Recall.01 寄る辺
夢を見た。
そう遠くない、昔の夢を。
闘剣場での生活は、なんだかんだ辛いことではなかった。
根なし種族、とまで言われ、はるか昔から世界を転々と移動してきた獣人たち。
人種差別はもちろん、迫害の歴史もある。今でもそうだ。
根源を同じとする宗教から、「救世主殺し」の蔑称を流布されたのを発端に、獣人という種族は苦難の道を歩くことになった。
それからの出来事は語るまでもない。獣人という種族は、都合のいい駒の一つにされてしまったのだ。
だが、闘剣場ではそうではなかった。そこに種による優劣などなく。ただ強いもの、研鑽するものだけが称えられる世界だった。
そこは、私にとって非常に住み心地のいい場所だった。それは、間違いない。今でも、確信をもって言える。
だけど。そんな生き方は、私自身が許せない。だって、私には確かめなければいけないことがあるから。
それに、私の頑張りを見ていてくれた人もいるから。
その人のためにも、私のためにも。
こんなところで、立ち止まるわけにはいかない。
「……さようなら。私が生き続ける限り、あなたも生き続けるのでしょうね。」
「あなたと私は、同じだけど、ちがう。」
「また戻ってくるかもしれない。また泣いてしまうかもしれない。だけどあなたは、そんな私を、許さないでいて。それが、私たちにとっていちばんいいから。」
誰に向けての独白だっただろうか。
誰に向けた独白ではなかったかもしれない。
だけど、そこには誰かがいた。強く在れと叱咤する誰かが。
私だったかもしれないし、誰か別の人だったかもしれない。
だけどもう、私は前に進める。私のことをちゃんと見てくれる人を、見つけたかもしれないから。