『ルカ』
一瞬の出来事だった。
ルコサが危機判断し転移魔法を発動させた瞬間。
ほぼ同時にクロエの腕に見えないほどのスピードでクリスタルブレードが飛んできたのだ。
「く、そ……てめぇ……」
無くなった腕に魔皮紙を押し当てながら、なおも鋭い視線を敵に突き刺した。
『キャハッ♪ なのじゃ♪』
「まだ……そんな力を隠してやがったか」
先程までの両腕も再生し、ルカの全身は神性すら感じさせる“クリスタルの鎧”へと変貌していた。
『あぁ……頭の中が気持ちいいのじゃ』
「いいね……そう言うのを待ってたんだよ!くそが!!」
クロエは踏み込み片腕で大鎌を振る。
『遅いのじゃ』
「ぐっ――!?」
刃が届くよりも前に、クロエの身体は“何か”叩き飛ばされていた。
風圧か、衝撃波か――何にやられたのかすら分からない。
「な、何が起きた!?」
『何って?蹴り飛ばしただけなのじゃよ?』
「な!?」
ルカは狂気に濡れた笑顔を浮かべ、甲高い声で嗤う。
『キャハッ、キャハハハハ!』
「クロ!」
「ルコさん!」
異変を察したルコサが転移で戻ってくる。
「どうなってんだよ、ありゃ……!」
「……あれは『女神』の魔力を取り込んだんだ」
「魔力を……?」
「そう、つまり__あれも『女神』だ」
『行くのじゃ!』
クリスタルに強化されたブレードが煌めき、ルカは一瞬でルコサへ肉薄する。
「っ!」
ルコサは転移魔法でその刃を避ける――だが。
『ここなのじゃ!』
「な……!? 転移先に――っ!」
次の瞬間、ルコサの視界に飛び込んできたのは、突き出される刃だった。
「ガッ……ハッ!」
両手のクリスタルブレードがルコサの胸を深々と貫く。
『キャハハのハ〜なのじゃ♪』
刃を一気に外へ引き抜くと、ルコサの身体は胸から上と下に分かれて崩れ落ちた。
「てめーも死ね!」
仲間の死を嘆くこともなく、クロエはその隙を突いてルカの背へ鎌を突き刺す!
『うにゃっ!?』
「終わりだぁ! おらぁ!」
鎌を引き抜き、真っ二つにしようとした瞬間――
「……なっ!? なんで動かねぇ!?」
『〜♪』
ルカは腹から突き出ている鎌を手で押さえ、その場に立ち続けていた。
『お主たちが言ってたであろう?“核”を狙わなければワシは死なんと』
「っ……!?」
クロエは思わず鎌を放し、距離をとる。
『どうしたのじゃ? これがお前の求めていた“圧倒的な力”なのじゃ。もっと笑顔になって、私と戦うのじゃ――キャハッ♪』
刺さっていた鎌を抜き取り、まるで木の枝のようにポキポキと折り捨てながら、ゆっくりと歩み寄る。
「……ちっ、何言ってんだ……解ってねぇのか? お前、今……『私』って言ったぞ」
『…………』
その瞬間、空気が一変した。
『d/t.azAsAqdpjhaw』
(――中身が違うって気づいたのね)
「あ? 何言って____っ!?」
いつのまにかクロエは首を掴まれ宙吊りにされる。
「あ……がっ……!」
『k(A(jawGG/ayagktx’gemaqkha#haw”v/fy』
(私は女神ルカ、今この場においては誰よりも強い存在よ)
「ぐ……っ……!」
クロエは必死に足で顔面を蹴り、絡みついて抵抗する。しかし、ルカは微動だにせず、その手の力をさらに強めた。
『dt/jwaqjeg.ajhaw”ia’dgEg(G_p&ghjahG』(さようなら、神の使徒。この力を使わせた時点で――お前たちの勝ちだ)
「ぁ……っ……」
最後にクロエは、ただの少女のように涙を零し、目を開いたまま絶命した。
『……』
ルカは死体を無造作に放り捨てる。
『dg.@gm』
(さて、後は――)
振り返ったその瞬間____
『!?』
一本の魔勿う(まがう)槍が女神ルカの顔を貫いた。
『な、に__』
「死ね……クソゴミトカゲ野郎が」
その先には先ほど倒されたはずのルコサの姿があった。





