終わりを打つ者。
「______っ」
気がつくと、俺は海岸の砂浜に倒れていた。
「ここは……」
空は曇り、重たい雲が空を覆う。
薄暗い光の中で、波の音だけが規則正しく耳に届く。
「……!」
視線を走らせた瞬間、砂浜にうつ伏せで倒れているアオイの姿が飛び込んできた。
「アオイ!」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。
その口からはピンク色に輝くガラス玉が、唾液の糸を引きながら砂の上へと転がり落ちた。
「アオイ! しっかりしろ!」
顔色は死人のように蒼白で、かろうじて息をしているものの、温もりがまるで感じられない。
――まるで、魂の抜けた抜け殻のように。
『まるで、じゃなくて――魂が抜けてるのよ?♪』
!?
背筋に冷たいものが走る。
この声……忘れもしない。
「……『サクラ女王』……」
『キャハッ☆ お疲れさま〜♪ 迎えにきてあげたわよん』
俺はピンクの玉を拾い上げ、アオイを抱きしめたまま振り返る。
そこには、真紅のドレスを纏ったサクラ女王が、不敵に微笑み立っていた。
「……」
『ダッサイよねぇ〜? 自分から“アオイちゃんゲ〜ム”なんて言い出しといて、負けるとかマジでウケるんだけど! キャハハハハッ! ざまぁ! ざまぁ見ろっての!』
『私から産まれたくせに調子に乗るからこうなるのよ! 大人しく私に帰ってくればいいものを……ホント、居なくなってくれてせいせいするわ♪ あのクズも、あの魔神も!』
女神は腹を抱えて笑い続ける。
――人の不幸、失敗、そして死を。
それを娯楽にする者が居るとするなら、コイツこそがその象徴だ。
「狙いは……アオイの身体か?」
『う〜ん、半分正解で半分ハズレ〜☆ だってね、その身体なんて、もう必要ないんだもの』
女神は艶めいた笑みを浮かべながら、片手をすっと天に掲げる。
その瞬間、空一面に広がる雲へ巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「な……なにを!」
『キャハッ♪ そんなに身構えなくてもいいのに。ほんのちょっとだけ見せてあげるわ――私の“本体”を』
「……本体?」
魔法陣が光を放つと、円形に雲が消し飛び、空にぽっかりと黒い穴のような空間が開く。
そこから姿を現したのは――
「な……んだと……」
天を覆い尽くす、果てしなく巨大な女の身体だった。
巨大__そんな言葉では計り知れないほどの大きさ。
『驚いた〜? バカそうなリュウト君にも分かりやすく説明してあげる♪ あれは太陽よりも大きくて、銀河系を二つまるごと覆えるくらいのサイズなのよ〜ん』
「……は……?」
言葉の意味は理解できる。
だが脳が拒絶する。
俺の認識の限界を軽々と越えた存在――それを「目にしてしまった」感覚。
『キャハハハ♪ 可愛い顔して混乱してるわねぇ。じゃあ特別に――私の本当の名前を教えてあげる』
女神は唇を紅く吊り上げ、宣言した。
『私の名は【ピリオド】。
――全てを終わらせる神よ』





