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ある日の光景
手の震えを誤魔化しながら、勇者は肉塊と対峙していた
僅かでも隙をさらそうものならば、たちまちに肉塊は肉片と化し、勇者はその命を落とすだろう
「いや、落としませんからね?」
あきれた顔で勇者を眺める声の主は、まな板の上を人差し指で指し示す
「すでにただの肉塊ではありませんか」
そう、確かにぱっと見ただけでは、まな板の上のなんとやら。この肉塊の運命は調理されるほかにないだろう。相手がこの俺でさえなければ・・・
「こ、このまま料理に放り込むというのは?」
「ルナ様の皿にだけ肉が入らなくてもいいとのことでしたらかまいません」
選択肢があるようで、その実取れる選択は一つしかない
再び肉塊に向き直り覚悟を決めたルナは、勢いよく包丁を振り下ろすのだった
その包丁で指を切りかけたのはいうまでもない