戦
《ミクラル城 城壁》
「にしても、気持ちわりー光景だな」
城を囲むように高くそびえ立つ城壁の上からトミーはドーム状に隙間なく埋まってうごめく魔物達を見る。
もはや何がどんな魔物かも分からなく外からの光もシャットアウトするほどだ。
例えるなら虫の死骸にたむろう蟻達。
{本当ね〜}
通信から聞こえてくるのはたまこの声。
{こんなに数を相手にするのはアヌビス族とフェアリー族が共闘して挑んできた時以来、ですか?}
もう1つ映像が現れ出てきたのはマーク。
「あーおい?てめーは何も知らねーだろうが」
{いえいえ、我が一族の宝物庫には《記録》という宝もありましてね、物ではないですが立派な宝物です}
「あーおい?そこに俺たちの記録があったのか?」
{えぇもちろん、その時の担当だったマクリ様とアナタの戦いも事細かく記録されていましたよ}
「あいつ……サボってやがったのか」
{ほう、それは俺も見てみたいな}
{あら〜レナノス〜}
次に通信に入ってきたのはレナノス。
{俺は師匠から昔の話はあんまり聞く余裕がなかったから}
{もしも今日の戦いが終われば私のアジトに案内しますよ}
{それはいい!是非頼むよ}
{私も〜}
「……」
通信で話しているレナノス、マーク、たまこを聞いていて違和感を覚えるトミー。
「(あーおい……よくよく考えると俺以外ここに次世代しかいねーじゃねーか!ボスもユキとか言う若造に譲ってるし、マクリの奴もアオイ様に……いやだが、今回は流石にアオイ様が居ないから紋章が無くなったと言えどもマクリの奴が来るだろう、アイツが居て安心するのも癪に触るが他がおっちんじまっていねーなら仕方ねぇ)」
だがトミーのそんな考えも虚しく通信に出てきたのは若い獣人だった。
{遅れて申し訳ありません、この度、鬼神の名を次いだマクリ様の孫、アイと申します、まだまだ未熟ですがこれから先、よろしくお願いします}
「な!?」
{あら〜、龍牙道場の師範のお孫さん?同じ獣人同士よろしく〜}
{マクリさんの孫とはこれはまた心強い}
{あの師範には兄者がお世話になっていた}
{恐縮です……私もようやくお祖父様の背中の大きさに気付きました}
「(ま、まじか……あいつまで……歳を取らないとは言え、これは俺も本格的に跡継ぎを探したほうがよさそうだな)」
そしてついにユキが通信を開始した。
{みなさん、準備の状況はどうですか?}
その瞬間、みなの顔が引き締まる。
「あーおい、言われた通り、ナルノ町全体の建物を触りまくって要塞化、そして城壁も作ったぞ」
{俺の方も影分身を使い、町に配置している}
{私も宝物庫の中の物をトミーさんに武器化してもらい、レナノスさんの影分身を武装}
{こっちも〜町のあちこちに魔皮紙を貼ってもらったからその範囲は回復可能よ〜}
{アナタに言われた通り、城の外へ出て今は町の中にいる}
{把握しました、では今から国王が最下層から出ます、それから1分後……ナルノ町の結界は崩れ落ちるでしょう}
「……」
全員がその意味を解っている。
数百……いや、数千万という多種多様な魔物をたった5人で迎え打つと言うのだ。
{……}
「あーおい……なんだ、孫」
ユキの言葉を聞いて少し不安な顔をしたアイに話しかけるトミー。
{?}
「お前は何も考えずに戦闘を楽しめ」
{え……?}
「初めてだろ?1人でこんなに相手するの」
{そ、そうですが……}
「だから楽しめ、今のお前の周りには別に倒しても命なんかねぇ影で出来た人形しかいねぇ」
{どういうことですか?}
「だから全力を出せって言ってんだ、今までの建物や仲間を気にしたセーブする戦い方じゃなく、思いのまま気の向くままに破壊しつくせ」
{…………お祖父様がそうだったんですね}
「そうだ、鬼神なんてあだ名はその時に亜人どもが付けただけで、その根源はアイツの戦い方にあった、今のアイツは知らねーが、その時のマクリは戦闘中、常に笑っていたぞ」
{……解りました}
少しまだアイは迷っているようだが、戦いの中で何か見つけるだろうとトミーはそれ以上言わなかった。
{話はまとまりましたね?では____}
{__後は任せました、英雄達}
そう言った後、ユキの通信は切れ。
「さーて、全員ぶっ殺してやるか」
その1分後、ついにナルノ町の結界が破られた。