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Act.07 奴隷闘剣士長

「……そうですね、ご飯を食べたら向かいますか」

〔そうしよう〕


 衝撃だった。

 あまりの意外さに、理不尽な仕方で騙し討ちにあったような気になった。

 だってあの見た目だぞ!?

 身長二メートル越えの頭に角生やした筋骨隆々な怪物が本読んでお勉強とかどう想像すればいいんだ俺!?


 熱いヤコブとやらの風評被害ラブコールはさておき、本があるのは非常にありがたかった。

 本、あるいは紙を媒体とした情報の宝箱。

 中身は著者の物の見方や思考によるところが多い。だけども、同じ話題について書いてある本をいくつか読めば、事実の大枠は見えてくる。

 情報弱者である俺にとっては、読むことさえできれば現状一番欲しいものとなる。


〔あー、そうだ。ちょっと、俺に向かって何かしゃべりかけて貰いたいんだけど〕

「?」

〔ちょっと実験が必要で〕

〔喋るといっても……何を?〕

〔そうだね……この目の前にある飯を、事細やかに声に出して・・・・・説明してほしい〕

「……わかりました。行きますよ?」


 ヒナカが俺たちの目の前にあるトレーの上に載った質素な食事について細かいことまで音声として説明してくれる。

 だが俺が見ていたのは、実際はそこじゃなかった。

 というか彼女には悪いが、説明の一切を聞いていなかった。

 では飯の説明をさせたのは何故か。

 答えは〔口〕を見ていたのだ。


 世の中には読唇術という技術がある。

 本来は耳の聞こえない人――つまりは聾者が会話をするために生み出された技術だ。異世界ということはもう疑いようのない事実。なら、持ち得るもので、できるだけの知識を俺は欲していた。


 だが残念。

 ビンゴというわけにはいかなかった。

 希望的観測だったが言語理解が何らかの理由によって発動されておらず、ヒナカの使っている言語が日本語だということに賭けてみたのだが……

 残念。ちゃんと言語理解は発動されていたみたいだ。


 だが、ヒナカが使用している言語は俺の知る言語のどれでもなかった。

 例えるならば、邦画を吹き替えで見た時のような違和感。

 それとは違って音はちゃんと距離によって小さくなっていたが、役者の口の動きと実際に流れている音声での口の動きが違うという点には変わりがなかった。

 ふーむ。これは今後ちゃんと調べていかないと行けなさそうだな。


「あ――あに――兄者、聞いてます?」

〔あー…ごめん、何?〕

「聞いてないですね……」

〔……ごめん。一つ、聞いてもいいか?ヒナカの使ってる言葉って何語?〕

「何語って……帝国共用語ですよ?」

〔こう…なんか正式?な名前とかはないのか?〕

「私の知る限りではないですね」


 なんと……どうにもこの言葉を開発した奴はネーミングセンスが絶望的にないらしい。

 なるほど言語は日本語とは全く違うもの……ね。

 ということは文化関係もすんなりとはいかなさそうだ。将来が心配だ。


 ヒナカと俺は活気にあふれた食事部屋を離れ、ヒナカの意向で寝室にきて早々に寝ころんで借りてきたという本を読んでいた。

 ヤコブとやらは今日試合が入っているとのことで、部屋に戻ってくるのは遅いらしい。


〔それ、どういう内容の本なんだ?〕

〔遊探家と虚遺物についての本ですよ。『遊探家・虚遺物大全』っていいます〕

〔読めるか試してみるか……〕


 ……これは、努力を要するかもしれない。異言語とはそれなりに接してきたつもりだったけども、正直今回のは自信がない。あの得体の知れない力でどうにかならないものか。無理か。


 ヒナカが何かに気付いたらしかった。


「兄者、行きましょう」

〔お、おう〕


 ヤコブとやらがいる部屋は、ここからそう遠くないそうだった。

 実際近く、角を二つ三つ曲がったところにそれはあった。

 中で誰かと揉めているようで、どすどすと足音を立てながら扉に近づいてくる。


〔これやばくない?〕

「やばいですね」

〔隠れるか〕

「そうしましょう」


 この間わずか二秒。

 さながら阿吽の呼吸のような会話かつ動きだった。

 互いに臆病なのだろう。

 壁にべったりとひっつき、扉が開いたときに、裏に隠れられるよう準備する。


「話になりません!あなたのことは上に報告しておきますから!」

「あーもーうっせぇな!?俺は何も知らん!逆立ちしても何も出てこん!帰れ!」


 ばたんと勢いよく扉が開き、危うくヒナカが扉と壁のサンドイッチの具材になるところだったので、念動で勢いを殺す。

 長い紫紺の法服を着た細長い男が、裾を引きずりながら足早に通路の奥に消えていった。


「……ヒナカだろう?入れ」

「失礼します……何かあったんですか?」


 げっ。ばれてたのか。

 というか、どうやって扉の向こうにいた俺たちのことを感知したんだ?

 ヤコブらしき男は深々とため息をつき、椅子に深く腰掛けなおす。


「あのジジイ共、俺をどうにも薬事件の犯人に仕立て上げたいようでな……どうにも上層部の何人かが向こうに買収されてる可能性が高くなってきた」

「それって……」

「ああ。野郎共、そこまでしても勝ちたい理由があるらしい」


 もう一度男は深いため息をつき、今度は立ち上がった。


「まあ夜も長い。茶でもどうだ?」

「前も貰いましたけど……いいんですか?」

「疲れたし丁度話し相手が欲しいと思ってたんでな。ま、ゆっくりしてってくれ」


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