一点突破!
「動き、変更?」
あの魔物……ヒロユキから聞いた名は――ブルゼ。
ミクラルを恐怖に陥れた悪夢の群れ。
なぜここに現れたのかは分からない。だが今、確かに私の城を攻撃している。
「正面突破?」
ならば、兵を回して阻む――いや。
「……」
待て。ここで此方の陣形を崩せば――
「違う。陽動」
分かりやすい。だが、あまりにも露骨だ。
「あと少し」
胸のバッジから魔力を吸い上げ続ける。
まだ足りない。
普通の人間のアンナはともかく――あの神の使徒。
「全力でなければ危険」
本来なら、突破されるまで何日も稼げるはずだった。
――だが。
「異様、突破力」
急いで植物兵を通して戦況を確認する。
「黄金……?」
そこには――黄金に輝くブルゼの姿があった。
__________
《アンナ視点》
「……」
右を見ても左を見ても――ブルゼ。
アンナは自分の姿を悟られないよう、兵の群れのど真ん中に紛れていた。
「いくら見ても……この姿、慣れないわね」
味方だとしても、おぞましいものはおぞましい。
「オオオオオオオオ!」
その群れの先頭で、黄金に輝くブルゼが吠えながら突き進んでいく。
「アアアアアアアア!」
「声まで気持ち悪い……」
だが、その戦闘力は桁外れだった。要塞の防衛を次々と突破し、道を切り開いていく。
「……この勢いなら、三日もあればユキナに辿り着く。でも……」
ここは要塞の中。休む暇などない。
命を削り合う、本物の戦場。
「……まさか、こんな場所に来るなんてね」
ふっと笑いながら、取り戻した記憶が蘇る。
呪いによって“考えないようにされていた”過去。
「あの頃からすれば、随分変わったものよね」
普通の女として生きていた。
だが、ある日――奴隷になった。
「……よくよく考えたら、本当にバカなことで奴隷になったのよね。でも、それが……私の人生の分岐点だった」
「イイイイイイイイイイ!!」
ブルゼたちの叫びが響く中、アンナは深く息を吐き、走り続ける。
「……少なくとも、昔の私なら――こんな場所にいるなんて、絶対に考えもしなかった」
アンナは思い出す、リュウト達、アオイ達に会って変わっていった自分を__
「……柄じゃないけど、気合入れてやってやろうじゃない!」
アンナは前を睨む。
「待ってなさい、ユキナ……! 裏切ったこと、必ず後悔させてやるから!!」





