出会い2
少年の食べっぷりにマリーローズは怒りを、悲しさを忘れ見入った
少年の様な乱暴な食べ方を見るのは初めてだった
パンは小さくちぎって食べる
そう認識していたマリーローズからしたら衝撃だ
思わず、近づき側に膝と手を着いて近くで少年の食事風景を観察するほどに
「…返さねーぞ」
「うんうん、もういいの、だって貴方、お腹すいてたのでしょう?」
「……」
少年は無言を答とした
空腹かと聞かれればわからないが正確である
一日に一食もありつけない日は普通だ
数日水だけで過ごすことも当たり前であり、同じく数日水すらありつけない時もある
まだ少年という身ながら、もう体が空腹という概念を忘れたか、慣れたと結論づけてしまうほどだ
「私の屋敷にくる?一杯ご飯を出すわ」
「……」
少年からしたら魅力的な提案だった
しかし、ここで頷くは少年の子供らしからぬ矜持が許さなかった
薄汚れた布をかぶりつい、全身泥だらけ、来ている服はサイズが小さく体に張り付きボロボロでもプライドはある
今まで一人で生きてきた
大人に頼ったことなど無い
これからも一人でやっていける
大人に、他人に甘えている身分にしっぽを振るような真似はしたくない
無言の少年にマリーローズは顔を覗き込む
少年は慌てて顔を布でかくしたが、マリーローズはしっかりと少年の目を見た
「あか」
「!?」
「綺麗な赤い色。素敵、もっと見せて」
「やだよ!」
少年の瞳は赤かった
夕日よりも、炎よりも、マリーローズの母親が持つ赤い宝石入りも、そして、血よりも
少年はマリーローズから顔を反らすが、マリーローズは負け時と覗き込んだ
「私、そんなに綺麗な赤い色始めてみたわ。ねぇ、お願い、見せて」
「嫌だって言ってるだろ!?しつこいぞ!」
少年は顔が熱くなる
綺麗など言われたことの無い忌み嫌われた瞳
この瞳故に親から捨てられたとすら思っている
事実、少年の目を見た大人はその赤い目を見ると蔑み、子供なら石を投げて来る
少年はそういう反応しかされたことが無い
綺麗など、称賛されるなど初めてで、どうすれば良いのかわからない
少年はマリーローズに背中を見せるように体を少し回転させ、パンを胃に流し込む
完全な照れ隠しである
「…ねぇってば、聞いてる?」
「……」
聞いているというより、横で大きな声で言われれば嫌でも聞こえる
それでも少年は無視を続ける
「むぅ~ねぇってばぁぁぁ!!」
「!!!!」
しびれを切らしたマリーローズは少年の耳目掛けて大声を発した
流石に少年も無反応でいられない
鼓膜が破れる寸前だ
キーンと高い音が響く耳を押さえてマリーローズを睨みつける
驚きは勿論あるがそれ以上に怒りで一杯だ
ダメージが上回って何も言えないが
「聞こえてるんじゃない。黙ってちゃわからないわ。」
暗に黙っていた少年が悪いといいたげに耳を押さえる少年に胸を張ってマリーローズはいう
しかし、戸惑っていたのだ
初めて受ける施しに
初めて、自分さえも嫌っていた目を綺麗と言われ
今までに無い対応にどうしたら良いのか判断が着かず、結果無視という形を取っただけにすぎない
物理的に被害者となった今となってはそれはかわいらしい子供の悪あがきだったのだが
「だっだからって耳元で叫ぶ奴があるかよ!?」
「返事しないから聞こえないと思って」
「…!」
いきなりシュンとされても困る
明かな被害者は自分なのにこれでは怒った自分が悪い様にしか感じない
既に涙が溜まりかけて潤んでいる目は否応に罪悪感を少年に抱かせるには十分だった
「あーもー俺が悪いんだろ!!」
いや、悪いに違いないのだが、少年はやけくそで言う
そもそもマリーローズのパンを奪ったことが始まりなのだから
「パンは…返さねェけど目ぐらいなら見せてやるから、泣くな」
「…ほんとう?」
少年は無言で布を頭から外す
そこから表れたのはマリーローズがチラリと見た赤い目と、雪のように白い髪を持った幼い顔だった
「すごい、綺麗、私こんなに綺麗な赤も白も始めて見たわ」
「……」
少年は少しだけ顔を横に向けて再びパンをかじる
明日のために残しておくつもりだったが何もせずに見られるだけという行為に耐えれる精神は残念ながら育っていないので今できることは食べること以外に無いのだから仕方ない
ただ見られるもの緊張するし動きにくい
何より照れ臭い
顔に出す全身の熱が集まっているようにすら錯覚を起こしそうだ
「お嬢様!」
「マークス?」
「!?」
少年は突然現れた声に慌てて布を被り直して走り出す
条件反射であったがしっかりと残りのパンは持っていた
「!待って!私はマリーローズ、マリーローズ・ヴィ・ダルサスーン、あなたは?」
少年はマリーローズの声に立ち止まることなく路地に消えた
「お嬢様?」
振り返りもしなかった
それでもなぜかマリーローズは満足だった
微かに頷いているいるように見えたからきっと聞こえていると信じられた
「マークス、心配かけてごめんなさい。」
「いえ、お嬢様が無事なら良いのです。しかし、あのようなことは今後はされないで頂くと助かります。」
「はーい」
マーカスはマリーローズの手を取り大通りに移動する
姿が見えなくなった瞬間は肝が冷えたが無事ならそれで良い
主人である大公と奥方からは厳しい注意が二人を待っているだろう
それでもマリーローズが怪我一つしていないことが重要で、見失ったことは間違いなく自分に落ち度があるので仕方ないとおもいつつ大通りのハジに待たせておいた馬車に乗り込む
「ねぇマークス」
「はい」
「もし、赤い瞳と雪にように白い少年がお腹をすかせていたら助けてあげて、」
「…それはさっきの少年のことですか?」
「とっても綺麗な色だったの、そして、凄くお腹をすかせていたの」
「かしこまりました」
「また、会えるかしら?」
「お嬢様が会いたいならきっとまた会えると思いますよ」
「そうかな?そうだといなあ。あのね、綺麗でお腹すかせてたけど、優しくてね、なんだか可愛かったの。次に散歩するときに会えると良いな」
マリーローズは帰宅して母親と父親に泣きつかれて自分の行動を反省したが、同時に不思議な満足感に満たされていた
次に少年に会ったら色々な物を食べさせてあげたいと自分が食べた中で美味しいと思った沢山の料理から何がいいかと考えながらその日は早く寝付いた
少年と会えることを楽しみに
ありがとうございました(*^▽^*)