。第五は敗走者の捕縛です。第六は私に続いて下さい」
「「「「「はっ!」」」」」
ぺレインは連れてきた騎士隊に指示を出す
ぺレイン、性は無い 狼の獣人
薄茶色の毛を持ち月の様に黄色い目をした老齢の家令だ
頭部こそ狼そのものだが、体は人と変わらない
隣国シュウ国から定期的に来る職業訓練の名目でアリアベース王国に訪れ、当時大公の地位になる前、第二王子だったマグノリアルと交流の結果、今は腹心として大公ダルサスーン家に執事をまとめる家令となっている獣人だ
マリーローズの誘拐を王城で知らされ、王と王太子、そして、マリーローズの父親であるマグノリアルから城にある直ぐに動ける小隊を全て連れてマリーローズ救出を命じられてきたのだ
将軍クラスとも武術で未だに渡り合えるぺレインに従うものは多い
元より、獣人は人よりも身体能力がかなり上
人間十人と獣人一人でも獣人が勝つと言われるほど
そのため、職業訓練で貴族の私兵から国の特殊部隊という物が多く、毎度取り合いが起きるほどだ
その中でも執事から家令にまで地位を上げたぺレインは知略の面でも優秀であり、日頃、主人と共に王城に訪れたときに兵士の指導を丁寧に教えることから評判もある
人望厚いぺレインが声をかければ門をくぐるときには王城に整っていた全ての小隊が追従していた
結果、外にいた誘拐犯達の偵察隊は三小隊で潰し、残り八小隊で周りを固めるという過剰戦力が発揮された
ぺレインは兵達がそれぞれの場所に向かうのを確認して鼻を鳴らした
覚えのある臭いはすぐにある扉から強く感じる
同時に悲鳴が上がらないことに焦りを覚えたぺレインは急いで向かったが扉は素直に開いてくれなかった
「諦めた方がいいんじゃねえの?」
少年は心の中の安心を隠しながら言う
形勢逆転
だが男は口元だけを笑わせると勢いよく立ち上がり自分の座っていたソファーを扉向けて蹴った
ドン
「確かにこりゃーこっちの分が悪い。というか…終わりだ」
「……」
少年は息をのむ
男の纏う空気が明らかに変わった
自分の言葉が失言だったかとも思うが、反省よりも身を固く構える方が先だった
扉からガチャガチャとうう音も聞こえた
小さく悲鳴も聞こえる
少年はまだ知らなかった
退路を断たれた獣がどんなに恐ろしく、予想すら難しい存在になることを
男は腰についていたナイフを取り出す
扉は咄嗟に塞いだが残された時間が、短いことは明らか
なら、と最も有効に相手に打撃を与えることが男に残された手段
「坊主、覚えとけ、人質っていうのはな、要求を飲ませるためにいるんだ。相手がそれを拒否するなら人質に価値は無くなって処分するだけなんだよ」
価値、無くなる、処分
「!?」
少年は一瞬理解に遅れる
マリーローズの味方が、来たと思ったのは良しと思う
それがマリーローズの命の危機に繋がらなかった
助かるんじゃねーのかよ!?
助けが来たから解決など本の中だけである
人質となった対象が無傷で保護されて解決なのだ
少年は身構える
だが男は素早かった
男は目障りになった少年にナイフを突き出した
少年は避けること叶わず腹部にナイフが深く突き刺さる
「グッ!!」
「うめき声だけか…もっと早く見つけたかった、ぜ!!」
「!!」
男はトドメと言わんばかりに更に深くナイフを捩込んでからナイフを抜いた
痛みにはなれてはいたが流石に少年は膝を着いてしまい、同時に夥しい量の血が床に落ちた
それはマリーローズが男の乱暴な動きにビクリとして思わず視線を持って行った瞬間だった
膝を着いたとこだけしか見えない
だが、血を見る事に障害は無い
少年の折れた膝とともに見える赤い液体
「~~~っ!!!!!」
理解すると同時にマリーローズは叫ぶ
音にならない声を喉から上げる
いや、いや、血、血が、血が、
ダメ、いや、いやーーー!!!
何が起きているか正確に理解ができなくとも見たこともない量の血は最悪を連想させる
マリーローズは手を伸ばす
少年に
駆けつけるには難しい体勢
距離は短く、直ぐに届きそうな手は震えてなかなか進まない
お願い、死なないで
おねがい…
ドン
マリーローズ視界が明るくなり、背中に感じていた圧迫感が無くなる
男がマリーローズが隠れていたソファーを吹き飛ばしたと理解したのはマリーローズが恐る恐る振り返り、狂気を含んだ目で笑いながら見下ろしている男と視線がぶつかったときだった
「ーっ!!!?」
「かくれんぼは楽しかったかい?」
「やっやめ…」
「まだ動けるのか、邪魔だ引っ込んでろ!」
「グハッ!!」
「!!」
マリーローズを視界に納めた男に少年は立ち上がる
しかし、男は容赦無く前蹴りで少年を壁にたたき付けた
少年は背中を壁に打ち付けそのまま座り込む
立て!俺!
今、今だけは絶対に負けるな!!
でも、チクショウ!
力が、出ねぇ
クソーーー!!!
男はマリーローズを見下ろす
幼いが、もう数年もすれば美しく花を咲かせる事を約束された少女
乱れても輝きを失わない黄金の髪は生まれながらの王冠にも見える
涙を溜めた瞳はその色からそこに海が存在しているようだ
男はゴクリと喉を鳴らした
そんな少女の命を奪うという事実が男を高揚させる
「恨むならお前の父親達を恨めよ。俺達は金さえ貰えればお前の声も戻して無傷で返してやるつもりだったんだからな」
「…っ…」
「そうだ、お前さんより金を取ったんだよ。結果、悲しいことに俺はお前を殺さなきゃなんねぇ」
マリーローズは男の言葉を嘘だと首を振りながら否定する
男は時間をかけてマリーローズの心を深く傷つけて殺したいが、時間は無い
背後のドアからは体当たりの音が聞こえだしている
突入までの時間は短い
なら出来るだけ深く傷を残して、種を植付ける
殺せなかった時の布石のために
男は恐怖で動けないマリーローズに馬乗りになりナイフを振り上げる
マリーローズは小さく横に首を振りつづけた
やめてと
「お嬢ちゃん、間違えるなよ、恨むなら子供の命より金が大事なお偉さんだ。お偉さんが金を取ったから、俺はガキも嬢チャンも殺さなきゃなんなくなったんだから、なぁ!!!」
マリーローズの瞳に振り上げられたナイフが迫る
恐怖でマリーローズは目を閉じれなかった
赤い血の着いたナイフが碧いマリーローズの瞳で揺れる
血の主は大丈夫だろうか?
自分の両親の選択が、自分が近付いてしまったから傷付いた少年
マリーローズはゴメンナサイと唇を震わせた
グサッ
バリーン
マリーローズの瞳から漸く涙がこぼれた
拝読感謝です
ありがとうございます(。 ・ v ・ 。)






