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異世界転生したら女になっていました!  作者: しぇいく
最終章

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603/644

『__ね』

 《ミクラル城 地下シェルター B1》


 「それにしても、広いわねぇ」


 ミクラル城と同じ規模の巨大な地下シェルターに、エンジュ達は足を踏み入れていた。


 「しかし、姉御……いいんですかい?」


 「何がだい?」


 「いや、その……」


 部下の一人が複雑そうに言葉を濁す。


 「“お得意様の仕事”を断った件かねぇ?」


 「へい……」


 お得意様――もちろんアオイ達のことだ。

 「指定された場所で待機する」という内容だけの曖昧な依頼。


 「契約更新期間だったからねぇ、肩入れする義理はないよ。地獄みたいな仕事ばかりだったけど、その分一生遊んで暮らせるだけの金も手に入った。十分さ」


 「それもそうっすね」


 それ以上は何も言わずに散歩するエンジュに黙ってついていく。


 広大なシェルターの中は、冒険者用のテントで埋め尽くされていた。

 ミクラルから支給されたもので、中は家具が揃い、一戸建てほどの広さがあるので、何もない地下シェルターで苦になる事は無い。


 「……」


 ふと目に入ったのは現状を知らぬ無垢な子供たち。

 テントの合間を笑いながら駆け回っている。

 親の姿がない。


 ……こっそり抜け出したのか、それとも親はもう__


 「姉御?」


 「いや……駄目ね。職業柄、どうしても“獲物”に見えちまう」


 「へへっ、確かに隙だらけの子供ですぜ。無理もねぇです」


 「……」


 「姉御?」


 エンジュは黙って愛用のナイフを抜き【隠れ歩み】を発動させ、子供たちに忍び寄る。


 「こんにちは、お嬢さん達」


 「ひっ!?」


 遊んでいた五歳ほどの少女を後ろから掴み、頬に冷たい刃を押し当てる。


 「あ、ぅ……」


 「泣いたら殺すよ」


 他の子供たちは声も出せず固まった。


 「駄目じゃないか、勝手にテントを抜け出したりしちゃぁ……怖いお姉さんに連れてかれちゃうんだよねぇ?」


 「あ、あ……」


 だが次の瞬間、エンジュは少女をぱっと解放した。


 「……今回は見逃してあげる。とっとと帰んな」


 「うわぁぁぁぁあん!!」


 子供たちは泣き叫びながら、全速力でテントの奥へと駆けていった。


 「姉御、暇つぶしですかい?」


 「まぁ、いいじゃないかい、この最悪な状況が終われば私達は金持ち。これから先、暇潰しを探すのがメインだからねぇ」


 「それじゃぁ《人さらい回避教室》でも開きますかい?」


 「いいねぇ、元同業者を邪魔するのは楽しいだろうねぇ」


 そんな冗談を言い合いながら歩いていると――


 「あ」


 「お?」


 エンジュ達の進む先、数メートル先のテントの前。

 そこに“でっぷりとした醜い男”と、それを囲む獣人達の姿があった。彼らは資料を手に、笑顔で何やら話し込んでいる。


 「あらぁ、懐かしい顔じゃないか」


 「確か、あれは……何年か前にミクラルで襲った奴らですね」


 「モグリ、だったかしらねぇ。今じゃナルノ町の町長……あの時はエスに邪魔されて逃がしちまったけど、それもいい思い出だよ」


 「へへっ、たしかに。まさかその後、エスさんと一緒に仕事するなんて思いませんでしたけどね」


 「ま、アイツらは私達の顔なんて見たくもないだろう。ちょっと迂回して――」


 その時だった。


 「!?」


 和やかな空気が、一瞬で凍りつく。


 「どういうことかしらねぇ、あれは」


 エンジュの視線の先――囲んでいた獣人の一人が、突然モグリ町長の首を両腕で締め上げ始めたのだ。


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