『アンナ死亡』
「それにしても長い洞窟ね」
「アア」
暗く長い洞窟を歩いて行く、どうやら侵入したことにはまだ気づいていないみたいだ。
「ルダのおかげね」
外ではまだあの姿になったルダが戦ってくれているだろう。
でも時間の問題だ、すぐに核まで行って破壊しないと!
「……」
自然に足が速くなる。
そして____
「?」
洞窟の開けたところに来た。
「ここ、広い空間ね」
流石に周りに何も無いとどこに行けばいいか分からなくなるので【光源】を使って光を照らすと
「この部屋……確か魔力供給の…………っ!!!!」
まさか!ここは!
「無駄」
すぐに引き返そうとしたが入り口が塞がれた!
その声……
「ユキナ……」
「……」
私の前に現れたのはユキナの人間の姿だった。
「アアアア!」
「黙れ、愚物」
「イ!?」
危険と判断して襲い掛かろうとした金色ブルゼは周りの“黒いバラ”に絡みつけられた。
「…………黒髑髏薔薇……ここはアンタの胃袋って事ね……」
「正解」
ここは話で時間を稼いで何か脱出する手口を見つけないと!
「私はおびきだされたってわけ?」
「正解」
ここで魔皮紙を構えたりして刺激をすると即座にアウトね……
「……降参よ、命だけは助けてくれないかしら?」
「無理、命令、逆らえない」
ユキナはそう言って少し悲しそうな顔をした……この子、もしかして……
「ユキナ……少し昔話でもしない?」
「時間稼ぎ、無駄」
「違うわよ、私も奴隷だったの……アナタと同じ命令に逆らえない人間の形をした道具」
「……」
ユキナは何もしてこない。
「私はアカネやアオイ達と違って本当にしょうもない理由で奴隷になったのよ、普通に生きててちょっと運が悪くてね」
「……」
「だけど、私にとって人生がガラリと変わる出来事だった、最初は泣いたし、悔しんだわ……命令されてそれをしないと奴隷刻印が反応して痛い思いするし」
「……」
「だけど、私は諦めなかった、普通の生活を」
「普通?」
「そう、普通の自由な生活よ」
「自由……」
「アンタ、山亀の時はどうだったか知らないけどヒロユキさん達の所にいた時はどうだった?」
「それは……」
「幸せだった、でしょう?」
「っ!」
「解るわよ、私もそうだったから……良いわよね、自由って」
「……」
「私は自由を手に入れるために頭を使って抵抗したわ、銃を手に入れるために必死に奴隷という鎖を外そうとした」
「……」
「アンタはどうなの?」
「私?」
「アンタは抵抗してるの?」
「……」
「結果がどうであれアンタは自由を手に入れるために抵抗したことあるの?」
「黙れ……」
「それだけの力を持っていてどうして抵抗しないの?一生強制的に命令されながら生きて行くのが楽しい?」
「黙れ……黙れ……」
「言っとくけど上の人は何も考えてないわよ、働かせて働かせて最後、私達が何も出来なくなったら捨てて次のを用意するだけよ!」
「黙れ!」
気がつくと私は逃げる事を忘れてユキナに話していた。
「そんなんで良いの?私は私でしょ?ユキナはユキナなのよ!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ!」
ユキナは涙を流しながら両手で耳を塞いで座り込む。
逃げるならば今だ、だけど、私は……
「ちゃんと向き合いなさいよ!アンタは自由が欲しいのよ!」
ユキナの片腕を掴んで怒鳴っていた。
「!!」
「泣いて俯いても何も変わらないのよ!全てを失うくらいの覚悟で!自分の為に動くのよ!」
「……」
彼女の顔は人間より人間らしく涙を流してボロボロになっていた。
「もう言わないわよ、今決めなさい、足掻くか、そのまま命令に従い続けて死ぬか!」
「私は!我は!」
『ほーんと、私って抜け目ないわ〜♪』
「!?」
この声!
「アオイ!?」
「!?」
声だけがこの洞窟に響き渡ってくる。
『ご名答!アンナ先輩☆私の魔力を使ってるんだからこんな事するなんて朝飯前よ〜♪キャハッ♪アオイちゃんてーんさーい』
「ご主人様、マスター、神様!」
「っ!?」
私の周りに黒い薔薇がまとわりつく!
「今、今すぐこの女を……」
「ユキナ!」
「うぐ」
私の声でユキナは止まる。
『…………どうしたの?』
「い、今……すぐに……命令、実行……」
『うん♪して?ほら、早く?アンナ先輩を殺しなさい?♪』
「ユキナ!私は抵抗したけどダメだった!でも今ここに居る!でも後悔はしてないわ!アナタは後悔する気!?」
「我は!」
私に絡まってたバラは解けていった。
「我、山亀、違う!ユキナ!」
『ふんふん♪なるほどなるほど、命令違反?そうしてそうしてそのまま退職届だしちゃうみたいな〜?♪いや〜……独り立ちしてくれて嬉しいよ、君達の芽生えた友情には負けた!娘を連れてどっかいけ〜……………………………とか、甘い展開あると思う?』
「っ!?」
「が、はっ!」
な!?魔力が!吸われ……
『言ったでしょ、この身体に通ってる魔力は全て私が与えた物、身体を操るなんて簡単なのよ、私は抜け目がないの……情が移ってハッピーエンドなんて、アニメだけの世界でリアルはこんなもんよ』
「はぁ……はぁ……」
私の魔力を吸って周りに黒髑髏薔薇が咲く。
酷い魔力酔いを起こして、アオイが何を言ってるか考えられなくなった頭がグラグラする……
ユキナは……
「あ……が……」
最後に私が見たのはユキナが自分の身体の中にあるはずの薔薇に串刺しにされた所だった。
最後というのは……
『さようなら、アンナ先輩♪今度サインあげるね?♪キャハッ!』
その後すぐ、私は心臓を後ろから刺され、痛みもなく眠るように絶命したからだ……