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Act.01 闘剣場

 とある南国の半島に、ほどほどに頭がよく、ほどほどに正義感があり、ほどほどに物事をこなせる青年がいました。


 欠点らしい欠点こそなかったものの、まずいことに現地のいざこざに巻き込まれてしまいました。知っての通り、余計なことに首を突っ込むのは、身を滅ぼす一因によくなります。歴史を見てもそういうことはざらです。


 だというのに、彼は変な正義感に身をゆだねてしまいました。結果──言うまでもありませんが──身を滅ぼしました。地雷を踏みぬき、あの世へ。当たり所がダメでした。


                *


 そしたら、どうだ。視界は暗に、気付けば周りは青空に。


(……あー……くそ。夢か……)


 幸か不幸か、俺には得体の知れない力があった。それと、余計なことを考えてしまったいしきも。そして待っていたのは、高高度からの自由落下。むろん、パラシュートもなしで。


 ……自分でも信じられないが、自由落下は超怖かったので事実だったのだろう。そのあと、俺はこの世界の住人らしき人物に拾われた。まぁ、よさげな小遣いを見つけたぐらいの感覚だっただろうが。


 俺はそいつに拾われた後、二、三日後に売り飛ばされた。男は思った以上に俺の価値が低かったことに落胆していた。


 俺を鑑定に掛けた大柄の男は、「装飾の緻密さは申し分ないですが、宝石もないし何よりそもそもの素材が何なのか分かりません。これじゃ資材としての買取すらできないので、良くて銀貨五枚ですね」、と商人の男に告げられ、渋い顔をしていた。


 結果として、俺は数日間質屋に商品として滞在することになった。その間、この世界についてかなりの情報を得ることに成功した。


 そもそもここは、異世界らしい。厳密に言えば、地球ではないどこか。少なくとも、物質が落ちるところを見るに埒外の物理法則が働いているわけではないのだろう。環境も適当であるし、水らしきものが液体で存在している。時代が違えば第二次宇宙植民地戦争が起きても何ら不思議ではない世界だった。


 まぁ、自分は指し手にはなれない人間だったが。


 次に、貨幣制度が普及している。しかもかなり広範囲で。基本は金貨や銀貨といった硬貨が使用されており、その流通量も中々といったところ。つまり、何かしらの文明が築かれているということ。金銀複本位制だろうか。だとすれば、少なくとも共和制、帝政ローマ以降の文明に類するものがあるとみても問題はないだろう。


 そして、その貨幣を使うのは人間だけではないということ。もちろんただの哺乳類といった意味ではない。亜人――獣の耳を持った人間や、耳の異様に長い人間、、浅黒い肌を持った比較的背の低い人間などと言った、俺の知る「人間」とは少し異なる点を持った手合いの人々が息づいていた。


 ……この国は、皇帝制をとっている。つまるところ、俺がいる場所は帝国と呼べる。これは近々「皇帝」の生誕百五十周年祭があるらしく、そこから推測した事だ。


 実は人権というのは、割と最近の発明だったりする。それ以前の世界というのは、今と全く違う倫理観が、「普通」だったのだ。


 もちろん、そうでない人間もいただろう。むしろ、実際にいた。だが、「特別」だった。ここは、そうらしい。


 俺がこの店に滞在できたのは数日だった。その数日後に何が起きたかというと、店が強盗によって襲われた。犯人は複数犯で、なおかつ計画されたものだったらしい。


 夜も更けたころ、強盗はやってきた。手早く男、妻、子ども二人を縛り上げ、誘拐。ここまで三分とかからなかった。そのあと強盗犯たちは店にある金目のものを丁寧に掻っ攫い、静かに夜の街に消えていった。


 この時掻っ攫われた金目のものには、当然俺も含まれていた。そして店から掻っ攫われた俺たち金目のものは、町の中心部にある闘剣場コロシアムに運ばれ、すべてそこで卸された。


 ……それが、今の状況。俺は、この闘剣場の貸し出し武具として部屋の一角に置かれている。


 この闘剣場は、さながらローマのコロッセオの異世界バージョンといったところだ。奴隷に身を落とした者たちが、闘剣士として命を懸けて主人のために金を稼ぐ。そこで敗れた者には死か、あるいは観客の「情」とやらに即した次の戦いか。見世物は六日間隔で行われ、行ったきり帰ってこない者がほとんどだ。


 一人の男が松明を片手に部屋に入ってくる。精緻な装飾が施された俺を、お守り代わりにでもと思ったらしい。男は部屋を出て、錆びた槍や刃の欠けた剣を持つ仲間のもとに向かう。鉄格子の向こうには広大な処刑場フィールドが広がっており、その上には、観客が首を並べて闘いを心待ちにしている。


 そして今夜の闘いショーが今日も始まる。そんな戦いを見せつけられるのが、俺の今の置かれた状況だった。


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