『お邪魔しまーす♪』
《ツクヨミの部屋》
「はぁ……はぁ……」
ネオンライトが光るバーのような空間。
その床に腰を落とし、冷や汗を垂らすツクヨミの姿があった。
神の威厳は影を潜め、ただ荒い呼吸だけが響いている。
「……どうした?」
心配そうに見守るヒロユキとジュンパク。
「ら、らしくないじゃん……いつもの、ビッチみたいな余裕はどうしたの?」
「フ……フフ……たしかに……僕がこうなるなんて……いつぶりだろうね」
「……何があった」
「…………不死鳥を僕の世界に飲み込んだ、その瞬間……声が聞こえたんだ」
「声?」
「うん……」
「その声って……」
ツクヨミは視線を落としたまま呟いた。
「……彼女の声……女神の……」
「何て言ってたの?」
「…………『やっぱり私が行かないとダメかぁ』って」
直後。
――バタンッ!
鋭い音が部屋に轟いた。
「「「!?」」」
振り返ると、そこにはピンクハートで装飾された、場違いなほど可愛らしいドアが現れていた。
「知らない! 僕はこんなドア知らない!」
「……と言うことは」
「女神……!?」
3人の全神経が研ぎ澄まされる。
そして――
「「「!!!!」」」
ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!
連打される扉の音が静寂を破り、部屋中におぞましい気配が流れ込んでくる。
「ツクヨミ!」
「分かってる! 今……抑えてる! くっ……何て力だ!」
ツクヨミは必死にその扉を封じようとする。
だがピンクの扉はカタカタと震え、少しずつ開いていく。
隙間から溢れ出したのは、神ですら背筋を凍らせる濃密な殺気――。
「……ジュンパク!」
「うん!」
すかさずヒロユキとジュンパクがドアに飛び込み、ツクヨミと共に必死で押さえ込む。
「……」
「……閉まった?」
「……」
三人の全力で、ようやくドアは閉じられた。
殺気は遮断され、あの不気味な音も止む。
重苦しい静寂が訪れる。
――だが。
『キャハハハハハ♪ 必死すぎ★ こういうの、アオイちゃんの世界じゃ“必死すぎワロタ”って言うんでしょ?♪』
「なっ!?」
「……いつの間に……」
『え? 最初からだよ? だって、みんな気づかなかったの?』
楽しげな声が、耳元で囁くように響く。
『ドアは一度開かないとバタンって音はしないよね?♡』





