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異世界転生したら女になっていました!  作者: しぇいく
第九章

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やる気のない天才

 「……来た」


 目を閉じていたユキナが、静かに呟く。

 次の瞬間――


 ドォンッ!!!


 要塞の壁が轟音と共に爆ぜ飛んだ。

 砕け散った草木の中から、ゆらりと人影が現れる。


 「……ようやく、辿り着いたわ」

挿絵(By みてみん)

 姿を見せたのはアンナ。

 その装備は擦り切れ、血と泥にまみれ、満身創痍だった。


 「愚か、独り」


 ユキナの声は冷ややかに響く。

 それでも、アンナの目は決して揺らいでいなかった。


 「そうね、ここまで来るのにかなりの戦力を消耗したわ。残った仲間も、私を追ってきた植物兵をすぐそこで足止めしてる」


 「……」


 「途中から気づいてたんでしょ? 私がいるって。でも、アンタは陣形を変えなかった。変えればそこが隙になるから」


 「……」


 「要するに――私だから大丈夫って思ったんでしょ」


 「正解」


 アンナの周囲に、音もなく鋭利な木々がせり出してくる。今にも串刺しにされそうな圧迫感。


 「アンナ、リュウトパーティー、最弱」


 「うわ、ストレートに言うのね……傷つくわよ? ……まあ、事実だけど」


 「事実」


 木の槍が四方八方から迫り、逃げ場はどこにもない。


 「ほんと、殺す気満々ね。一応ジャンル的には私たち、魔王を一緒に倒そうと同じ道を歩んだ仲じゃない?」


 「魔王、意味なし。最初から――この為」


 「最初? ……魔王を倒すって決まる前から?」


 「……」


 「そう……あの頃からアオイの中の『女神』は考えていたのね……」


 アンナは悔しげに目を伏せる。

 どうして気付けなかったのか。どうして守れなかったのか。


 「(ごめんね、アオイ……こうなる前に気付いてあげるべきだった)」


 「話、無駄」


 「そうね……残念ながら、私達は殺し合うしかないみたいね」


 「処理」


 ユキナの声が落ちた瞬間、周囲を囲んでいた木々が一斉に突き出し、串刺しにしようと迫る。


 ____その刹那。


 「来なさい!」


 アンナの足元に眩い魔法陣が広がる。

 光が炸裂し、次の瞬間――その場に立っていたのは、擦り切れた衣を纏ったアンナではなかった。


 「よくやったさね、アンナ」

挿絵(By みてみん)

 姿を現したのは、遠く離れていたはずのルダ。

 彼女は片手を軽く振り上げ、にやりと笑う。


 「ほいっと」


 瞬間移動でユキナの攻撃をひらりと避けると、そのまま低く呟いた。


 「【ベルゼイローション】」


 神の魔法が解き放たれる。

 ルダを中心に空気が震え、辺り一帯の木々も石も、壁までもが一気に枯れ落ち、砂のように崩壊していった。


 「!?」


 災害そのもののような魔法。

 それを真正面から受けてもなお揺るがないユキナの姿に、ルダは愉快そうに目を細めた。


 「流石、大昔から“災害”と呼ばれただけあるさね。私の魔法を食らってもピンピンしてるとは」


 「……なぜ」


 ユキナの声に揺らぎが走る。

 目の前に立つのは、最も厄介な存在――本来なら最優先で排除すべき人物。

 そして入れ替わったのは、先ほどまで“最弱”と切り捨てたはずのアンナ。


 「答え合わせがしたいさね?」


 ルダは意地悪そうに唇を吊り上げ、指先で空をなぞる。

 直後、空間が歪み――ユキナの眼前に、映像が繋がった。


 {ユキナ、判断は正しかったわよ、事実そこに行くまでに何か動きがあれば私を捨ててルダに行ってもらう予定だった、だけどアンタは隙を見せなかった}


 「……」


 {アンタがヒロユキさん達の所に居た時、私たちの事も調べてたんでしょ?その結果私達の中に超級転移魔法を使える人は居なかった、後は情報のない神の使徒のメンバーだけど、私達が逃げてる時に使わなかったから使えないと判断した}


 「……」


 {だけど、甘かったわね……“敵は使えない”けど味方はどうかしら?}


 「!?、まさか」


 {そうよ、私は一度“アナタの仲間が現代にあるはずのない魔皮紙を使って超級転移するのを見ていた”}


 そう、アンナは一度、ミクラルで奴隷の時にエスが使った転移魔法を見ているのだ。


 「一度、覚えた、!?」


 {私は昔から興味を持った物の記憶力は良くてね、それこそ瞬間記憶能力みたいに記憶出来るのよ、ま、興味を持たないとぜーんぜん覚えられないんだけど}


 「有り得ない」


 {ま、確かに完璧に再現することは無理だったわね、魔法陣の形は覚えても素材とかは0から調べて試作を繰り返して出来たのがこれよ、入れ替わりの転移魔皮紙、それが私の切り札}


 「有り得ない!」


 確かに、あり得ない話だった。

 一度見ただけの魔法陣を完全に記憶し、短期間で応用までやってのける。


 そんなこと、天才の中の天才にしか出来ない。


 努力で天才の地位を得たジュンパク。

 純粋な天賦の才を持つアンナ。


 ――だからこそ、両者は決して相容れないのだが……


 {後は簡単よ。私は確かに最弱――そこに辿り着いても、どうせ殺されるだけ。……むしろ、その前に倒れる可能性の方が高かったわ}


 「っ……!」


 {だからこそ、アンタは何もしなかった。最弱の私に何も出来るはずがない、と。……だから私はそこを利用したの}


 「……!」


 {覚えておきなさい。――“弱い”っていうのは、決して弱点じゃない}


 「……っ」


 「――以上が、答え合わせさね」


 「黙れ!」


 ユキナが反撃しようとした、その瞬間。

 だが――周囲の植物たちは一切応じなかった。


 「!?」


 「残念だけど、もうアンタの周りは“寿命”が来たみたいさね」


 次の瞬間、轟音と共に大要塞そのものが崩壊を始める。

 ユキナの装備はボロボロに腐食して崩れ、そして――胸元に付けていた、アオイから貰ったふざけたハートの缶バッジすら、酸化して灰へ。


 「あ……あ、う……あ……」




 ユキナは何も言葉に出来ずに崩壊する要塞と一緒に海の中へ落ちていった……






 

 

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