殴り合い
「ルコ、なぜここに来た……」
岩盤の上でスナイパーライフルを構え、伏せていたオリバルが後ろにルコサの気配を感じてスコープを覗いたまま言う。
「何故も何も面倒臭い事になったんだよねぇこれが」
「さっき、攻撃をやめていなかったか……?」
「いや、さ、本当だったらオリバが作った隙で俺たちを見失ったあの化物が高いところからオリバを見つけようと飛んだ所を下と上で挟み撃ちにするつもりだったんだけど、なーんか途中でクロが出ちゃって」
「……」
「んで、おかしいなと思いつつも様子見てたら隙だらけになったからチャンスと思っていったわけよ」
「なぜ止めた……」
「クロが邪魔すんなって言ったら刀が自分から止まった」
「は?」
「まぁ、あれだ、試しにその引き金引いてみ?」
「……」
オリバルは持っていたライフルの引き金を躊躇なく引いた……だが、弾は発射されない。
「な?」
「エミ……どうなってる……」
{ごめん、マスター……私、何も出来ない……}
「ま、そう言う事、ね?めんどくさい状況でしょ?」
「確かにな……」
「さて、じゃぁ俺達は俺たちで一応、クロ達の戦いを見ながらやる事やっときますかね」
「あぁ……」
そう言うと二人とも【千里眼】を片目に発動させた____
「りゃぁあああ!!ゴラァ!!」
クロエが思いっきりルカの頬を殴る。
「ぐっ……なんの!なのじゃ!」
反対にルカもクロエの頬を思いっきり殴った。
「ガッ……まだまだぁ!」
お互いに【プラスフィジカルアビリティ】だけを使った再生も治癒魔法も使わない、ただの殴り合い。
「さっさと降参しろや!」
「お前がなのじゃ!」
化物級の威力を誇るルカの拳を受けるクロエも同じくらいの威力で返す。
「(こいつ……素手での力の差はワシと同じ……いや、それ以上なのじゃ!?人間じゃない……神の使徒は人間の皮を被った何かなのじゃ)」
「(チッ、いてぇ……何年ぶりだよ、こんなに効いたパンチ貰うのは……だけどな!)」
「負けねぇ!お前だけには負けられねぇ!」
「ガハッ……何のこと、なのじゃ!」
「グッハ……てめーが覚えてなくても俺は覚えてんだよ!」
「(こいつは!コイツにだけは!)」