落ちろ!
「……」
最初に仕掛けたのは、ヒロユキだった。
「――ふん!」
黒刀がデスフェニックスの巨体――太腿部へ深々と突き刺さる。
次の瞬間、ジュワァッと水が一気に蒸発するような音が響き、白い蒸気が噴き上がった。
ヒロユキはそのまま下へ滑るように体を動かし、切り裂いていく。
だが――
「……っ」
途中で違和感を覚え、すぐさま刀を抜いた。
「……なるほど」
黒々としていた刀身は、熱を吸い込んだかのようにオレンジ色へと輝きを変えていた。
――デスフェニックスの体内は、常識を超える灼熱。
「……ジュンパク、気をつけろ」
「はーい!」
背後からジュンパクが鎖鎌を投げ込む。切れ目へ吸い込まれるように刃が突き刺さり――
{あつ!あつあつあつあつ! あっつい! 嫌ァァァア!!}
頭に直接響くツクヨミの悲鳴がジュンパクに伝わってきたが無視!
「せーのっ!」
ジュンパクは鎖へ魔力を流し込み、稲妻を奔らせる!
だが――
「……やっぱりダメか」
{思ってるならするな!}
電撃は虚しく炎に飲まれ、傷口にすら届かない。
ジュンパクは顔をしかめつつ、鎌を回収した。
さらに――
「……再生能力」
「流石、不死鳥って呼ばれるだけあるね、早い」
ヒロユキたちが斬り刻んだ傷は、もう塞がっていた。
肉が盛り上がり、赤熱した羽毛が再び生えそろっていく。その異様な光景に、背筋が粟立つ。
「――――ッ!!!」
「奴さん、気付いたみたいだよ!」
「……あぁ、そうみたいだな」
デスフェニックスはついにヒロユキとジュンパクを視界に捉えた。
「――――――――!!!!」
咆哮と共に灼熱の翼を広げ、攻撃に移る。
「……来るぞ、ジュンパク」
「うん!」
二人は後方へ身を翻し、一気に飛翔。
背後から迫る巨大な翼の羽ばたきと轟音が、距離を埋めようとしてくる。
スピードは互角――。
「うーん……やっぱりデカすぎるね」
「……」
「でも――勝機はあるかも」
「……試してみよう」
「うん!」
互いに短く頷き合い、二人は進路を大きく変える。
炎に焼かれていない密林の奥へと飛び込み、その影に紛れていった。
「ーーーー!!!」
見失ったデスフェニックスは、怒り狂ったように口から高熱の火を吐き出した。
轟炎が密林を呑み込み、あたり一面を焼け野原へと変えていく。
「……」
その業火の中から――ヒロユキの影が現れた。
「――――ッ!」
デスフェニックスは咆哮と共に火炎を浴びせかける。
だが、手応えはない。
「―――?」
次の瞬間、別の場所から再びヒロユキの影が姿を現す。
さらに、さらに――密林のあちこちから次々とヒロユキが飛び出してきた!
「……これがユキナなら効かなかっただろう」
ヒロユキは魔眼を限界まで酷使し、土人形に幻影を重ねて自分の姿を映し出していたのだ。
「――――ッ!!!」
予想通り、デスフェニックスは幻影に向かって猛攻を仕掛ける。
「……ジュンパク」
「はいよッ!」
その声と同時に、ジュンパクが密林の影から飛び出した。
真下から一直線に舞い上がり、巨大な足へ鎖を巻き付けていく。
「――とりあえず、堕ちろッ!!」
地面へ着地すると同時に、ジュンパクは鎖を一気に回収した!
「――――ッ!?!?」
クリスタルドラゴンに匹敵する巨体が、信じられぬほどの勢いで地面へと引き寄せられる。
大気を切り裂く羽ばたきも、鎖の力に抗うことはできない。
「――――ッ!!!!」
不死鳥は、怒りの咆哮をあげながら――
ついに大地へと叩き落とされた!





