『いつもの日常』
『
授業の終わるチャイムが学校中に響く。
「今日はここまで、宿題は明後日までに提出するように」
少し初老の色のない先生がそう言って教室を出て行った。
「…………」
授業中で静かだった生徒達がガヤガヤと騒ぎ出す……時刻は12時、お昼ご飯と昼休憩だ。
「さて、と」
俺は自分で作ってきた弁当を取り出すと、いつも通り、アイツが俺の元に来る。
「リュウト!一緒に食べようぜ!」
丸メガネをかけて太っているおデブが来た。
「ん」
この男の名前は一万田 高成……毎日俺の近くにいる人間で俺の人生で唯一“色がついている”人間だ、特に拒否する理由もないのでそのまま弁当を食べる。
「お、そのからあげうまそうだ!くれ!」
「あぁ、いいぞ」
「うめー!リュウトが作る料理はまじで店に出せるくらいうまいぞ!」
唐揚げくらいで何を騒いでるんだ。
「……」
こいつは黙々と食べていても話しかけてくる。
「そういや貸してたゲームした?」
そしていつも何かしらアニメやゲームを貸してくる……まぁ、家に帰って1人なので暇つぶしにはなるのでいいが。
「あぁ、クリアした」
「そこから先が__」
「全部コンプリートした」
「くそ!今回も3日持たなかったか!自信あったのになぁ」
「……」
「リュウトってホント何でも出来るよなぁ」
「……」
それは否定しない。
俺は物心ついてる頃からやれば何でも出来た。
もちろん、最初は初心者なのは変わらないが気がつくと出来ている。
「はぁ、何でも出来ない俺と真反対で羨ましいよ」
「……」
だがそのせいで俺は気がつくと“色が見えなくなっていた”
子供の頃は見えていたので大まかな物は解るが、今は灰色だ。
医者からは精神からくる色弱と判定されている。
「てことで次はこれだ!」
「……本?」
弁当を食べ終わり出してきたのは一つの本。
「ラノベって言うんだ!よくよく考えたらお前色弱だからアニメとかよりこう言うのがいいかって思ってな!」
「ふーん、異世界に転生したら……また異世界ものか」
「そりゃそうよ!◯ーバーロードしかり!◯ゼロしかり◯ライムしかり!今宵は今!異世界ブーム!」
たかのりはふざけて両手を広げながら言うが、これは確か__
「それ、◯ゼロの「0から」ってところの真似だろ」
「あ、わかった?いやーあそこには痺れたね何たって主人公が何回も__」
テンションが上がり声も少し大きくなっていたのか……たかのりにとっての天敵が此方に来た。
「__ちょっとデブ、うるさいんだけど」
「う……春香さん……」
「……」
彼女はこのクラスの学級委員、そして……世間で言うところのギャル、不良?というジャンルだ。
「まじありえないんだけど」
「う……うん」
「たかのりの何が悪かったんだ?」
「え」
これは俺の本心だ。
「いや、話していた時、こいつがそんなに大声とは思わなくてな、それならあそこにいるお前と仲がいい連中の方が声がうるさかったろ?」
そう言って俺は教室の後ろで騒いでた不良達を指差す。
「あ?」
どうやら俺達の話を聞いていたみたいだ。
「ちょっとちょっとリュウトちゃん聞き捨てならないねぇ」
不良達がゾロゾロと俺の方へ来た。
「俺達がうるさい?喧嘩売ってんのか?」
「……」
「ち、ちょっと」
俺が胸ぐらを掴まれ無理やり席を立たされ、たかのりは俺の後ろで怯え、なぜか春香は止めようとしている。
「なんでも無いのよだから乱暴は__」
「__どうしてこんな行動をするんだ?」
春香の静止を気にせず俺は気になることを聞く。
「は?」
「俺は単純に、高成よりも騒いでいた対象を春香に教えただけだ、なのにどうしてそれだけでこんな行動を取るまで怒ってるんだ?」
「てめーがうるさいって挑発して来たからだろうが」
「挑発?」
やはり理解できない、あんなものが挑発になるのか?
「そうか、ならごめん、謝るよ」
「謝りゃぁいいってもんじゃねぇだろ?」
「はぁ……」
ため息が出る。
仕方ない、喧嘩がしたいなら付き合ってやるか
「おま__」
「__もういいから!」
「「!?」」
お前が喧嘩したいなら付き合ってやるって言おうとした瞬間、春香が大声を出した。
「……」
「……」
クラスはシーンとなり視線が俺達に向けられる。
「もういいから……私が悪かったのよ」
春香は耐えられなくなり涙目になって教室を出て行き不良グループのリーダーが「あ、おい待てよ」と追いかけていった……うん、一件落着だな。
「……」
「……」
周りの注目もあり、他の不良グループは自分の席に戻って行った。
「それで、今回のこの本も何か特殊な能力系か?」
「い、いや、何事もなく話すのか……」
「?」
他のクラスの奴らも何事もなかったかの様に話し始める。
高校生にでもなるとみんな他人行事だ、本人達で何とかするだろう、と。
「ほら、な?」
「お、おう、てかどうするの?」
「何が?」
「その……お礼参りとか来られたらどうしようって」
「その時は気にするな、俺が助けてやる」
「……」
「なんだよ?」
「いや、アニメの主人公みたいな臭いセリフ言ったの自覚ある?」
「そう言うのが好きだろ?」
「ま、まぁね、ハハハ」
「ん?あれ?」
俺の脳裏によぎる“誰か”……
「どした?」
「いや……臭いセリフ……」
なんだろう、何かひっかかる……
「?」
「いや、なんでもないよ」
それから何事もなく進む日常。
色のない何もない面白くない日常。
あぁいっそ……この本みたいに異世界に転生してみようかな……
』





