決断
「君は……確か、ヒロユキ殿のパーティーに居た」
「はい。ユキです、お久しぶりです」
「それと、その女性……」
国王の視線が、魂を失ったアオイに向けられる。
【神の使徒】であるアレン国王はアオイの中にいる者の事情も知っているのだ。
「今は時間がありません。率直に言います__ミクラル城のどこかにある“スコーピオルへの転移魔法陣”を発動させていただきたいのです」
「…………なるほど。しかし、それは出来ない」
「どうしてですか?」
「君がなぜその存在を知っているのか……この際、問いはしない。だが、あの魔法陣を起動できない理由が2つある」
「……」
「ひとつは__魔法陣が壊れていることだ。此方側ではなく、スコーピオルの方が、な。私の友人が帰還しようとしたが……反応すらなかった」
「なるほど……では、もうひとつは?」
「もうひとつは、解っているだろう」
国王の眼差しが鋭くなる。
「この部屋から私が出れば、町を覆う結界は崩壊する。そうなれば、膨大な魔物が雪崩れ込むだろう……人類は終わる。悪いが、人類を見捨てるという選択肢は__例え神が命じたとしても、私は取らない」
「……」
「……」
ユキはその静かな決意を受け止めると、ふっと口元を歪めた。
「……解りました。では__」
ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「__大丈夫ですね」
「……聞こう」
「まず1つ目__魔法陣の修復。これは、アナタにしか出来ないはずです」
「? 何を言っている。此方側ならともかく、向こうの壊れた陣に干渉するなど不可能だ」
「いえ、それが可能なのです……アナタの家に代々伝わる“あの武器”ならば」
「…………まさか……あの剣か?」
「そうです。過去の勇者が作成したと言われる宝剣__【エクスカリバー】」
「馬鹿な……あれは鞘から抜けぬ剣。勇者ヒロユキ殿ですら試して抜けなかったのだぞ」
「えぇ。勇者ですら諦めた剣……当然、あらゆる試みはなされたでしょう。でも__“今”のアナタで試した事は?」
「……そういう事か」
「はい。神の武器へ到達したエクスカリバーは、かつて自らを眠りにつかせた。しかし今のアナタは違う……」
「【神の使徒】としてエクスカリバーを使う、と?」
「その通りです」
「必ず抜ける保証はあるのか?」
「試せば分かります。あの剣は転送魔法で取り寄せられるはず」
「…………グラン」
「はい」
グランが魔皮紙を起動すると、淡い光と共に剣が転送されてきた。
鉄錆に覆われ、赤茶色に朽ち果てた一振り__鞘付きのまま、無残な姿をさらしている。
「……これを手にするのは……何年ぶりになるだろうか」
国王が柄を握ると、ザリリと錆が手に付着する。
「…………」
そして――
「フンッ!」
全身の力を込めて、引き抜いた。
「____!」
その瞬間、赤錆は一気に剥がれ落ち、光の粉となって消え去る。
残されたのは__青く澄んだ光を放つ、美しき剣。
「これが……エクスカリバー……」
国王の手で、伝説の宝剣が再び顕現する。
「………………聞こう、もうひとつの問題の解決策を__外の魔物達に対してどうでるか」
「はい、任せてください」
そう言ってユキは1枚の通信魔皮紙を起動させた。





