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異世界転生したら女になっていました!  作者: しぇいく
最終章

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616/644

『よく頑張ったわね』

 「……」


 天高くそびえるビルの中__ユキはエレベーターに乗り込み、ゆっくりと上層へ昇っていく。


 「封印されていても……都市の機能はまだ生きているみたいですね。助かりました」


 {最上階です}


 アナウンスが鳴り、静かにドアが開いた。


 「…………やっと来たか」


 「はい……最後の魔王__アビさん」


 最上階の部屋は、まるごとひとつのホール。


 床一面に敷かれていたはずのレッドカーペットは、いまや無残に裂け、黒く煤けた破片が点々と散らばっていた。

 中央に置かれた豪奢なはずの椅子もボロボロになっている。


 そこに座していたのは魔眼を発動させ続けているアビだった。

 嫌な汗が滲み、呼吸も荒い。


 「待っていたぞ」


 「単刀直入に聞きます……【始まりの審判】の儀式場はどこですか」


 「この上、屋上だ……あの階段を上がれば行ける」


 「そうですか」


 ユキが歩み出そうとした、その瞬間__


 「っ……!」


 脳内に“未来”の映像が流れ込んできた。


 「……」


 「……アビさん」


 「なんだ」


 「まだ、人を抱えて歩けますか?」


 「……どういうことだ」


 「アナタが魔眼で止めている敵……私が相手をします」


 「!?」


 「……いえ。私が相手をしなければならないみたいです」


 「お前、死ぬぞ」


 ユキは否定しなかった。

 その沈黙のまま、アオイの身体をアビの前に置き__深く頭を下げた。


 「お願いします」


 「…………まさに、この部屋、この場所で俺はコイツに敗北した……その怒りを、怨みを忘れたことはない」


 「解っています……でも、もうアナタしか居ないんです」


 「……」


 「お願いします……未来を……お母さん達を……お願いします」


 本当に、この選択しかなかった。


 「…………どいつもこいつも、仕事を押し付けやがって……俺は魔王だぞ」


 そう毒づきながらも、アビはアオイを抱き上げた。


 「ありがとうございます」


 「………………《プルン》だ」


 「……はい?」


 「報酬のない仕事は御免だ。全てが終わったら__ミクラルの《トマトゥプルン》を三十個、買ってこい」


 「フフッ……分かりました。約束します」


 「フン……」


 短く鼻を鳴らすと、アビはアオイを抱えたまま階段を上がり__闇に消えていった。


 「………………」


 取り残されたユキは、静かに拳を握りしめた。



 そして――


 {最上階です}


 起動するはずのないエレベーターが、ゆっくりと音を立てて上昇してきた。


 「……」


 ユキは即座に杖を構える。

 扉が開いたその先に現れたのは――


 『____』


 「……『サキュバス』」



 ピンク色のスライムの球体だった。

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