願い
今回短め、
きりがいいところがここだったんです
ごめんなさい
青年、ロゼは突き付けた剣を引く
別に殺したいわけでもない
優勝することが最短で望みを叶える方法だったから勝っただけ
相手に恨みもない
対してクラークは苦虫をかみつぶしたような顔を下に向けた
格下と思っていた国の、しかも一般人に負けたことはクラークの自尊心を打ち砕くには十分だった
「我が騎士を負かしたこともだが、軍上手と言われるリグリース国の代表を負かすとは、そなたの名を聞こう」
「ロゼと申します」
王太子に促されて王のアレックシスが問えばロゼは流れるような動きで臣下の礼をして応える
「おなごのような名だ…ん?あぁスマン、ロゼ、二つ目の名はなんだ?」
「…二つ目の名を聞かれたときはタートソンを名乗るように師に言われております」
王太子がアレックシス王の失言を肘うちで止める
ロゼはそれに気がつき、笑いを堪えて答える
「コホン、王に代わり王太子たるフィリップスが問う。褒美は王族の威信に賭けて出来るだけの事を約束するが、その前に騎士に志願する気はないか?」
「身に余る光栄とは理解しておりますが、お応えしかねます。申し訳ありません」
「理由を聞こう」
「我が願い、望みは一つ、そこにおられます大公マグノリアル・ヴィ・ダルサスーン公の御息女、マリーローズ・ヴィ・ダルサスーン令嬢に忠誠を誓い御仕えさせていただくこと。騎士は国に忠誠を誓うものと認識しておりますれば……」
フィリップス王太子の問いに返された答に会場はどよめきが起きる
「…私の名が出たので私からも質問をさせてほしい。私の娘に忠誠を誓う理由はなんだ?」
「私はダルサスーンお嬢様に大恩を受けた。それでは不服でしょうか?」
マリーローズの父親であるマグノリアルの問いにロゼは素直に答えた
本心でもある
「おそらく、幼少時の事ですのでダルサスーンお嬢様も覚えておらぬでしょう。それでも、私は一時もあの時、忘れたことはありません。そして、その大恩に報いるために今日まで努力してまいりました。どうか、慈悲を持って私の願いをお聞き届け下さい」
ロゼは深く頭を下げて願い出る
慈悲
大会優勝者に対しては大それたとも、ささやかとも言える望み
それに慈悲を入れれば容認しか選択肢は残されていないだが、マグノリアルは声を張って応えた
「我が娘へ仕える願いは一時保留とする。まずは我が目の届く範囲に仕えよ。私は父親として名と武が優れていること以外解らぬ者を娘に仕えさせる気はない。まして、いまだにローブを被りその容姿すら伺わせぬ者は信に足らぬ」
「これは失礼を。お許し下さい。永い時の間待ち望んだ事が目の前に現れ、歓喜に溺れ忘れておりました」
ロゼはそういうとローブのフードの部分を外す
負けたら恥ずかしいという言い訳はもはや通用しないのだから仕方がない
忘れていたのも本当だが、
フードをとると現れたのは頭に白い布をハチマキのように巻いて前髪を止めている黒髪の若い男だった
僅かながらに幼さを持つ顔
目は伏せられているのか瞳の色は、伺えない
「御主、歳は?」
「申し訳ありません、正確には私も知りません。物心着いた頃には親はおりませんでしたので。ただ、師曰く、成長過程から今年で十七ほどだろうと言われております」
マグノリアルの問いにロゼは素直に言う
隠す必要の無いことは隠さないほうが得策となる
これは師と呼んだものの教えだった
会場から十七とロゼの年齢を漏らす声があちこちでざわめきを呼ぶ
これはリグリースの軍人、まだ会場を後にしていなかったクラークも目を見開いて驚く
十代、確かに伸び代がある歳ではあるが、参加者は経験も技術も兼ね備えている二十代後半以降が主流だ
二十代前半や同じく十代も出場するがほぼ腕試しであり、初戦敗退、良くても三回戦までである
十代の若者が決勝進出、まして優勝するなど前例が無いことだった
これにはさすがに誰も口を開くことは出来ず、マグノリアルは前向きに検討するために試験期間を設けたいとだけロゼに言うことがやっとだった
ロゼは再び頭を深く下げ感謝を口にした
マリーローズは静かにそれを見ていた
自分の名が出たにも関わらず、表情を変えず、瞬き以外に微動だにせずただ闘技場を見ていた
その深い海の色をした瞳は、今は輝きがなく、深海のように冷たく静かだった
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