封印された都
《スコーピオル》
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「……」
空気が変わったのを感じて、ゆっくりと瞼を開く。
「……静かですね」
本来なら、吸血鬼族たちが忙しなく動き回る都市。
けれど今は気配すらなく、ただ霧が辺りを覆っていた。
「それに……あの太陽……魔法ですかね」
空に浮かぶのは、近く、そして小さな“偽りの太陽”。
都市全体を淡く照らし続けている。
「……お母さん」
ユキは腕に抱いたアオイの顔を見下ろす。
まだ目を閉じたまま__それでも、その姿はいつものように美しく、可憐で。
「やっと、ここまで来たよ」
彼女は歩き出す。
静けさの中、ぽつりぽつりと語りかけるように。
「覚えてますか? 初めて会った時のこと」
当然、返事はない。
「じぃじが“お母さん”って言った時……私、本当は知ってたんです。本当のお母さんじゃないって」
幼い頃の記憶__本当の母の顔。
アオイと会う前のはそれだけが支えで、同時に心をえぐり続けてきた。
「私は、いつも泣いていました……どうして母は私を捨てたんだろうって」
毛布の中で声を殺して泣いた夜を、ユキは何度も繰り返した。
「じぃじは気付いていたんでしょうね……だからあの時“おかぁさん”を連れて来てくれた」
孤独と涙の毎日の中で――アオイと出会った。
「あの時、アナタも困ったでしょう……でも、アナタは言ってくれた」
「……“ただいま”って」
堰を切ったように、涙が溢れた。
「それからの毎日が楽しかった……アナタの知ってる私とは違うでしょうけど……私にとっては、アナタがかけがえのない“おかぁさん”なんです」
「……おかぁさん……おかぁさん……」
もう声にならない。
ユキは泣きながら歩き続け__
「……大好きです。ありがとう。おかぁさん」
心の底からの感謝を捧げ、涙をぬぐって__また歩き出す。
そして____
「ここが……“アレ”のある場所」
スコーピオルの中心。
元魔王城へ辿り着いた。





