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人間になった日

 《山亀討伐から1年》


 「……ふぁ〜ぁ」


 「起きたか?」


 馬車を引いている魔物の足音と葉と葉が擦れ合う音を聞きながらルカは目が覚めた。


 「……」


 馬車の中は狭い四畳半程の部屋になっており、トイレなど最低限住めるようになっている。

 壁には大量の棚があり仕分けされた魔皮紙がぎっしりと入っている。

 

 「……」


 「喋れないのか?……奴隷商から特別価格で買ったのはいいけどやっぱり安いのは安いなりに何かあるもんだな」


 そう、ルカは人間の姿で復活した後、奴隷になりこの商人から買われたのだ。


 「ま、でも話し相手が居るのはいい事だ、それに美人だし」


 歳は28か9くらいだろう。

 黒いバンダナを頭に巻いた少し背の高い男の商人はそう言ってルカをジロジロと見る。


 「……」


 ルカの格好は現在【暴れ鼠】と言うアバレー付近に生息する魔物の素材を使った灰色の簡易的な服だ。


 首には65と奴隷刻印が刻まれている。


 「むしろあれだな、喋らないからこそ一方的に話せるから俺には合ってるか?ハッハッハ」


 「(どうしてワシがこんな奴と……)」


 次の指示が来るまで好きに過ごせ。


 それがルカに与えられたボスからの言伝だった。


 「(く……力が元に戻っていれば好き放題暴れてやったのに)」


 さらに人間の体になり大幅な弱体化のおまけ付きにより力を使えない。


 そんな状況でどう生きれば良いのかとエスに聞いたところ舌打ちをしながら手配してくれたのが奴隷の道だった。


 「それにしてもナルノ町まで、あと1日くらいかかりそうだな」


 「……」


 「すまねぇな、本当は手続きしてギルドから転移魔法でくればいいんだがアイツらいいくらいの金を取っていきやがる、時間はかかるがこの方が2倍くらい浮んだ」


 「……」


 「ま、そんなこんなで最近は繁盛しだして景気が良くなったから人手がほしくてお前を買ったわけよ……えーっと、名前が……ルカ……ルカって言うのか、よろしくな」


 「……」


 どうやらマスターは特別価格の理由を愛想がない、教育を受けてないなどと思ってるらしく気にしていない様だ。


 「ちなみに俺の名前は“モヤシ”って言うんだ、親しい人は“もやっさん”って言う」


 「……」


 「はは、聞いてないか」


 そう言うと、モヤシは少し洒落たお皿を出してその上に転送魔皮紙を置いた。


 「……?」


 「腹減ってるだろ?」


 転送魔皮紙から出て来たのは1つのショートケーキ。


 「!?……な!?」


 その光景に思わず声が出てしまうルカ。


 「おぉ、初めて反応を見たな」


 そんな事言ってるのも構わずルカは目の前に突如出てきたケーキに顔を近づけ不思議そうに匂いをかいでいる。


 「食ったことないのか?じゃぁやっぱり奴隷との間に産まれてそのまま育った感じだな」


 同じようにもうひとつ出してモヤシはショートケーキを手で掴んで食べた。


 「食ってみろ、うまいぞ?」


 「……」


 ルカは恐る恐るも同じように手で掴んで口にクリームがつくのも関係なしに一口……食べる。


 「っ!!!!!」


 ルカはあまりのおいしさに目を見開いて2口でたいらげ手についたクリームも舐めまくる。


 「そ、そんなに気に入ったのか」

 

 「(ジーーーーー)」


 「あ、あー……居るか?」


 「!(ぷぃっ)」


 モヤシのケーキを見つめていたルカだが、少し我に帰り顔を赤くさせながらそっぽを向いた。


 「まったく……素直じゃない奴隷だ」


 そのままモヤシは自分の持っていたケーキを食べていく。


 「……」


 ルカは食べているのが見ていなくても解るのか、唾液が口から溢れそうなのを必死に飲み込む。


 「あぁ〜うまかった」


 「……」


 「さて、と腹も膨れたし俺も一眠りするかな」


 モヤシはそのままルカに背中を向けて寝転んだ。


 「……」


 「……」


 ルカは少し悲しそうに振り向くと____


 「!?!?」






 机の上にはホールケーキが置かれていた。






 

 __________これが、人間になったルカの初めてのバースデーケーキ。







 それからの3年間、モヤシとルカは様々な地域へ商売の旅をした。


 次第にルカも人間に心を開いていき、途中、トラブルにあっても2人で乗り越え、喜びを分かち合い、苦楽を共に過ごした……そして





 ついにその日が来た。





 「え……」


 『やっほ〜♪お久しぶり♪元気してた?』


 商売に使う魔皮紙の買い物を頼まれていたルカは帰りに『アオイ』に出会う。


 「あ、え、えと……」


 全身が震える程の恐怖心、ルカは顔を真っ青にしてその場で跪く。


 『うんうん♪撫で撫で』


 周りの人はその光景に何も疑問を持たない。

 いや、持たないように『アオイ』から半径1キロ範囲で呪いをかけているのだ。


 「お久しぶりなのじゃ……ボス」


 『ほんとね〜?それで、どうだった?人間の生活は』


 その質問にルカは包み隠さずに答える。


 「人間は愚かな生き物なのじゃ、些細なことで人間同士で争い」


 「上手くいかないことがあれば憤怒して、欲しい物があれば奪い盗み、他人の幸せを妬み、殺し、美貌を持っている者は利用し他人を騙し、力ある者は弱者を食い荒らす……何とも見るに絶えない人間たちばかりなのじゃ」


 『ふーん?それで?』


 「………………………………………じゃが………その中でもまともな奴は居るのじゃ」


 『……』


 「つつましく謙虚に生きる者、辛いことがあっても耐え続け幸せを得る者、力を持っていても全てのものに平等に考えを持つ者、自分に得が無いのに人を助ける者、汚れのない心の持ち主……自分の欲を最優先せず我慢して他人を思いやる奴らの方が圧倒的に多かったのじゃ」


 『へぇ?♪』


 「それが当たり前の世界だったのじゃ……」


 ルカは今まで会ってきた人間達を思い出す。


 謙虚、忍耐、博愛、親切、純潔、節制……人間はそれらを当たり前の様に行なっている。


 ただ、周りや自分が無意識にしている行動なので当たり前になっているだけ……人間になったルカにはその光景が新鮮に見えていた。


 『楽しんでるねぇ♪』


 「……ワシはこれからどうなるのじゃ」


 『これからを決めるのはアナタ自身よ、選びなさい』


 「選ぶ?のじゃ?」


 『えぇ、そうよ、このまま人間で居るか____』




 



 『力を取り戻し、元のクリスタルドラゴンに戻るか、よ』





 「っ!!!!??!?」





 『さぁ♪あなたの別れ道よ』





 「………………………………………………………………………………………………………ワシは」







 

 

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