ルダ全力!
大要塞の崩壊の中心に居ながら、ルダはアンナと通信を繋ぐ。
{……どう? 死んだ?}
「……いや、どうかね……効いてる感じはなかった。けど、抵抗もなく落ちていったさね」
{何もなければそれでいいけど……油断は禁物よ。外から見る限り、大要塞はユキナを失ったことで完全に機能停止したわ}
「……」
ルダは翅を広げ、上空からその光景を見下ろす。
「……来たさね」
――大要塞が押し上げられる。
その下から、山を割る巨躯が姿を現した。
山亀。
「――――――――!!!」
空気が震える。声帯を持たぬはずの亀が、存在そのものを響かせるように咆哮した。
{……やっぱり来たわね、山亀}
「ユキナと戦う上で、この道は絶対に避けられないさね」
{ブルゼ達の予備は?}
「……あるさね」
再びブルゼ達を召喚し始めた、その瞬間――
「っ!」
山亀の背が光り、甲羅全域から一斉に魔法弾が放たれた!
「なっ……何さね!?」
豪雨のように降り注ぐ魔法は新たに召喚されたブルゼ達を次々と撃墜し、さらにホーミングしてルダを執拗に追い立てる。
{ルダ!}
「今は話せないさねっ!」
甲羅から解き放たれる何千、何万という魔法弾。
その途切れぬ奔流に、ルダは必死に翅を翻し続ける。
やむを得ず魔皮紙を取り出し、超級魔法【断壁】を展開――だが、砕け散るのに要した時間は一瞬だった。
「くっ! 何さね、この魔法……どれも桁違いの威力っ!」
「――――――――!!!」
避け続けるルダの映像を睨みながら、アンナは思考を巡らせていた。
「(この攻撃……アバレーの時は一度もしてこなかった。何か条件があるのかしら? だとしたら、突き止めないと……ルダの神級魔法は全てを歳老いさせる……異常なほど強力。でも、相手が悪すぎるわ)」
相手は山亀。
何千年と生き続ける、寿命すら脅威とならない存在。
「(……となると王道で削るしかない? アバレーの時よりも強化された山亀に、二人だけで? そんな無茶な話ある!?)」
ルダを見る限り、新たに生み出されたブルゼも次々と撃墜されていく。
「もう! ただの歩くデカブツだと思ってたのに、予想外にもほどがあるわ!」
「(甲羅の上での出来事はリュウトから聞いていた、植物人間が居ることも……だからルダの魔法で突破できてた。けど、まさかこんな砲台じみた攻撃までしてくるなんて……)」
{アンナ!}
考え込んでいたところに、ルダから通信が入る。
「ルダ! 大丈夫なの!?」
{今はかなり上空まで離れたさね。流石に雲の上までは届かないみたいさね}
「……そう」
{けど、近づけばまた一斉射撃ださね}
「そう……よね」
{だから私は、今から死ぬ気で奴と渡り合う! その隙にお前は山亀の甲羅から“核”を探すさね!}
「核……?」
{そうさね、昔ルコサに聞いたことがあったさね! 四聖獣は皆、誕生時に“核”を持っている。それを壊せば生命機能は停止するって!}
「どうして今さらそんな重要なことを!?」
{忘れてたさね!}
堂々と放たれたその一言に、アンナは思わず拍子抜けした。
だが――追い詰められて混乱しかけていた思考が、逆にすっと冷えていく。
「ほんと……アナタはミクラルにいた頃から忘れっぽかったけど、歳のせいじゃなかったのね」
{ルコサも「もう倒した後だから言うけど〜」とか言いながら、お酒を片手に何もない時に言ってたさね! アイツが悪い!}
「……それがわかればこっちも動ける! 後は任せたわよ!」
{任せるさね!}
通信が切れる。
ルダは深呼吸し、遥か下方――大地を揺らしながら這う山亀を見据えた。
「さて……私の子宮に残る精子もわずかさね。本当は、この姿には二度と戻りたくなかったが――」
バキバキ、と骨が鳴る音が響く。
ルダの体が歪み、膨張し、黒い瘴気をまといながら変貌していく。
「この相手には……全力で行くしかないさね!」
次の瞬間、ルダの身体はかつてミクラルを恐怖に陥れた“悪魔の元凶”へと姿を変えた。
「アアアアアオオオオオイイイイイイ!!!」
轟音を伴い咆哮を放つその姿は――山亀と並ぶ巨躯。
親玉ブルゼ、そのものだった。
ルダは空を裂き、巨大な影となって山亀へ突撃していった!





